スター・A・スター

だから気分はいつも紙一重


あたし、プロミネス・ブルー・ユリアン。
花の17歳にしてレッド・ソルジャー。
ソルジャーってのはね、あたし達の銀河系を統一している銀河連邦−略してG連−の宇宙戦士の中で最高の地位なの。
ただし、ソルジャーにも2種類あって、部隊行動員(通称レッド・ソルジャー)と独立行動員(通称ブルー・ソルジャー)に分けられている。
自分で言うのも何だけど、あたしの実力はブルー・ソルジャーに劣るとは決して思っていない。
実力第一主義のこの世界でなぜこういう措置が採られたのか?
いろいろ理由はあるみたいだけど、表向きはあたしがまだ未成年ということらしい。
法律上、満18歳で成人だからね…。
だからといって、ルナとパートナーを組めってのはあんまりじゃない!?

ルナことグリューネ・ルディーナ・クラスターは、見かけはものすごーくかわゆくて、ホント思わず守ってあげたくなるタイプの17歳の女の子。
しかも、頭脳明晰。知る人ぞ知る、付いてるあだ名は「G連の頭脳」。
しかし、何というか、社会的通念とか常識とか、とにかく、あの子といると非常に疲れる。
それなのに、あの子と組むことがレッド・ソルジャーとしての条件だから無視することもできないのだ。
ブルーソルジャーに昇格するためには、レッド・ソルジャーとしての成績がモノをいう。
つまり、彼女とのチームワークが大切と言うことで…あー、頭痛い。

それにしても、最初の事件−思い出すだけでも腹が立ってくる「ロデール・ダリ事件」−以来、何の任務もない。
それどころかあたし達は所属すら決まってないのだ。
上の方でどういう話になってるか知らないけど、3ヶ月も放っておくなんてちょーっと酷すぎるんじゃない?

「ブルー、ブルー、どこ?」
噂をしていれば何とやら。
「ここ。何か用?」
あたしはもぐらたたきのスイッチを切った。
「ユリアン司令から出頭命令です。」

ユリアン司令とは、レッド・ソルジャー総司令長官にしてあたしの親父様。
これもあたしがすんなりブルーソルジャーになれなかった一因だと思う。
娘にいきなりブルー・ソルジャーで辞令出したりしたら、身内びいきだって叩かれるの、目に見えてるもん。

「所属でも決まったのでしょうか。」
「だといいけど。もう、もぐらたたきも飽きちゃったし。」
そして司令室へ向かったあたし達は、「銀河連邦宇宙交通局第六区安全指導係勤務を命ず」という辞令をもらった。
何よ、これ!
さんざん待たせといて、その挙げ句が「交通巡視員」だなんて、人を莫迦にするにもほどがあるってもんだわ。
けれども、所詮あたしはレッド・ソルジャー。
与えられた任務に拒否権はないのだ。
不満だらけではあったけれど、あたしはルナと一緒に銀河連邦宇宙交通局の統制ステーションへ向かった。

ぶりっこして辞令の申告したあたし達を優しく受け入れてくれたのは、なかなかロマンスグレーな署長さん。
でも、油断は禁物。
うちの親父様も、見かけはナイスな紳士なのだ。
同年代ってことは、どうせお知り合いだろうから、つまりは、同じ類の食えないオヤジ。
「うむ。君たちのことは、ユリアン司令からよく聞いている。」
…ほらね、ぜーったいあたし達のこと知ってるのよ。
「特に、ユリアン。君のパイロットとしての腕前に大いに期待している。」
…あれれ、なんか、話がまともだ。
「君たちの担当は第六区だ。しっかりやってくれたまえ。」
…うーん、この人、もしかして「当たり」?
ちょっぴり明るい気分であたしは、署長室をあとにした。

統制ステーションのターミナルで、あたしは用意されていた巡視艇を受け取った。
外装は標準の巡視艇と変わらないけれど、中味ははっきり言って最新鋭艦並の戦闘機。
何しろ元があのミーティア(流星)号。
どういう経路かは知らないけれど、ここに到着するまでにルナがすり替えたらしい。
あーんな足のとろい巡視艇なんかに乗せられたら、それこそヒステリーになちゃうもんね。
これだけはルナに感謝。

着任すれば、即座に勤務が割り振られる。
…荷物の整理くらいさせて欲しいわ。
しかし、そこは哀しき戦士の性。
「第27巡視艇、発進します!」
嬉々として宇宙へ飛び出していく自分がいたわ。
なにしろ、宇宙へ出さえすればこっちのもん。
定められた空域を定められたコースで回って定時連絡さえ欠かさなければ、あとは自由だもんね。
さーて、何しようかな?

「きゃあっ!」
その静寂は、ルナの悲鳴で破られた。
見ればルナのシートの下から、何やらふわふわしたシマシマ模様がのぞいている。
それはまもなく姿を現すや、ぴょーんとあたしに飛びついてきた。
「しんた!?」
その正体は、あたしの飼っている宇宙たぬきの「しんた」だった。
地球原産のアライグマと似てるけど、それよりか一回りくらい小柄で、しっぽはそれ以上にふわふわしている。
「このコ、ブルーの?」
くりくりしたエメラルドグリーンの瞳を一段と大きく見開いて、ルナはこれまたくったくなくしんたに手を差し出した。
「うふっ、かわいい。宇宙たぬき、でしょ?確か、絶滅寸前の幻の生命体で、人間以上の知能を持っていて・・・そうそう、希には超能力を持つのもいるのよね。」
(お褒めにあずかり、光栄です。)
やばっ!しんたのアホッ!
初対面の相手にいきなりテレパシー使うなんて、あんたには警戒心てもんがないのかっ!?
そう、しんたは、その希なエスパーたぬきで、法律にやたら詳しい。
「わぁ、しゃべれるんだ。わたし、グリューネ・ルディーナ・クラスター。ルナって呼んでね。えーっと。」
(しんたです。)
くぅんとしんたは喉をごろごろいわせた。
「しんた、よろしくね。」
ルナはあっさりしんたを受け入れ、旧年来の友人のように馴染んでいる。
…やっぱり普通じゃないわね。

「緊急事態発生!応援求む!こちらは第4巡視艇。ポイント6−ARにて暴走機追撃中。」
突然のエージェンシーコールに、あたしは頭を素早く切り換える。
「ブルー、確かあの付近は特別保護区があったはずです。」
「そりゃ、困るわ。」
(逃亡される前にスピード違反で現行犯逮捕するのが一番でしょう。交通法第43条5項適用より。)
かしこい、さすが、しんただ。
あたしはエンジンフルパワーでポイント6−ARに向かった。

間もなくレーダーに6機の戦闘機もどきがキャッチされた。
ふーん、結構やるじゃない。
巡視艇は完全に翻弄されてるね。
でも、あたしと勝負するのは10年早いっ!
「ミサイル接近!」
「対ミサイル発射!」
ふっふっふ。あたし達の巡視艇はただのパトロール艇に非ず。
そんじょそこらの戦艦より性能は上だもんね。
ミサイルにはミサイルで応戦しながら、あたしは次に来るべき攻撃の予測を立てる。
オーソドックスにくるなら、レーザー光線あたりかナ?バリアの準備でもしとこ・・・。
「敵機、射程距離まで2宇宙秒。バリア、スイッチON!」
「ブルー、ミサイル使用不可。」
「わかってる。それよか、後方1機、邪魔。ルナ、ベルトっ!」
一気に反転して相手のエンジン目掛けて実弾発射。
まさか旧世紀の遺物みたいなものまで搭載してるとはね。恐れ入ったわ。
「はーい、停止!お次は。」
右の機に狙いを定めて、反転しながら後方の2機もいっしょに黙らせる。
次いで、左に切り返してエンジン封鎖。
最後の1機は、スペースカッターでエンジン切り落としちゃった。
いやー、適度なスピードがあればカッターって武器になるのね。
最初はどのくらい手がかかるかちょっと心配したんだけど、案ずるより生むが易し。
10分もしないうちに6機とも沈黙しちゃったわ。
たかだかスピード違反の切符を切るだけに、この有様じゃ、また何か嫌味を言われそうだな。

本来所管の第4巡視艇が未着なので、あたしはやむを得ず、違反切符を切るために手近な機に乗り移った。
ところが、どこまで往生際が悪いんだろ。
乗り移ったとたん、いきなりレーザーガンに歓迎された。
「ちょっとー、危ないじゃない!」
あたし、運動神経いい方だし、射撃、得意。
余裕を持って避けた上で、反撃した。
勿論、殺すようなことはしない。
第一、麻酔ガンでどうやって殺せっていうのよ。
攻撃が止んだところへルナが分厚いファイルを抱えて入ってきた。
「あ、やっぱり。」
パラパラめくりながらルナはひとりで頷いている。
訝しげな視線を向けたあたしに、ルナは自分の見ていたページを広げて廻してくれた。
「第一級指名手配…殺人犯ドロス・スレイヤー!?」
床に転がってるオジサンの顔を見やると、そのページに掲載されてるのと同じ顔だった。
「うっそぉ。」
なんつー無茶やったんだろ、あたし達。
ドロス・スレイヤーといえば逃亡の際、その筋から戦艦並の宇宙船を奪っていったんじゃなっかったけ。
て、ことは。この船、ただの戦闘機でないってこと?
「対レーザー砲防御バリアの実験は成功、宇宙服のレーザー分解フィールド機能も正常に作動確認、と。」
ルナは無邪気に研究ノートに成果を記入している。
優秀な科学者がパートナーでよかったと思うわ、ホント。

殺人犯の逮捕はあたし達の管轄外だから、そっち専門のパトロール員にお引き取りを要請した。
レッド・ソルジャーの肩書きを使えば護送できなくもないが、取り調べに参加できるでもなし。
うざったい書類を書くのはパス!
最初にしんたが言ったように、スピード違反の現行犯でシラを切り通すのが得策・・・。
切符を切りに来てはじめて「気が付いた」のよ。
…嘘は言ってないもーん。

(第6区は特別保護区や環境指定地域が多いため、犯罪者がよく逃げ込んでくるらしいですね。)
しんたが最近数年のスクラップを呼び出して見せてくれた。
その隣では、ルナが何やら通信機をいじくっている。
「ブルー、ユリアン司令とダリウス署長の交信をキャッチしました。」
あっきれた。特殊周波を盗聴してる。しかし、あれって簡単に盗聴できるシロモノじゃないよね。
ま、深くは追求すまい。
あたしも、その交信に耳を傾けた。
「…そうか、スレイヤーをな。」
親父様の声だ。さすがに情報が早いわ。
「この分だと先が楽しみだよ。思ったよりすっと早く片が付きそうだ。」
この声は、署長さん。なんか、楽しんでない?
「ハハハ。でなきゃ、君のところへ送ったりせんよ。」
「当然だろう。そういう条件でここの署長を引き受けたんだからな。」
「で、こっちへ連れてくるのか?」
「いや、パトロールに引き渡したらしい。スピード違反の現行犯逮捕で押し通したというぞ。なかなか機転の効くお嬢さんだ。」
…なんか、こっちの行動、読まれてない?
「まあ、よかろう。それで、被害状況は?」
「巡視艇が1機。流れ弾に当たったらしい。被弾状況からして、スレイヤーのではないがな。人的損害はナシだ。」
「まずまずだな。」
「上出来だよ。」
「いずれにしても、後始末は本人にさせてくれ。学生ではないのだからな。」
「承知した。」
ちょーっとまった!
それって、あたしのミサイルが当たって損害を受けたから、加害者はあたしってこと!?

「あの、ブルー。」
ルナがたった今到着したばかりの交通局からのメッセージを画面に映し出した。
「第4巡視艇の損害報告に対する始末書を提出しろですって!」
思わず叫んだあたしに、しんたがふわふわとしっぽを揺らして飛んできた。
(ミサイルの型がこの船のものと一致したということですよ。)
そんな。たかが流れ弾、避けてよぉ。
(まあまあ、ほら。)
どこから持ってきたのか、目の前に分厚い公文書の手引きが広げられている。
(ここに書き方が載っていますから。)
「うわっ。頭痛くなってきた。」
格式張った文語体の羅列にマジで気分が悪いぞ。
苦手なのよ、こういうの。
うー、これも全部、親父様の仕組んだことなのよね。
なんだか無性に腹が立ってきたぞ。

「ねえ、ルナ。モグラたたきのモグラって自由に形を変更できるって言ってたよね。」
「ええ。見本さえいただければすぐにできますが?」
「じゃ、これに変えてくれない?」
あたしはレッド・ソルジャー総司令長官の写真を投げた。


To be continued?