スター・A・スター

よいお食事を!(前編)


「まもなくルーズバウエル星系の統括圏内に入ります。」
「了解。管制塔からの応答は?」
「入り次第、ブルーの方にまわします。」
「了解。あー、これでやっと終わる。しんた、ルーズバウエル星の名物は?」
(パテナムと呼ばれるお菓子です。恐ろしく高カロリーなので、あまりオススメできません。しかも、現在食制限がかけられており…)
「ふーん、お菓子ね。」
あたしは努めて平静に答えたものの内心うれしくってしょうがない。だって、甘い物、大好き!

あたしの名前は、プロミネス・ブルー・ユリアン。17歳。
本職は、銀河連邦−略してG連−の名誉あるレッド・ソルジャー。
でも、今は訳あって「銀河連邦宇宙交通局第六区安全指導係勤務」なんていう長ったらしい職務に就いてるの。
しかも、グリューネ・ルディーナ・クラスターという、見かけはすこぶるかわゆい女性とパートナーを組むって条件付き。
彼女、G連の科学アカデミーですら一目置いてる天才科学者なんだけど・・・まあ、愚痴ってもはじまらないか。
で、その隣にいるのがあたしのペット、宇宙たぬきのしんた。
ペットと言っても、しんたの知能はあたし達並にあるし、情報分析に関してはルナとはまた違った意味でエキスパート。
しかも、法律に関しては生きてる字引。更に一般常識に置いてはルナより遙かに上…。
はっきり言って、あたし達のデスクワークはしんたが仕切っている。

さて、あたし達は今、愛機ミーティア号で「物体X」を極秘裏にルーズバウエル星の総合開発局へ輸送している。
そう、これはレッド・ソルジャーとしての任務なのだ。
でも、今回の任務、ルナ宛てのものだったので、実のところ詳しい内容まであたしは知らない。
知りたくもないけどね。うっかり尋ねようものならそれこそ意味不明な科学講義を延々聴かされるハメになる。
あたしは操縦音痴のルナに代わってあの子とその物体Xとやらを目的地に届けるのみよ。
ちなみにこの任務、なにがおいしいかって、惑星到着後、あたしは3日間そのままこの惑星に待機するよう命じられていること。
この前の休暇はルナのおかげでパァになったから、今度こそ自由を満喫してやる。

たかが瓶詰めのジャム1コ、あたしは難なくルナと共にルーズバウエル星の総合開発局へ輸送を完了した。
驚いたことに、開発局はあたし達のために宿泊施設まで用意して待っているという待遇のよさ。
まあ、たぶんにルナの分析力がお目当てなんだろうけど。
ルナも元がそう言うの好きだから、二つ返事で協力を承知して、あっという間に実験室とやらへ姿を消した。
しんたはしんたで、物体Xの公文書の作成があるので、別室に籠もっちゃうし。
そうなると、暇を持て余してるのはあたし一人。
いいもん、一人でもお出かけくらいできるもん。
惑星観光ナビゲータのしんたがいないのはちょっと不便だけど、しっかり観光マップを地元の交通局からコピーしてきたもんね。
あたしは制服を着替え、颯爽と街へ繰り出していった。

地上をあるくのって、やっぱりいいわぁ。あちこちからおいしそうな匂いがするし。何から食べようかな?
観光マップもだけど、ルーズバウエル名物リストも抜け目無く用意してきたもんね。
あたしはメインストリートをぶらつきながら、リストにのっかてる名物を片っ端から食べ歩くことにした。
しんたが言ってたパテナム、もう最高!
新鮮な果物をふんだんに使った生クリーム菓子。口に入れると、クリームがとろーりと広がって、果物と何とも言えないハーモニー。
これって、いくらでも食べれそう。
でも、こればっかり食べてるわけにはいかないから、5個で止めたけど。
そういえば、パテナムに食制限がかけられてるとかしんたが言ってたような…ま、いいか。
なんだかんだで、総合開発局へ戻ったのは真夜中。さすがにしんたがこあかったりして…アハっ。
(ブルー、遊びに来たんじゃないんですよ。)
はい、わかっております、です。
あたしは神妙にお小言を頂戴した。
「でも、あたし、何もすることないし、ルナは勝手に実験引き受けちゃうし…。」
(あれは、任務です。しかも今回の一番重要な。)
へ?そんなこと、あたし知らない。えー!?じゃ、あたしの待機って…。

突然、あたしは下腹部が重たくなった。おかしい。気分が悪い…ムカムカする。あ、駄目だ。
「ごめん、しんた。そこ、どいてっ!」
あたしはしんたのふわふわしっぽを踏みつけ、トイレに駆け込んだ。
本当に信じられないことだが、このあたしが下痢をしたのだ。それも、おそろしく派手。
(ブルー、大丈夫ですか?)
「…しんた、薬、ちょうだい。」
あたしは歩くのもやっとの状態で、半ば這うようにしてベッドに倒れ込んだ。
(ブルー、パテナム、食べましたね。)
恐ろしく機嫌の悪い声でしんたが睨み付けている。
「うん。」と、あたし。
(いくつ食べたんです?)
こ、こあい…。あたしは毛布を引き寄せポツリと正直に答えた。
「5コ。」
(5個!?)
うう…怒鳴らんでくれ…お腹に響く。
しんたの声は実際の所、テレパシーなんで、直接脳に響くのよ。
普段はカットして聞くんだけど、今はそれどころじゃない。まともに飛び込んでくるから、きつい〜。
(本当に5個も食べたんですか?確か食制限掛けられてるから1軒のお店で1個しか食べれなかったはずですよ。)
うう…おっしゃるとおりです。だから、5軒、梯子しました。
テレパシーってこういうとき不利。ただ今制御不能につき、言葉にしなくても全部筒抜け…。
(自業自得です。)
しんたの呆れ果てた顔が目に浮かぶ。
(パテナムは、2ヶ月前、強力なウイルスによってメイン材料の果樹が汚染され、1日1個に制限されてるんです。)
「…そんな、なんで禁止しないのよ。」
(観光惑星に名物の禁止令を出しても、守れないのが目に見えてますからね。安全ぎりぎりの措置です。)
うそでしょ?あ、またおなかが…。あたしはトイレに飛び込んだ。とにかくヒサン。
(物体Xはウイルスの中和剤なのです。ルディーナさんの任務はそれを完全なものにすることです。
中和剤が完成したら、ウイルスばらまき犯を捕らえることが、ブルー、あなたの任務です。)
ひどい…全然教えてくれなかったじゃないの〜。
(任務を聞く前に、街へ飛び出していったのは何方です?)
申し訳ございません。

「ブルー、いますか?」
噂をしていれば、ルナが戻ってきた。
「ちょっと予定より早いのですが、例の犯人のアジトが割り出しできました。」
この子、実験しながらでもそういうことできるのね。やっぱり普通じゃないわ。
にこにこしたグリーンの瞳は「どうしますか?」と尋ねている。
「行くわ。任務は任務。必ず、遂行します。」
あたし、意地になって起きあがるとソルジャースーツに身を包んだ。
取りあえず、出すモノ出したあとだからすっきりしてる。たぶん、大丈夫のはず。
正直な話、もう、これ以上、出すもの、残ってないと思うし。駄目押しにルナ特製の薬も飲んだ。

あたしはにっくきウイルスばらまき犯を捕らえるべく出動した。宇宙に誘い出して一網打尽の予定。が。
予定どおり宇宙に引っぱり出したところでアクシデント。
あたしのお腹、我慢できなくなって敢え無くダウン。
いかにあたしが名パイロットであっても、身体に力が入らなきゃ操縦はできない。
ルナは例によって操縦音痴だし。あの子にさせた日には、それこそ何が起こるかわかったもんじゃない。
しんたはナビが精一杯。あと一息というところで、逃してしまったのだ!
あたしは遠のく意識の中で、宇宙に消えていった光を記憶の底にたたき込んだ。

「ブルー、気が付きましたか?」
あたしが意識を取り戻したのはルーズバウエル星のG連基地内にある医務室のベッドの上だった。
「あいつらは?」
ルナが首を振った。
何てことだろう。よりによって、このあたしが宇宙で犯人を取り逃がすなんて。
「トレーサーを打ち込みましたので、居所は追跡可能です。それより、今は身体を治してください。」
(一時は本当に危なかったのですからね。)
しんたに言われるまでもなく、あたしは深く反省しています。
「ブルーには当分の間、食事療法をしていただきます。ウイルスとの相性が良かったらしくて、この惑星の食品は一切口にできませんから、そのつもりで。」
なんなの、そのウイルスとの相性がいいって?
「他惑星への感染防止のため、中和剤が完全に効力を持つまで、この星は隔離されます。」
あの、それって、余所から食品とか入ってこないってこと?
悪夢だ・・・じゃあ、あたしは何を食べたらいいの?
ミーティア号には非常食積んであるけど、それは正常であるときの話でしょ?
まさか、あたしに断食しろと?
そりゃ、お腹壊したときには、お腹を干すのもひとつの方法だけど。

食事の時間がやってきた。あたしの目の前に運ばれてきた食べ物は。
「何、これ?まるで化学の立体図形。」
お皿の上には、色とりどりの幾何学模型のようなつぶつぶの塊がのっかていた。
顔を近づけてよく見れば、その無数の立体、みんな同じ形をしている。
「…カルロス?」
あたしは信じられないモノを見た衝撃に呆然となっていた。
「あら、ブルー、良くお判りになりましたね。」
「まさか、これを食べろって…。」
「完全無菌、栄養満点。これ以上の食べ物はありませんわ。」
真顔でああもキッパリ言われると返す言葉もみつからない。
「即席の実験作品なので、味までは付けれませんでしたが、必要な栄養素は全てカバーしてますので何ら問題ありません。」
それって、飼料と同じ課程じゃない。あたしはモルモットか!?
…そうね、ルナの実験被写体としてこれ以上ないほど、あたしは適任なんだっけ。

あたしは水で流し込むようにして食べた。
飲み物まで、無味無臭の蒸留水。酷すぎる。せめてミネラルウォーターにしてよ。
ああ、そうか。水も汚染されてるんだっけ…トホホ。
かと言って、食べなきゃ体力回復しないから、食べるしかない。
もー、最低!
あたしがこんな目に遭ったのも、元はと言えば、妙なウイルスをばらまかれたせい。
おかげで身体は壊す、犯人は逃す…。レッド・ソルジャーになってこれは初黒星よ。
よくもあたしの経歴に傷を付けてくれたわね。
極めつけが、最低の食事!
あたし、絶対にあいつらを許さない。どこへ逃げようと、この宇宙の果てまで追いかけてやる。