スター・A・スター

よいお食事を!(後編)


「ふう…食べた。」
あたしは蒸留水で流し込むようにして、ようやく味気のない食事を終えた。
自業自得とはいえ、お腹を壊して以来、今日で3日間、無味無臭の幾何学立体塊カルロスを食べさせられている。
グルメのあたしにとって、これはまさしく拷問だ。
「犯人はどうしてる?」
「次の行動にそろそろ移ると思われます。」
「で、あたしは?」
「午後から検診。その結果次第で治療法を変更します。」
ああ、やっとこれでカルロスから解放されるのね。
「しかし、犯人達の行動は予定以上に早く、次のターゲットに向けてすでに進行を開始した模様です。」
ルナの淡々とした報告にあたしはダメモトで口を挟んだ。
「このまま放っておくわけにはいかないでしょ?あたしが動いて被害が押さえれるなら、少々のこと我慢する。」
彼女の力を借りれば、検査データを誤魔化すなど造作もないことだ。
ルナはぱたりと手にしていたノートを閉じた。
「管制塔に発進許可を取りに行ってきます。」
やったね!
「ただし、食事療法は続けていただきます。」
出際に一言付け加えるなぞ、抜け目はない。
それじゃ、意味ないんだけどな。ま、仕方ない。仕事させて貰えるだけでも感謝しなくちゃ。いい加減、ベッドの上にも飽きたし。

それから2時間後、あたしはミーティア号のパイロット席にいた。
あー、やっぱり宇宙が一番落ち着くわ。
「ブルー、進路をトワイル星に向けてください。」
ルナがトレーサーの結果を分析して割り出した敵の次なるターゲットを示した。
トワイル星か。ん?あそこは確か、ポトフに似た煮込み料理がおいしかったはず。冗談じゃないわよ。
野菜がウイルスにやられたら名物料理が食べられなくなってしまうじゃない!
「しんた、エンジンフルパワー!20分以内にトワイル星系に入る。」
ミーティア号はその名に恥じないスピードで、宇宙を翔けて行った。
ジャスト20分、あたし達はトワイル星系外軌道に乗っかった。

ルナの指示に従って、しんたがレーダーを監視している。
10分、20分、何も起こらない。レーダーには依然として反応ナシ。
えーっと、この時期この空域を通過する流星群が予定どおりのコースで確認されたのが唯一の変化くらい。
もっとも流星群と言ったって、規模は小さく、小石の集合体に毛の生えてる程度。
あれじゃ、大気中で燃え尽きるだろうから、流れ星の観測はできないだろうな。
「ウイルス反応確認。ターゲット追跡開始。」
ルナ緊迫した声が耳に飛び込んできた。
しかし、レーダーにそれらしい反応はみられない。
「何の反応もないけど。」
あたし、ぽつりとつぶやく。だって、事実だもん。あの流星群以外、何も反応はない。
だが、ルナの目は、気のせいかその流星群を追っているように思える。まさかね。
が、そのまさかが事実だった。
「ブルー、あの流星群をひとかけらでもトワイル星に入れてはなりません。ウイルスに冒されてます。」
「大気中で石と一緒に消滅するんじゃないの?」
(ルーズバウエル星G連基地の前司令官シーガル氏もクレス流星群に同じ判断を下されましたよ。)
ぎっくぅ…。
ルーズバウエル星系に超マイナーなクレス流星群が最接近したのが2ヶ月前。
エリート街道まっしぐらのシーガル氏が突然左遷されたのも2ヶ月前。
両者の因果関係は…ふ、深くは考えない方がよさそうね。
あたしは現実的な話題に切り替えた。
「でも、流星群をくい止めろったって、どうするの?」
「大気圏突入までに流星群を消滅させればいいのです。」
淡々とした口調でルナが言った。
「あ、そ…。」
随分と簡単に言ってくれるじゃない。
流星群を消滅させるってどういうことかわかってるんだろうか?
いくら小規模とはいえ、この流星群は、トワイル星系のレギュラー要員なんですけど。
星系内の重力バランス崩れない?
「ブルー、流星群へ突入スタンバイ。」
どうやら本気らしい。ルナのやることだもん。今更驚いたってはじまらない。いいわよ、やってやろうじゃない。
「クラッシャービーム砲エネルギー充填開始。」
「ちょーっと待った!それって、隕石を灼けってこと!?」
「砕いたのではウイルスが空域に残ります。汚染された隕石群ごと完全に消滅させるのが最も有効な方法だと判断されます。」
「だからって、このビーム砲の直径、いくらだと思ってるの。どんなに頑張ったって、数個まとめて灼くのが精一杯なのよ。
小規模ったって、数百単位のあの小石を、1個々灼けっていうわけ!?」
「流星群突入10秒前。」
あたしの叫びは無視され、淡々とカウントダウンが始まった。
どうせ、あたしに選択権なんてないのよね。やればいいんでしょ、やれば。
「ターゲットスコープ、オープン!エンジン出力最大へ。」
(やる気になったようですね。)
うるさいっ!やるからには、手早く済ますに限るでしょーが。
(流星はどこかの敵と違って銃撃してきませんが、油断は禁物ですよ。)
はいはい、わかってます。
「対惑星ビーム砲発射準備完了。」
「え!?」
「第一陣、突入前に消去します。」
「あれ、完成してたの?」
「いえ、まだですが、これを最終実験にします。」
はいはい、どうとでもやってください。あたしは肩をすくめると復唱した。
「了解。対惑星ビーム砲、発射!」
白熱したエネルギーがスクリーンを覆い、全面に流れていた隕石群が消滅した。
「23.6%消滅。」
あれで2割少々とは、ちょっと手強いかも…。
あたしは気分を引き締めた。

再びスクリーンいっぱいに隕石が映し出される。
「ね、さっきのビーム使った方が効率的じゃないの?」
「急発進したため、エネルギーが足りません。」
あらら、ルナにしては珍しく黒星。
「元々、宇宙要塞用に開発したものですから。」
「げっ。それって、ミーティアごときに制御できるエネルギーなわけ。」
(ありません。1回が限度です。先程の発射で3番エンジンに負荷がかかりすぎて現在閉鎖中。)
そうよね、いくらミーティア号が空母並のエンジン搭載してても、要塞兵器が相手じゃ、反動が大きすぎるわよね。
でも、そうなると、3番なしで隕石を相手にするの?
(腕の見せ所ですね。ブルーの反応速度に期待してますよ。)
こいつら、病み上がりの人間をなんだと思ってる。
とかぼやいている間に、流星群は目前。
「3,2,1,突入!」
同時に隕石接近警報ブザーがけたたましく鳴り始めた。
そりゃ、隕石群のまっただ中にいるんだから、当然鳴りっぱなしよね。
「ルナ、この音なんとかして!」
それでなくても目の前をちょろちょろする流星群をレーザー砲で消滅させるのに気が急いてるんだから。
流星群の中を通り抜けるだけでもかなりの技術を要するっていうのに、あたしはその上で、1個たりとも残さず消滅させなくてはならないのだ。
今更ながら、自分が病み上がりだってことが恨めしい。
ベッドに縛り付けられていた分、体力が落ちているし、勘も鈍ってる。
失敗は許されないだけに、これまでになく緊張してあたしはレーザー砲を発射し続けた。
「現在、消滅率95.7%。この様子でしたら、なんとか間に合いそうです。」
当たり前だ!これだけ苦労してんだから、絶対成功してくれなきゃ、あたしが救われない。
とか何とかボヤいている間にラスト・ワン。
以上、トワイル系からひとつの流星群がその軌道上から姿を消したのである。まる。

「ところで、ウイルスばらまき犯は?」
「パトロールに通報済みです。ほら、あそこ。」
ルナが指さした方向に、お馴染みのパトロール艇が数隻見える。
うーん、あのスピードで走ってるってことは?
(パトロール艇と追いかけごっこしてますね。)
わかりきったことを聞くなって?あたし達、表向きは交通指導員なのよねえ。でも、ここ、担当区外だもーん。
(宇宙の果てまで追いかけて行くんじゃなかったのですか?)
あーあ、しんたまで。
でもね、正直な話、ホントに悔しいけど、ミーティアのエンジン限界なのよ。
フルスピードで走るのは、不可能。あたしのパイロットの勘だけど。
このまま駆けつけても、たぶん取り逃がす可能性の方が高い。2度の黒星はごめんだわ。
「ブルー、星系プロトンミサイルを発射した経験はありますか?」
初めて聞く名前だった。ま、だいたいは想像できるけど。
「あたし、戦艦空母系には試乗経験ゼロ。移動要塞タイプには何度か研修に行ったけど。」
資格とかあまり詳しくはないが、空母系搭載の武器を扱うには特別講義を受けておく必要があったことくらいは覚えている。
「ミーティアに搭載されている星系プロトンミサイルは開発中の未登録品であり、使用制限から除外されます。丁度、星系外から接近中の小惑星が、このままだと航行の障害となる位置でロシェの限界を迎えますので、そうなる前に破壊したところで問題は起こらないでしょう。」
ルナの言った小惑星って、犯人と直線上にならんでない?
もしも、小惑星でなく、隕石群が目の前に広がったら・・・スピード落とすよね。
テストパイロット試験じゃないんだから、フルスピードで隕石群に突っ込むなんてこと、まずしないだろう。
いくらパトロール艇がとろくても、それならあいつら、捕まえれるわよね。
ルナがくすくす笑いながら言った。
「ブルー、ウイルスばらまき犯の逮捕はあなたの仕事です。」
あたしはマイクのスイッチをいれた。
「レッド・ソルジャー、プロミネス・ブルー・ユリアンより追跡中のパトロール艇へ。」
星系プロトンミサイルうんぬんは伏せといて、小惑星が爆発すること及びそれに伴う犯人逮捕の協力を要請した。
「行くわよ!」
あたしは星系プロトンミサイルの軸線を小惑星の予想軌道に併せ、発射した。
星系外において接近中の小惑星は原因不明の爆発により、粉々に砕け、隕石と化した。
ウイルス犯は案の定、爆発に巻き込まれて航行不能となり、御用となった。めでたし、めでたし。
ついでに言えば、その隕石、しっかり流星群になっちゃって、みごと、トワイル星系の一員となっている。
質、量、軌道ともに、ついさっき消滅させたウイルス隕石群とほぼ同じ・・・。
トワイル星系、異常なし。まる。

「ねえ、しんた、この任務成功したんだよね?」
(ウイルス解毒剤物体Xも完成しましたし、犯人も逮捕してもらいましたから、そうなるでしょう。)
「それじゃ、手近なG連基地に寄って報告しなくちゃ。」
あたしは当然進路をトワイル星に向けた。
速度は勿論フルスピード。エンジンが灼け切れようと、無事に着陸できさえすればいいんだもーん。
たっぷり時間を掛けて煮込んだトワイル・ポトフがあたしを呼んでいる。うふっ。
「あ、ブルー、駄目です!」
まっしぐらに大気圏突入した瞬間、ルナが叫んだ。
「何が?」
ミーティアは既に大気圏内。うん、この分だと、逆噴射で胴体着陸だな。
ふふふ、これで新しい宇宙艇が届くまで、この星に足止めだわ。
(あ〜。)
あらら、しんたとルナが二人して頭を抱え込んでいる。
そんなにあたしの腕、信用ない?

ミーティア号は逆噴射させて機体が崩壊する寸前で手近なパトロールラインに着地した。
どう、ばっちりでしょ?
あたしはるんるん気分で席を立った。
が、しんたとルナはまだ席に着いたままである。
「二人とも、降りないの?」
「降りたくとも降りれません。」
ルナがいつになく不機嫌な声で答えた。
「ブルー、流星群がウイルスに汚染されていたのは知っていますね。」
あたしはこっくり頷いた。
「確かに流星群は消滅し、それに付着していたウイルスは消滅しました。が、ミーティア号は汚染状態の流星群の中にいたため、機体外にはウイルスが付着していました。それなのに、ウイルスを除去せずトワイル星に突入。防御スクリーンをを張ったので、トワイル星に被害は及びませんでしたが、ウイルス除去剤物体Xがルーズバウエル星から届くまで一切外部と遮断、機内に留まっていただきます。」
突っ立ったままのあたしに、ルナの辛辣な声が浴びせられる。
そして、しんたがたった今到着したばかりのダリウス署長からのメッセージを読み上げた。
(『犯人逮捕の功績により、トワイル星に置いて3日間の特別休暇を与える。銀河連邦宇宙交通局統制ステーション署長
ロデリック・ダリウス。追伸。良いお食事を。』さすが、ダリウス署長、粋な計らいをされましたね。)
しんた〜、それ、思いっきり嫌味だよ〜。
ルーズバウエル−トワイル間は通常航行だと3日かかる。
つまり、物体Xが到着するまで3日間、あたしたちはミーティア号に軟禁状態なわけで…。
「あのぉ、その間の食事はどうなるんでしょうか?」
あたしの記憶違いでなければ、ミーティア号に食料庫はないはず…。
だって、エンジン吹っ飛ばした時に食料庫も一緒に吹っ飛んだんだもん。
「代用品がありますからご心配なく。」
にっこり笑って席を立ったルナの行く先は、実験室。
戻ってきた彼女の手には、寒天培養されつつある細胞の塊−カルロス−の入ったシャーレが握られていた…。


To be continued?