スター・A・スター

白い闇の向こう側


あたし、プロミネス・ブルー・ユリアン。17歳。
本業は、銀河連邦−略してG連−の名誉あるレッド・ソルジャーなんだけど、諸般の事情により、「銀河連邦宇宙交通局第六区安全指導係勤務」なんていう長ったらしい職務に就いてる。
しかも、グリューネ・ルディーナ・クラスターという、見かけはすこぶるかわゆい女性とパートナーを組むって条件付き。
彼女、G連の科学アカデミーですら一目置いてる天才科学者なんだけど、まあ、いろいろあってね。
で、あたし達は今日もパトロールの任務に精を出すべく犯罪者のリストをチェックしている。
だってあたし達のお仕事は、尻尾を出さない犯罪者を第六区に誘い込んで、スピード違反の現行犯で逮捕することなんだもん。
はっきり言えば、これらはぜーんぶ、ユリアン長官(あたしの親父様)の陰謀だ。
「ブルー、ダリウス署長がお呼びです。」
発信準備完了後、ルナが何やら両手に抱えてあたし専用機ミーティア号に入ってきた。
今度は何の実験する気なんだろ…ま、いいけど。
あたしはよっこらしょと席を立って、署長室へ出頭した。
いつ見ても食えない顔のオジサンだ。
「ソルジャー・ユリアン。G連本部からの命令だ。直ちに第9病院船の主任医師を40時間以内にラウンド星の基地病院に送り届けてくれたまえ。以上だ。」
「…?」
「緊急手術だ。病院船はサルゲ空域にいる。」
はじめは何のことやらわからなかったが、サルゲ空域とラウンド星と聞いてあたしは納得した。
あの間には巨大な暗黒雲があって、並のパイロットでは5日以上かけて大きく迂回するしかない。
あたしはその危険空域をすれすれながらも直線で通過できる技術を持った数少ないパイロットなのである。
レッドゾーンサーキットのチャンス到来、じゃなくて、人命優先の任務にあたしは颯爽と出発した。

うふっ。うふふ…。あー、駄目だ。顔面筋肉が緩みっぱなしでどうしても締まってくれない。
(ブルー、いい加減でその気味の悪い笑い方、止めてください。)
あたしのペット、宇宙たぬきのしんたが何度目かの忠告をしてきた。
んなコト言ったって、これが喜ばずにいられますか。
今回の任務にルナは同行していない。
あの子、どっかに消えちゃって姿が見えなかったから、そのまま出発したの。
なにしろ事は急を要する人命救助絡みだから、探してる暇がなかったのよ。
ナビゲーターにはしんたがいるから問題ないでしょ。
実際、あたしは難なくサルゲ空域に到着し、第9病院船にドッキングした。
病院船のエアポケットではすでに指定された医師があたしの到着を待ち構えていた。
「なーんだ。」
彼はあたしを見るなりあくびをひとつ漏らすと、そのままさっさとミーティア号に乗り込み後部シートを倒して寝ころんだ。
「着いたら起こしてくれ。んじゃ、おやすみ。」
しゃべるのも面倒くさいと言った呈で、それだけ言うとぐーぐー高鼾で眠ってしまった。
その医師が第9病院船にいたのは、そこで緊急手術が行われていたからに他ならない。
さぞかし難解な手術で長時間かかったことでしょうとも。
だけど、これから危険空域を同行するあたしに「お願いします」の挨拶くらいしてしかるべきでしょーが。
(…相変わらず、いい根性してますね。)
さしも穏和なしんたも呆れ顔…じゃなくて、感心してる。
ダメだ、こりゃ。
「発進するよ。」
あたしは諦めてパイロット席に戻り、そのまま急発進。
ったく、本部の連中ときたら!
もう少し調べてから人を動かしなさいよね。
いいわよ。こうなったら、眠らせてなんかやるもんか。
速攻でラウンド星に着いて手術現場へ放り出してやるっ。
そのためにあたしのするべきことは、暗黒雲を一刻も早く突き抜けること。
ふふふ…このミーティア号に乗ったが運の尽き。
レッドゾーンサーキットなんて手緩いわ。
「ワープスタンバイ!」
彼を横目で睨みつつ、あたしはエンジンをワープ速度に切り替えた。

それは、その直後に起こった。
「ちょっとぉ、何なのよ、これ。」
あたしは面くらった。
計器が全てあさっての方向を向いている。宇宙の様子もどこかヘンだ。
本来暗黒で星がチカチカのはずが、真っ白なのだ。
(ブルー。)
しんたがぼそっと呼びかけた。
(エネルギー伝導管が外れてます。)
「えっ?」
エンジンからエネルギー伝導管が外れたままワープして宇宙船が爆発しなかったってことは、あの膨大なワープエネルギーは…どこに消えたのでしょうか?
(ブルー、聞いてますか?)
「マニュアル。エンジンマニュアル、どこ?」
伝導管が外れてるだけなら、マニュアルをみてつなげることは可能だ。
(ルディーナさんの頭の中に決まってるでしょう。出発の前後で構造が変わる船ですよ。マニュアルなぞ作るだけ無駄だと言ったのは、ブルー、あなたです。)
そうだった。この船はタダの船じゃなかったんだ。
普通の宇宙船ならあたしにだって修理くらいできる。
仮にもあたしはパイロット。
空母クラスのエンジンはともかく、自分が乗る可能性のある単機宇宙船はひととおり組み立てられるくらいの知識は持ち合わせてるし、それはソルジャーとして当たり前の教養だ。
しかし、ミーティア号は違う。
元がルナの実験機。言うなれば最新科学の粋の塊だ。
あたしにピッタリ調整された宇宙船であっても、あたしの自由にならない愛機である。
科学局に言わせれば、本来あたしごときぺーぺーのパイロットが扱えるシロモノではないのだ。
(ブルー、通信回線を修理してルナを呼んだ方が。)
「駄目。」
あたしはにべもなく拒否した。
あの子がこの航海で何か新しい実験を予定していることを承知しながら、発進時その場に居なかったのを「これ幸い」と置いてけぼりを喰らわしたのだ。
いったいどんな顔して会えっていうのよ。
しかもそれが人為的ミスによるエンジントラブルのご相談だなんて!
エネルギー伝導管を外したままワープしたのは、エンジンの動作確認を怠ったあたしの操縦ミスだ。
最新マニュアルは、いいわ。となれば、残る手段は…。
あたしはミーティア号のコンピューター端末のキーを叩いた。
そこにはミーティア号の航海記録が漏れなく記録されている。
今の状態は入力されてないかもしれないけど、その1つ前、即ちこの前の実験後の状態は残っているはずだ。
ルナが何をしようとしたのかはわからないけど、その実験は行われていないのだから、実験前の状態に戻すことは可能かもしれないじゃない。
あたしの勘は的中。
ばっちりエンジンマニュアル含めて画面に出てきた。
これさえあれば、伝導管の1本や2本、あたしにだってつなげるはずだ。
筏だって手順を踏まなきゃ帆船にはなれないのだ。
が、甘かった。
コンピューターで呼び出したマニュアルと格闘すること数時間。
あたしはたった1本のねじすらはめられないで、伝導管を握りしめたままである。
「たかがボルトで挟んでネジ締めて、フタするだけでしょーが!何ではまらないのよっ!」
伝導管はどこにでもある汎用タイプ。エンジンだって、外見は普通のエンジンなのに。
なのに、どうやってもはまらないのだ。
ルナにかかると筏は原子力潜水艦に変わるらしい。
「もーっ、やだっ!」
(だから、ルディーナさんを呼んで。)
「駄目。ぜーったいダメっ!」
あたしは力の限り拳を握りしめ叫んだ。
どうやら完全ヒステリーの状態に陥ってしまったらしい。
実際、自分でもどうしたらいいのかわからなくなっていた。

「何やってるんだ?えらく外が白いようだが。」
「う…。」
その場に伝導管を握りしめてあたしは凍り付いた。
なんだって最悪なタイミングで目を覚ますんだ、こいつは。
疲れてるんなら、もう少し寝てなさいよ。
「ふーん、なかなか面白い光景だな。」
優秀な医師であるため常に宇宙を転々として緊急手術に派遣されている彼は、この事態がわからないはずがない。
「で、どうなんだ?」
(どうもこうも、ご覧の通りですよ。)
「エンジンマニュアルは、これか。へーえ、おもしろい構造だな。はじめてみたよ。」
そりゃそうだろう。こんな宇宙船、ふたつとあってたまるもんですか。
「エンジン部が通常とワープ時でそっくり切り替わるなんて、すごいじゃないか。」
「え?」
「それでいて機関部の大きさは通常と変わらない。こりゃ、是非そのエンジンをみてみたいな。」
おい、こら、勝手に機関部へ入るんじゃ…。
部屋を出かけて、あたしはおもいっきり何かにけつまずいた。
「ったーい!もう、誰よ。こんなとこに荷物置いたのは!」
そこに転がっていたのは、黒い箱。
確か、出発前ルナがこれを抱えて入ってきた…よね?
聞いてもあたしには意味不明な物だから、いつもと同じく聞かなかったけど。
あたしが躓いて痛む足をさすっている間に、彼は戻ってきた。
「暗黒雲に突入するとき、どっちのエンジンをつかったんだ?」
「ワープエンジンよ。」
「エンジンがないのにか?」
「はぁ!?」
いくらあたしだってエンジンなかったらワープできないわよ。
第一、エンジンの反応がなけりゃ…ちょっと待って。
この船のエンジン、通常時とワープ時で切り替わるって言ったよね。
そうだ、この前の航海の時からそう言うシステムになったんだ。
ワープする度にエンジン質力を上げるのに無駄な時間がかかるのイヤだって言ったら、ルナがそういうシステムにしてみようって発案して、2種類の馬鹿でかいエンジンを取り付けたんだった。
そうしたら、宇宙船のフォームがいびつになって格好悪いから、サイズを小さくできないかってあたしが言って、それから…今回の任務が回ってきたんだ。
だんだん思いだしてきたぞ。
「ワープする可能性がゼロでないのに、エンジンを外したままにしといたのか?」
「ルナがそんな中途な事するわけないでしょ。代わりのエンジンを取り付けるか、それが間に合わないならワープそのものが出来ないようにシステムでストップかけるわよ。あの子、こういうトコだけは妙に几帳面なんだから。」
「でも、現実にはそういう事態にあるんだろ?」
「うう…。」
ルナのばかぁ。
「で、そのお前の足元の箱、なんだ?」
彼は例の箱を指さした。
「知らない。ルナが出発前に持ってきてそのままにしてる。」
「中味、知らないのか?」
「知りたくもないわよ。あの子の実験材料なん…て…。あーーーーー!まさかっ!?」
あたしはがばっと箱に手をかけると一息に中味を取りだした。
やった!大当たり〜。超小型ワープエンジンみっけ。
接続部は、あれだけはまらなかった伝導管にぴったりきた。
(…だから、ルディーナさんを待ちましょうって言ったんです。)
あたしはじろっとしんたを睨みつけて黙らすと、そそくさと機関部へそのエンジンを持っていって取り付けた。
伝導管との接続なんて、子供の工作と同じだ。
はまる所に差し込んで、ネジで締めて、漏れがないか確認して、それでおしまい。
実にあっけなく終わってしまった。
試しに動力スイッチを入れてみると、エネルギーが流れていくのが確認できた。
「おっけー。接続完了。次元ワープするよ、しんた。」
(随分簡単にいってくれるじゃありませんか、ブルー。その計算がどれほどの労力を要するかわかって言ってるんでしょうね。)
しんたは優秀なナビゲーターではあるけれど、正式な航海士ではない。
この手の大がかりな航路計算は、ルナの担当だ。
「えーっと。」
(今度こそ、ルディーナさんと連絡を取っていただきます。)
「しんたぁ〜。」
一難去って、また一難。
あーぁ、宇宙って、こんなにも白かったのねー。

多少の時間的ロスは生じたものの、あたしは予定より早くラウンド星に到着した。
その間、ざっと29時間。
エンジントラブルでのロスが約7時間だから、単純計算でも22時間はワープ空間にいたわけだ。
ワープに継ぐワープで、さしものあたしも神経すり減った。
だって、だって、ルナと連絡が取れなかったのよ〜。
亜空間において、通常通信回路ははっきり言って役立たず。
(つまり、あたし達はワープエネルギーの暴走で亜空間へ紛れ込んでたのだ。)
そう言った異常空間で仕える交信手段ば、テレパシー以外には今のところ解決策が見つかっていない。
あたしのテレパシーは自他共に認める特A級。なのに、その欠片すらルナには届かなかったのだ。
ルナの計算が当てにできないとなれば、あとはコツコツしんたに計算してもらって、小出しにワープして脱出路を見つけるしかない。
ええ、やりましたとも。
だって、あたしには40時間以内に第9病院船の医師をラウンド星に送り届ける任務があったんですから。
こればかりはソルジャーの名にかけて、絶対やり遂げなければならないことなのよ。

ラウンド星に到着したとき、あたしは神経すり減らしてよろよろ、しんたも同じく極度の精神算術疲労でぼーっとしていた。
任務対象の医師殿はというと、その間寝たいだけ安眠をむさぼってたから、実にすっきりさわやかって顔してたわ。
彼は、あたしに勝るとも劣らない操縦技術を持ちながら、何にも手伝ってくれなかったのだ。
「ブルー、帰りも頼むよ。親父の許可は取ってある。なに、始末書を書きながら待つにはちょうどいい時間だろ?」
兄、エディ・ユーナスは、颯爽と手術控え室へスタッフと共に消えていった。
「始末書って…どういう意味よ。」
あたし、時間内に送り届けたわよ。それもすぐ、手術に使える状態で。
(亜空間に迷い込んだ時、私達はまったく異常を感じなかったでしょう。あれはそのエネルギーを他の空間へ放出したからです。当然、不当なエネルギーを受けた空間には歪みが生じ、至る所で航路変更を余儀なくされているそうです。ルディーナさんはその修復のためにこちらへ向かっている最中だとか。)
航路変更って…それって、公の航路を変えさせたってこと?
あの、綿密に作り出されたタイムグラフを、変更させちゃったのぉ!?
変更を余儀なくされた船によっては、予定どおり目的地に着かなかった可能性だってあるわよね。
いったいどれほどの損害が発生することだろう。
(例の用意はしてありますから、自分でしてください。わたしは寝ます。おやすみなさい。)
言うが早いか、しんたはしっぽを枕にスヤスヤ寝息をたてはじめた。
「しんたぁ。」
机の上には、G連六法と白紙の始末書用紙がでーんと置いてあった。


To be continued?