スター・A・スター

星のコレクション


あたし、プロミネス・ブルー・ユリアン。
もうじき18歳の17歳にして、職業は銀河連邦−略してG連−の名誉あるブルー・ソルジャー。
現在、探査宇宙船ネオ・プラネット号の艦長に就任して外宇宙開発プロジェクトの総括なるものをやっている。
この任務に就くちょっと前、兄エディ・ユーナスが、何をトチ狂ったのか、G連最凶の天災科学者グリューネ・ルディーナ・クラスター−通称ルナ−と結婚した。
エディ・ユーナスは元々あたしの天敵だったけど、その上ルナが加わった日には・・・。
でも、でも、任務を遂行するためには忍び難きを忍ばねばならない。
だから、あたしはエディ・ユーナスを副艦長兼船医に、ルナをネオ・プラネット号の技術顧問に迎えた。
ふたりとも性格はともかく知識と技術は確かだからね・・・。

あたしがそのことに気が付いたのは、ホントに偶然からだった。
「ルナはサファニア星人だよね?」
「ええ。」
「サファニア星では既婚か未婚か区別するものってあるの?」
「それは、シャドウ星でいうところのマリッジリングのことでしょうか?」
「まあ、そんなとこ。」
ルナの両耳にはパールのイヤリングが見え隠れしているが、それ以外のアクセサリーを身につけているところを見た記憶がなかった。
「文化的には同じ系列ですので・・・。」
「つまり、あるのね?」
「はい。」
肯定した後で、「それが何か?」と不思議そうな顔をしている。
あたしは、すっとルナの左手を取り上げて言った。
「エディ・ユーナスは、くれなかったの?」
「そういうわけではないんですけど・・・。」
おやぁ?ルナにしては珍しく歯切れが悪いじゃない。
これは突き詰めていく価値がありそうね。
「くれたの?」
「ええっとぉ。」
ははーん、くれなかったわけね。
シャドウ星では文化保護及び政策上、マリッジリングの存在はかなり重要視されている。
艦内ではG連憲章が最優先だから、既婚者がマリッジリングを付けなければならないという決まりはない。
けれども、あたしは同じシャドウ星人として、正当なる理由なしに故郷の慣習を無視している兄を放置して置くわけにはいかない。
これは純粋なるシャドウ星人として、故郷の文化に対する認識の問題なのだ。
ということで、善は急げ。あたしは、エディ・ユーナスを呼び出した。

不意の呼び出しにも、あたしの詰問にも、悔しいけどエディ・ユーナスは少しも悪びれた様子を見せず、全くのマイペース。
「愛する奥さんに指輪ひとつ贈らないなんて、あんまりなんじゃない?」
「おいおい。愛してるのと指輪を贈るのとは次元が違う問題だと思うが。」
まーったく、この期に及んで、のらりくらり。
いったいこんな男のどこが気に入ってルナは結婚したわけ?
「だいたい、いらないと言ったのはルナの方だし。」
う・・・ルナったら、これじゃ形勢不利だわ。
でも、ここで言い負かされたのでは意味がない。
「だからと言って、はいそうですかと普通引き下がる?」
「私もそう思っていたからね。ルナには宝石なんて必要ない。」
エディ・ユーナスはきっぱり言い切った。
「随分とはっきり言ってくれるじゃないの。そうまで言うからには、明確なる理由があるんでしょうね。」
「ほう、聞きたいのか?」
エディ・ユーナスはにやりと不適な笑みを浮かべた。
こ、この笑いは・・・あたしは嫌な予感がした。
彼があの笑みを浮かべた時って、要注意なのよね。

それはさておき、あたしとエディ・ユーナスとが見えない火花を散らしている間、ルナはルナなりに心配していたらしい。
「あの、ブルー、マリッジリングのことでしたら、エディの言ったとおり最初に断ったのは私の方なんです。ですから・・・。」
「いや、この際だからブルーに話しておこう。その方がお互い納得できるというものだ。」
何なのよ、この自信たっぷりの口調は!!
いいわよ、こうなったらその「理由」とやらをきっちり説明してもらおうじゃない。
「で、理由は?」
あたしはエディ・ユーナスを促した。
「マリッジリングの条件は知っているよな?」
「もちろんよ。」
マリッジリングは愛する生涯のパートナーに贈るもの。
それゆえ、誰から見ても相手に最も相応しいと思われる宝石を贈るのが習わしだ。
無論、そこには経済的な事情も絡むから、エディ・ユーナスの報酬で入手可能な範囲という条件は付く。
「では、ルナに一番似合う宝石って何だ?」
ほえ?いきなり何なのよ。
「そんなの緑色系の輝石に決まってるじゃない。」
あたしでなくとも、これは即答出来ると思うし、それ以外の答えは普通返ってこないと思う。
「だろ?ところが、本人がそれじゃ、嫌だというんだよ。」
「え?」
ホントなの、とルナを振り返ると、彼女は「すみません」と肯定した。
「別に謝らなくても・・・じゃ、何ならよかったの?」
「何だと思います?」
にこにこっとルナが反対に問いかけてきた。
成る程ね。
はあっとあたしは大きくひとつ溜め息を吐いた。

これもまた考えるほどの難問じゃない。
答えはひとつ。パールだ。
最上級品を選んだとしても、値段的には決してエディ・ユーナスに買えないものではないが・・・。
普通に贈るアクセサリーなら、好みの問題ということで、それでもいいかもしれないけれど、マリッジリングはそういうわけにはいかない。
誰から見ても絶対その人に一番似合うもの、でなければ意味がないのである。
そういう観点からだと、パールは次点以下であり、誰から見ても「絶対」ではないのだ。
絶対でない宝石をマリッジリングとして相手に身につけさせるくらいなら、贈らない方がマシなくらいである。
悔しいけど、エディ・ユーナスの取った行動は間違っていなかった。

ルナの申し訳なさそうな顔とエディ・ユーナスのしてやったりと言わんばかりの顔があたしの目の前にある。
「だがな、ブルー。マリッジリングとしては贈らなかったが、彼女が持っている最高の緑の輝きを失わない努力はしているつもりだよ。」
それは、ルナが最高の緑の輝石をすでに持ってると言うこと?
なんだか、言ってることが矛盾しているような気がするんですけど・・・。
「最高の・・輝きを失わない努力をしているって、どういうこと?」
あたしは素直に疑問を口にした。
「言ったとおりだ。わからないかい?」
またしてもエディ・ユーナスにしてやられたとがっくりきたあたしに、彼はなおも追い打ちをかけるような口振りである。
それが判らないから聞いてるんでしょーが!!
・・・と、エディ・ユーナスはあたしを怒らすツボを心得ている。
ここで爆発したら、あたしの負けだ。
どうぞ、何とでも言ってくださいな。
あたしは嫌味なほどに、にっこり微笑んで見せた。
「ふむ。ちょうど良い機会だから、最高の輝きを見せてあげよう。」
敵も去る者、余裕の笑みで応えてくる。
「この宇宙で最高の緑色に輝くものは他ならぬ本人が持っているのさ。」
そういうと、エディ・ユーナスはルナの顎を手に掛け、くいっと自分に向き合わせた。
をい・・・。
「この緑の瞳の輝き以上に美しい宝石がこの世に存在すると思うかい?」
・・・ちょっと、マテ。
「この瞳がいつも最高の輝きを放っていられるよう、私は常に努力しているのだよ。」
エディ・ユーナスはとろけるような、それはそれは優しい微笑みを浮かべてそう曰った。
その後、あたしが二度と夫婦の問題について触れるまいと誓ったのは言うまでもない。


To be continued・・・?