スター・A・スター

星のしずくの子守歌


あたし、プロミネス・ブルー・ユリアン。もうじき18歳の17歳。
職業は、銀河連邦−略してG連−の名誉あるブルー・ソルジャー。
だから、本来なら銀河系を所狭しと駆け巡ってるはずなんだけど諸般の事情により、目下、最新鋭艦ネオ・プラネット号で外宇宙探索の真っ最中。
この任務、G連の科学の粋を結集して建造された巨大戦艦プラス最高のスタッフを揃えてくれる等々と条件だけはやたら良かったんだけど、甘い話には罠があるとの言葉どおり、外宇宙の探索って一筋縄で済むものじゃなかったんだな。
それでも優秀なスタッフのおかげで航海だけはすこぶる順調に進んでいる。
前人未踏の外宇宙探査なんて詰まるところ、行き当たりばったりの航海な訳だけど、運の強いことには自信あるのよ、あたし。

そのあたしでもどうにもならない問題が発生した。
それもある日突然、原因不明。
「ううう…気持ち悪い。」
目を覚ました瞬間、その状態はやってきたのだ。
あたしはベッドの上に起きあがったものの、そこから動くことができなかった。
定刻になっても艦橋に降りてこないので、技術顧問のグリューネ・ルディーナ・K・ユリアンが部屋までやってきて、事の重大さに眉を顰めている。
あ、名前が一緒なのは偶然よ、偶然…だったらどんなによかったことかしらね。
彼女、何の因果か、こともあろうにあたしの天敵、兄エディ・ユーナスと結婚したの。

「大丈夫ですか、ブルー?」
「…なんとかね。」
口ではそう答えたけど、本音を言うと、それだけ答えるのがやっとだった。
正直こうやって答えるのもしんどいのよ。
「ブルー、エディを呼びましょうか?」
「イヤ。」
あたしは即座に拒否した。
確かにエディ・ユーナスはあたし自ら抜擢した船医だし、医師としての腕も十分信頼するに値することは認めてる。
でも、でも、兄さんに診察してもらうだなんてまっぴらよ!
「でも、随分辛そうですけど…。」
ルナは心配そうにあたしの顔色を見ながら、ひととおりのバイオデータをチェックしている。
医学は彼女の専門じゃないけど、生物学的データならお手の物。
人間だって生物の一種だし、何よりあたしの平常値を一番よく理解しているのはルナなんだから、彼女の所見で十分だわ。
「で、どうなの?」
いつになく難しい表情をしているルナにあたしは尋ねた。
「どこも異常ありません。」
「へ?」
「全て、健常値です。」
つまり正常ってことだよね。
だったら、この吐き気をはじめとする気分の悪さは何なのよぉ!
「だから、おかしいんです。」
ルナの表情は険しいままだ。
「あの、たとえば精神的なものとかだったりして…。」
「例え精神的なものであっても、何らかの数値が出るはずなんです。バイオデータは、肉体的異常のみ鳴らず精神的状態も網羅してるんですから。」
言ってる意味が良く理解できないんですけど〜。
精神的なものって数値にできるの?
あたしがしんたに目を向けると、しんたは「専門外です。」と答えただけだった。
そうよね、ルナのデータだもの。普通に考えてちゃ駄目なのよね。
あたしは再びルナに目を戻すと、彼女はデータ解析に新たなプログラムを取り込んでいる際中だった。
「ブルー、今はとても起きて仕事できる状態ではないのでしょう?でしたら、申し訳ないですけど、これを取り付けさせていただきます。」
あたしが頷く前にルナは行動に移していた。
はいはい、好きにやってくださいな。
どうせあたしはあんたのモルモット…。
それにこの状態じゃ、何もできそうにないもの。
少しでも楽になる方法があるんなら、喜んで協力するわよ。
ルナはあたしの首に何やら青い輝石のはめ込まれたチョーカーを掛けた。
「あの、ブレスレットの方がよかったでしょうか?ブルー、手が塞がるのを嫌うから、チョーカータイプにしたのですけど。」
さすが、元パートナー。よくわかっていらっしゃる。
任務中は、いかなる事態にも即対応できるように、あたしは手を使うことに障害となる物は全て除外しているのだ。
アクセサリーだって例外ではない。
もちろん、勤務中に限ったことだけど…。
あたしだって女の子。世間並みにお洒落くらいするわよ。
お気に入りのアクセサリーはピアスだけど、ブレスレットも好きなのよね。
ネックレスとかペンダントはあまり好きじゃない。
って、今はそんなことよりどうしてこんな状態になったのかを調べてもらうのが先決。
ネオ・プラネット号の指揮は、短期間ならエディ・ユーナスに任せても問題ないだろうけど、この状態が長期化するようなことにでもなったら最悪だわ。

「で、どうなの?」
「申し訳ありませんが、結論を出すには普通の状態でのデータを取って比較する必要があるんです。」
「普通の状態?」
えーっと、確かさっき、正常な数値って言わなかったっけ。
でも、数値が正常でもあたしの状態は異常なわけで…うう、こんがらがってきた。
考えるのやめよう。そのためにルナは調査するって言ってるんだから。
「そろそろ、ブルー、起きませんか?」
それができれば苦労しないわよ。
それでもあたしは気力を振り絞って起きあがろうと…。
あれれ?
気のせいか、さっきよりずっと気分がいい。
しかも普通に起きあがれる自分に気が付いた。
「大丈夫みたいですね。」
うーむ、このチョーカーに付いてる石、ただの輝石じゃないわね。
いったい何の石なのか興味のあるところだけど、精神安定を優先させるなら知らない方が良さそうだ。
ルナはあたしの状態を再度チェックすると艦橋に待機しているエディ・ユーナスに連絡を入れた。
「間もなく艦長が艦橋に戻られます。ただし、要観察状態ですので、引き続き艦橋に待機願います。」
つまり、この状態は普通に仕事する分には差し支えないってことね。
それにしてもその場凌ぎとはいえ、このチョーカーの効果ってすごいわ。
「今日はスペースホールの第2次形態調査のためどうしても艦長に居ていただく必要があるんです。」
すこぶる生真面目な表情でルナは言った。
はいはい、どうせそんなことでしょうとも。
ルナの頭には「実験」と「研究」をいかに進めるかしかないんだから!
それでも彼女の実験と研究の成果があってこその航海だから、文句いえないのよね。
あたしは大きく深呼吸するとベッドから立ち上がり、艦橋へと向かった。

ネオ・プラネット号の艦橋に入ったあたしは、何はともあれエディ・ユーナス副長から申し送りを受けた。
現在のところ異常なし、か。
やれやれ、このまま何事もなく終わってくれればいいけど。
少し遅れてルナが自席に付き、それを合図に本日の「予定」とやらがスケジュール表に点滅しはじめた。
むむ…。いったい何を始めるつもりなんだ?
スケジュール表に添付されてる本日の運行予定路が、また何とも複雑な線を描いているのだわ。
宇宙は多次元立体空間だから、ある程度複雑な路線を描くのはわかる。
でも、こんな不規則な航路を選定して進むだなんて、エネルギーの無駄としか言いようがないんですけど。
案の定、オペレーター達が航路の変更をルナに求めている。
航海スタッフとしては、当然のことよね。
自分たちが一生懸命計算した安全かつ効率的な航路を無視して、どう見ても非効率としか言いようのない行程を提示したんだもの。
しかし、ルナはオペレーター達の抗議に臆することなく、いともあっさり決着を付けた。
「艦長に実験の許可はいただいていますから。」
なに〜!?
…なるほど、これがルナの言ってた、艦長に艦橋に居て欲しい理由ね。
あたしはあの子に実験を許可した覚えはないけど、言うだけ無駄。
ルナがこの船に乗ってるのは、ひとえにそのためでしかないんだもの。
抗議の矛先をあたしに向けかけたオペレーターの前にエディ・ユーナスが立ち塞がった。
さすが、副長!…じゃなくて、ルナの保護に回っただけね。
でも、エディ・ユーナスのひと睨みは、よく効くみたい。
不服そうな様子は流石に隠しきれないけど、一同、自分の席へと散開していった。
「それでは実験に入ります。」
どうぞ、好きにやってくれ。
どのみちあたしの知識じゃ理解不能な実験だもの。
あたしに求められているのは、実験時における艦の安全保障だ。
何事も起きませんように!

ネオ・プラネット号は、ルナのスケジュールに従って、訳の分からない空間を航海していた。
それにしてもこの空域、随分と岩の塊が多いわね。
自動回避機能が作動していても、普通のパイロットにはちょっと負担が大きい。
あたしが代わっても良いんだけど、それじゃ艦の秩序が成り立たないからな。
ついでに、なんだか嫌な予感がする。
確かこの前遭遇した謎の艦隊もこのあたりを行動範囲にしてるんじゃなかったっけ?
「取りあえずは、敵にこちらの行動を先読みさせない思考波スクリーンを開発しました。ブルーの思考波を完全に遮断することに成功していますので、機能的には問題ないと思います。でも、敵の主砲エネルギーを防御できるだけのスクリーン開発は間に合いませんでした。」
つまり、出逢ったら逃げろ、ね。
エンジンの機能は似たような水準だったから、あとはパイロットの腕次第。
あー、うれしくって涙がでてくるわ。
そう言う意味でも、エディ・ユーナスが待機しているは正解ね。
「そろそろ出てきてもいいはずなんですけど。」
「何が?」
「謎の艦隊fが、です。」
「なーんですって!?」
「未確認飛行物体、多数出現!先日の敵艦隊と思われます!」
そして、ネオ・プラネット号は謎の艦隊と再び遭遇した。

「反転180度、全速力でこの空域から退避せよ!」
悔しいけど、この命令が最も安全かつ成功率が高い。
何しろ、相手は数が多いのだ。
いかにネオ・プラネット号の機能が優れていると言っても、所詮は1機。
完璧なる布陣で望むならいざ知らず、唐突に遭遇したのでは、分が悪すぎる。
えーっと、その次にするべきことは…!!
まただ。
あたしはまたしても原因不明の頭痛に襲われた。
もう、勘弁してよ〜。
それでなくてもややこしい状態にあるんだから、これ以上問題を増やさないで〜。
あー、なんかムカムカしてきたぞ。
「き、気持ち悪い…。」
思わず漏れた声に、ルナが速攻で様子を調べに来た。
…こんなとき、席を離れるのは止めて〜。
そう叫べたらどんなにいいことか。
でも、現実のあたしは、頭を抱えて艦長席にみっともなく突っ伏しているだけだった。

「強行突破だ。艦長、よろしいですね?」
(任せる。)
あ、駄目、もう言葉にするのもおっくうになってきている。
エディ・ユーナスが優秀なESP能力保持者でよかったと心から思うわ。
「だが、逃げると言ってもこの空域では、速度がでない。敵の装甲が記録どおりなら、どこかで反撃に出た方がいいだろう。」
はい、おっしゃるとおりです。そのあたりのタイミングもお任せします…。
それでもあたしは一応、何か対処法がないか、ふらつく頭を持ち上げてスクリーンに目を向けた。
岩塊ばっかり…中にはちょっとした小惑星並にでかいものもある。
あ、待てよ…確かネオ・プラネット号には、対惑星プロトン砲が装備されてなかったっけ。
あれで敵艦隊付近の小惑星を吹き飛ばせば、もしかして敵艦隊も一緒に巻き込めないかしら。
(悪い作戦じゃないな。)
「オペレーター、敵の予定航路上に、条件にあう岩塊を探し出して。」
「了解。出ました。」
レーダー担当のアーネストは瞬時のうちにいくつかの岩塊をピックアップしてみせた。
「この位置からだと…これが最も条件に適っていると思われます。」
大きさ、質量共にちょっとした小惑星並の岩塊がクローズアップされた。
「生命反応もなく、破壊しても気流の流れが少し激しくなる程度だと予測されます。」
アーネストはおおざっぱであるが、破壊後のシュミレートまでしてみせた。
「艦首を敵艦隊へ。対惑星プロトン砲発射用意。」
あたしはなんとかそれだけ指示を出すと、再び突っ伏した。
あとはよろしく…。

「待ってください!」
うう…今度は何よ〜。
ルナは何やらめまぐるしく計算していた。
「もしかして。」
やがて複雑怪奇な数値の羅列から導き出したいくつかの数式を元に、ひとつの仮説を組み立てて言った。
「あれは死せる惑星ではありません。歴とした有機物、それも、ブルーと同等レベルの思考水準を持った知的生命体です。」
「まさか。だって、どう見ても岩の固まりしか見えないし、レーダーだってそれ以上のことは認識していないんですよ。」
アーネストは自分の前に示されている探査データをスクリーンパネルに投影して反論した。
データを見る限りじゃ、アーネストの言うとおり、どうみてもただの石ころだよなあ。
「データ的には確かにそうかもしれません。けれども、そう考えれば、全ての異常に説明がつくのです。」
ルナの示した数式は、あまりにも高度に専門的すぎて、優秀さを誇る艦橋スタッフですら半分も中身を追えていない状況にある。
正直言って、あたしも数学的な内容はさっぱりわからなかった。
でも、ルナの数式が導き出した生物学的水準値は、紛れもなくG連アカデミーが定めるところの知的生命体の条件を備えたものである。
つまり、あたし達は、岩の塊じゃなくて、意志を持った知的生命体を破壊しようとしているってこと?

あなたは、わたしを破壊しなければならない。
あなた方は、わたしを破壊しなければ助からない。
わたしは、あなた方を助けたい。
それこそがわたしの産まれてきた意味するところ。
あなたは決断しなければならない。
あなた自身のために。
そして、わたし達の未来のために。

そのメッセージは突然にあたしの心に飛び込んできた。
なんて鮮明な意志!
そこには迷いや不安はなく、ただ予測された未来を冷静に受け止めている強靱な精神があるだけだった。
発信源はいうまでもなく、あの岩塊だ。
「何を、言っているの?」
あたしは、星からのメッセージを受け取り呆然となった。
あたしだけじゃない。
この場にいる、ううん、この船の受信能力のある乗組員はみんなそのメッセージを受け取っていた。
そして受け取った誰もが、そのメッセージの意味するところを把握するやいなや、同じように呆然となった。
人数的には決して多くはないけれど、メインスタッフやキーポイントとなる部署の乗組員がほとんどだから、当然のごとくネオ・プラネット号の機能は一時的に停止した。

ネオ・プラネット号の動きが停止している間に、敵艦隊はどんどん距離を縮めてきた。
「間もなく、敵の射程距離に入ります。」
「速度を上げて。とにかく距離を保つのよ。」
なんとも消極的な指示だけど、前回の遭遇の時をことを思えば、格段の進歩だ。
でも、こうして逃げ回っているだけでは事態の解決にならない。
あの敵は、執拗なほどに追ってくる。
そして追いつかれたが最後、ネオ・プラネット号の装甲では敵の直接攻撃には堪えれないのだ。
ネオ・プラネット号が助かる道は、ただひとつ、あの星ごと敵艦隊を葬り去ること。
だからといって、あの星を破壊するなんてこと、あたしにはできない。
(あなたは、わたしを破壊しなければならない。あなた方は、わたしを破壊しなければ助からない。)
ああ、まただ。
死の恐怖に怯えながらも、星の声は絶えずあたしの心に訴えかけてくる。
(あなたは決断しなければならない。)
そんなこと、わかってる!
でも、でも…。

「ターゲットスコープ、オープン。対惑星プロトン砲、発射用意。」
ルナの声は決して大きくなかった。
けれども、淡々とした彼女の声は異様なほどに艦橋に響き、艦橋スタッフの注目を一身に浴びることとなった。
「ここは私が引き受けます。ですから、ブルーは、ブルーにしかできないことをあの星のためにしてあげてください。」
「ルナ!?」
「その間、艦の操縦はわたしが引き受けよう。」
「エディ・ユーナス?」
エディ・ユーナスは副長の権限で半ば強制的に操縦席から当直のパイロットを追い出して、自らが席に着いた。
さすがエース級パイロット、ネオ・プラネット号の安定感がぐっと増した。
「ネオ・プラネット号の任務は、スペースホール航法の確立です。そのために必要なスペースホールの出現は、あの星の生態と大きな関わりを持っています。たぶん、この砲撃でそれが証明されるでしょう。」
ルナはどこまでも科学者としての態度を貫こうとしていた。
あたし、あんたの言ってる意味がよくわからない。わかりたくもない。
第一、星の生態って何よ。星の一生って、理科の教科書で習ったことと、違うわけ?
「あの星は、見かけ上は惑星としか認識されず、今現在、G連に知的生命体として認められていない種族です。なぜなら普通の星か、あのタイプの星かは、現在のところ区別する手段がないからです。」
「でも、ルナにはわかったじゃない!」
「私にもわかりませんでした。区別できたのは、ブルーがあの星を生命体として認識したからです。」
「あたしが?」
「そうです。」
まさか…あたしの体調が狂ったのは、そのせい?
「ブルーの受信能力がずば抜けて高かったから、あの星の声を聞くことが出来たんです。」
「でも、声を聞いたのはあたしだけじゃないわ。」
「それは、ブルーと乗組員がシンクロしていたからです。体調不良ということもありますが、無意識に緊急体勢を取っていたみたいですね。」
万が一に備えて、ESP能力保持者である乗組員とは、思考レベルで同調できる体勢を取っていた。
それが今回の異常事態発生で、無意識に発動してしまったということか…。

話をしている間にもルナの手は休むことなく作業を進めていた。
ルナの席に準備完了のグリーンランプが点灯した。
「ブルー、あなたはネオ・プラネット号の艦長です。」
ルナは準備完了の報告に代えてそう言った。
そう、あたしは外宇宙開発プロジェクトの統括者にしてネオ・プラネット号の艦長だ。
外宇宙で発生した未知の生命体との交渉は、全てにおいてあたしが行わなければならない。
生命体との交渉?
あの星は現在G連には生命体として認められていないって言ったよね。
でも、あたしがコンタクトを取ったら、それは生命体として認めたことになる。
もちろん、それだけでは、正式にG連に認めさせることはできないだろうけど、ひとつの道を開くきっかけにはできるんだ。
「思考レベル的には、交流可能ですが、残念ながら今のところ互いの意志を一方的に送りつけることしかできないようです。それでも…。」
「わかった。あたしはあの星とのコンタクトに専念する。艦の制御はエディ・ユーナス副長に一任、敵艦隊との応戦はルナに一任する。以上!」
これ以上、何を説明する必要があるだろう。
あたしは、あたしの為すべき事、あたしにしか出来ないことをするべく、艦長席に座り直して意識をあの星へ集中した。

ルナの言ったとおり、思考レベルは高い。
でも、双方の意志疎通を図ることは無理だった。
時間を掛ければ、可能になるだろうけど、今のあたし達にはその時間がなかった。
執拗に迫ってくる謎の敵艦隊からネオ・プラネット号を守るために、あたしはあの星を破壊する。
今頃になって、あたしはようやく気が付いたのだ。
あたしの体調不良、とりわけ原因不明のあの頭痛が起こったわけを。
あれは死の恐怖に怯えていたあの星の叫び声だったんだ。
それでもあの星は、あたし達を助けたいと言ってくれた。
自分の犠牲が、同族達の未来に繋がることを信じて…。
あたしはその信頼に応えなければならない。
けれども、今は、それよりあたし個人として、あの星のためにできることをしてあげたい。

あたしは心をいっぱいに広げて、小さい頃母がよく歌ってくれた子守歌を歌い始めた。
死の恐怖に怯える心優しき星へ、今のあたしにできる精一杯の誠意の証として。
消えゆく命を悼み、少しでも心安らかに眠りに就けるよう祈りながら、あたしは心を込めて歌った。
だから、鎮魂歌ではなく子守歌でなければならないのだ。
星に訪れるのは、あくまで、次の誕生までのひとときの眠りなのだから…。

おやすみなさい おやすみなさい
愛しい子よ
大きな枕に夢をいっぱい詰めて
おやすみなさい おやすみなさい
愛しい子よ
枕が夢であふれたら 星のしずくに変えて
この空いっぱいに 散りばめよう
おやすみなさい おやすみなさい
夢見る星の 夢の中で眠れ 愛しい子よ

「対惑星プロトン砲、発射!」
ネオ・プラネット号から透明なほどに白熱したエネルギーが真っ直ぐに彼の惑星へと放たれた。
光は渦となって敵艦隊を惑星ごと飲み込み、静寂な空間を揺るがす衝撃波にネオ・プラネット号は翻弄された。
あたしに代わってエディ・ユーナスが乗組員に指示する声が聞こえた。
「全員ベルト着用。ネオ・プラネット号、回避運動開始!」
砕け散った惑星の欠片から身を守るためにネオ・プラネット号は、計算し尽くされた最も効率的な回避運動を展開する。
ひどい揺れを伴う回避運動に先だって、乗組員は安全ベルトの着用を義務づけられたわけだけれど、あたしはまんじりともせず、直立不動のまま惑星の最期を見送った。
この程度の揺れでバランスを崩すほど柔な運動神経じゃないもの。
それよりも、あたしはこの光景から目を反らすことができなかった。
ううん、逸らしちゃいけないのだ。

再び静寂を取り戻した宇宙には、星の残骸が微かに熱反応を示すだけで、それも徐々に弱まってきている。
やがては星の残骸すらもこの宇宙から消え、無限の宇宙空間と一体化してしまうことだろう。
けれども、あたしは忘れない−絶対に。
あたしは、星の残像を心の奥深くに焼き付けた。
そして、あたしは誓った。
今は駄目だけど、いつの日か必ずあの星の一族を「知的高等生命体」としてG連に受け入れさせてみせる。
だから…。
どうか、心安らかに眠ってください。


To be continued?