スター・A・スター

色づいたのは…


 わたしがゆっくり休みを取っている間にブルーは優秀な成績で銀河連邦アカデミーを卒業し、レッドソルジャーになった。むろんそれだけでブルーが満足するはずもなく、いろいろ問題はあったにしろ成果を上げて、めでたくブルー・ソルジャー(独立行動員)の階級を手に入れた。それからのブルーに与えられた任務というのが、長年、銀河連邦−略してG連−の懸案事項だったというのも何かの縁だろう。ブルー・ソルジャーとはいえ、駆け出しの新人にすぎないブルーには過分な任務だが、わたしは心配していなかった。むしろ、心から祝福した。幸い、スタッフにも恵まれ、ブルーが生来持っている強運も手伝って、彼女は任務解決の糸口を掴んだのだ。
 だが、ここで思わぬ問題が表面化した。この任務のスタッフには夫婦が多い。仕事に忙殺されている時には、そういうゆとりも雰囲気もなかったのだが、航海が順調になるとその手の本能も刺激されたと見える。わたしがそれを知ったのは、副艦長兼船医のエディ・ユーナスから、「技術顧問のグリューネ・ルディーナ・K・ユリアンをはじめ女性乗組員7人を、ドクターストップにより勤務から外す必要がある。」という相談を受けたときだった。寝耳に水とはこういうことで、わたしはその原因の一員であるエディ・ユーナスを一瞥した。なにしろ彼が最初に名前を挙げたグリューネ・ルディーナ・K・ユリアンなる女性は他ならぬエディ・ユーナスの妻だったからである。
「よくもぬけぬけと言えたもんですね。」
 わたしが苦言を呈することは、当然エディ・ユーナスの予想の範疇で、彼もかなり覚悟していたようだ。それでも最後まで黙って聞いていたのは、言い返せない現実とその対策にどうあってもわたしの力が必要だったからに他ならない。わたしにしてもかつての教え子をいたぶる趣味はないので、ひととおり釘を刺してから、具体的な智恵を貸してやった。それだけではない。その段取りまでつけてやったのだ。なんだかんだ言っても、わたしはエディ・ユーナスがかわいかったし、このあたりでブルーにも休みを取らせてやりたいと思っていたところなので、タイミングとしてはちょうどよかったのだ。
「助かったよ、しんた。」
 わたしの段取りに従ってエディ・ユーナスはブルーに説明し、わたしたちは休暇に入った。

 わたしたちが休暇のために滞在しているソレイユ星は銀河系外に位置した単独星系に属する地球型の惑星である。エディ・ユーナスとブルーの私的訪問にしてG連の非公式訪問という形をとってはいるが、略式な表敬訪問は必要だろう。
「ねえ、本当にルナを連れていくつもり?」
「当然だろう。叔父さんが一番会いたがってるのはルナなんだぞ。」
「そりゃ、会いたがってるというより、兄さんの奥さんを値踏みしたがってるの間違いでしょ。」
 ソレイユ星の統治者レオ総統はエディ・ユーナスとブルーの母方の叔父に当たる人物だ。彼は甥と姪にあたるふたりを大変かわいがっていた。エルナン筋によると、近年は密かにふたりの伴侶候補をリストアップしていたらしい。それだけに、自分のあずかり知らぬ女性をかわいい甥が妻に迎えたとあっては黙っておれなかったのだろう。ブルーの渋る気持ちもわかるが、ここは一度会わせておいた方がいい。ルナを褒める者はいてもけなす者はいないだろうからな。ただし、長居は無用だ。双方のために。
「ねえ、しんた、何とか言ってよ。」
(わたしは、賛成です。)
 ぶーっとブルーが不満を慣らすのはわかったが、仮にもこれから世話になる相手の要望である。端から無視するわけにいかないではないか。
「ま、しょうがないっか。叔父さん、言い出したらきかないもんね。でも、その代わり」
 ぴしっとブルーが矛先をわたしに向けた。
「しんたは、あたしに付き合ってよ?」
(は?)
 具体的に言われなくても、ブルーがわたしに人的外形を取ってくれといっているのはわかった。
「そうだな。すぐバレるにしても一応、そのくらいの策は練っておくべきだろう。」
「ほら、エディ・ユーナスもこう言ってることだしぃ。」
 ………。
 ふだん何かとぶつかってばかりいる兄妹が意見の一致をみるのは悪いことの起こる前兆である。その証拠に、ふたりは強固な精神障壁を張り巡らしてピリピリしているではないか。
(何を企んでます?)
「しんた、考えすぎっ。ね?」
 ますます怪しいんですが、まあ、いいでしょう。ルナと併せた3人だけで行かせるよりわたしも同行した方が心配事が少なくてすみますから。かくして、わたしは気楽なタヌキ姿から数年ぶりに堅苦しい人的体型を取って、ソレイユ星のレオ総統の私邸へ出かけていった。

 着いて早々、後悔半分、安堵半分。まず、帰ったらエディ・ユーナスを締め上げなくては。だいたいわたしもうかつだった。レオ総統は「ふたり」の伴侶候補をピックアップしていたわけだから、エディ・ユーナスが決まったとあれば、残るターゲットはブルーなわけで。そのブルーの横に外見上釣り合いの取れている年齢の異性が同行していれば、おのずと見方が厳しくなるのは当たり前ではないか。そこへ更にルナが加わって、わたしとブルーの勤務ぶりを話した暁には…。総統閣下、こめかみが震えてます。ただ、さすが伊達に総統をやってるわけではないようで、わたしの外見と実質にはかなりギャップがあることに気がついたようだ。だから、うかつに反対してこない。うーん、エルナンのいうとおり、喰えない叔父さんだ。となると、なるほど。わたしを人身御供とはエディ・ユーナスも考えたもんだ。今回ばかりは、見上げた兄妹愛だよ。
「で、このあとどうするつもりなんです?」
 一難去った帰り道、わたしは辛辣な質問をエディ・ユーナスに向けた。
「どうもこうも…叔父さんが納得してくれなけば、わたしとしても手の打ちようがなくて…。」
 さしものエディー・ユーナスもキレが悪い。ま、当然だな。
「でも、あの様子では、成り行きをみて、またリベンジかけてきそう。」
 ルナのなにげないつぶやきに、ブルーは「やーめーてー」と叫ばんばかりに身悶えしてる。考えてみれば、ブルーは幼いときからわたしが個別指導していた上、学校もスキップ卒業だから、仕事上の付き合い以外で人間関係の形成ができてなかったのだ。こりゃ、一種の対人恐怖症か?
「取りあえず、人中に出るときは、しんたに付いていてもらう。このくらいは、しんたも譲歩してあげてくださいな。」
 人の意見を無視した対応策をちゃっかり口にするところがルナらしいというか…。
「しんたあ。」
 ぎゅっと服の切れ端を握って上目遣いのブルーがわたしを見上げてる。ブルーもブルーだ。こういうとき幼い子供に逆戻りする癖、まだ抜けてなかったようで。しかも、わたしがこういうブルーを放っておけないことを直感で知っているだけに始末が悪い。それをわかっていて突き放せないわたしの優柔不断さもいけないんだが。
「しかたありません。しばらく様子をみてみましょう。」
「本当?」
「しばらく、ですよ」
 念を押したわたしにブルーが「やったぁ」とうれしそうに全身で飛びついてきた。
「こ、こら、ブルーっ!」
 精神年齢は子供に返っていても、身体は年頃の女性のままだ。その昔は首に触れた紅葉のような手と固い子供の身体がぶつかってきただけだが、今は、しなやかな指先がうなじに回され、やわらかな胸の感触が…くすぐったすぎる!!
「しんたが付いていてくれるならブルーは安心ね。」
 無邪気なルナの笑顔がこれほどに悪魔な微笑みに見えたことはない。せめてもの救いは、わたしと精神交流できるレベルにブルーが達していないことだ。感情の起伏でなく、精神波の優劣で発情が刺激される我々の種族性につくづく感謝するよ。
 ここにいる間は、ブルー、そのまま幼児化していてください。