雪中香
「お部屋に露天風呂があるなんて、もう最高!」
 優香が頬を上気させて湯上がりの浴衣姿で現れた。雪の逆光で首筋の金色に産毛が光って見える。だが、すぐに彼女は髪を落としてしまった。洗い髪というのも色っぽいが、こういうときはやっぱりうなじが見えた方が色っぽくていい。
「なあに?」
 甘い声が、こちらを向いてはにかんだ。流し目と紙一重の視線にドキドキしながら濡れ髪に触れる。
「いくら暖房が効いていると言ったって、はやく乾かさないと風邪を引くぞ」
 そっと髪を流れてきた滴を指先でぬぐう。私の指の滴を見て、優香は優香で器用にまた自分の指先に移し取る。ふたりの距離が近くなるほど優香の体から風呂上がりの湯気が鼻をくすぐった。思わず、押し倒したいっ!、要求に駆られたが、ここでいきなりじゃあ、せっかくのムードがぶち壊しだ。私は達磨の心境で辛うじて我慢した。
 一方の優香はこちらの気も知らないで、のんびり外を見ている。窓からみえる露天風呂と雪景色は、さすがに旅館が自慢するだけあって絶景だった。

「あめゆじゅとてきてけんじゃ」
 で、でた〜。優香の必殺賢治謎かけ。石巻市出身の優香はいたずら気分で宮沢賢治の作品の中から謎かけを出す。幸いにして、今回は簡単だった。私は窓を開けると、温泉の湯気で半分溶けかかっている雪のひとかたまりを湯飲みにざっと移し入れた。しかしこれだけじゃムードのかけらもないよなあ。
「あ、そうだ。確か鞄の中に…」
 私は昼に食べた某ファーストフードに付いていた蜂蜜を取り出した。甘いものが苦手な私は、いつもこれを残してしまう癖があったのだ。だが、今回はそれが幸いした。
 湯飲みの中の雪氷にその蜂蜜をかけ、おまんじゅうに添えられていた懐紙を折りたたんで、スプーンを作る。
「こちらの氷室のお味はいかがでしょうか」
 残念ながら、優香の謎に対する答えはわかっても返事までは覚えてなかったから苦し紛れに時代がかったことを言いながら湯飲みとスプーンを渡した。
「おいしい。蜜がたっぷりで、とっても甘いわ」
 私の耳には、優香の声の方がよほどか甘く感じる。
「一口くらい、食べてみる?」
「食べると言うより、もう、舐めるという感じだな。」
 優香が欠片を飲み込んだタイミングを見て、私は彼女の唇を吸った。口の中にはまだ甘い蜜の味が残っていた。優香の口の中で十分に甘さを翻弄したところで、そっと襟元を開いた。湯上がりでほんのり上気した胸が透けて見える。その艶やかなピンク色は狂おしいほどに眩暈がしそうだった。
 ほんの少し優香の顔が私をにらんだが、抵抗はしなかった。その後、我慢の域を超えていた私が、優香の甘い蜜を堪能したのは言うまでもない。


おわり
CG:伊崎まさたか様、創作:NARU
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