お星さまにウインク

星のかけらを探して(2)

 捜査の基本は現場百回との言に従って、瞳とぽちに身体を借りた星の子は、星の観測地である空き地と犬たちの遊び場たる公園とを幾度となく往復した。
『おかしいなあ。ちゃんと存在は感じるのに、肝心な星のかけらはその片鱗すら見当たらないだなんて、こんな理屈の通らない話ってある?』
 紅葉が終わった後の落ち葉の吹きだまりで、風に煽られ舞い上がる枯葉をぽちが一生懸命追い回している。傍目には、落ち葉と戯れている子犬の姿にしか見えないだろうが、落葉した木立の間を通り抜けて公園に入った星の子としては、枯葉の吹きだまりの中ももれなく探してみる必要があったのだ。
「これだけ探しても見つからないってことは、どこか根本的なところで見落としていることがあるんじゃないかな。」
 風に吹き寄せられ、こんもりと集まった落ち葉の山がひとつ、またひとつと増えていく様を眺めながら、瞳はその時の状況をもう一度尋ねてみた。
「いつ落としたかわからないってことだけど、間違いなくあったのがいつまでか覚えてる?」
『ココを覗く前。予定にないことをする時には、必ずその前と後に、変わったことがないか確認するもん。』
 何となく聞かなければよかったと思いたくなる答えだが、今はそのことをとやかく言ってる場合ではない。
「で、なくなってるのに気が付いたのが、あの翌朝だっけ。」
 瞳は極めて事務的な口調で次の質問にうつった。
『うん。このコが目を覚ました時、何かヘンな感じがして、念のため確認してみたらなくなってたの。』
 くううんと鼻を鳴らしてぽちは瞳に取りすがった。
「はいはい、甘えん坊さんは膝が好き。」
 瞳は適当なベンチに腰掛けてぽちを膝の上に抱き上げた。片手で頭を撫でてやりつつ何事かを考えている。急に黙りこくってしまった瞳の膝の上で、ぽちは撫でられるままにおとなしく丸まっていた。

「ねえ、星のかけらって簡単に落ちるようなものなの?」
 不意に止まった瞳の手に、ぷるぷるっとぽちの首を振った感触が伝わってくる。
「やっぱりそうよねえ。」
 星の子は、宇宙を自由自在に駆け巡ることができるというが、星と星との間にはかなりの距離があることは想像に難くない。それを一瞬のうちに移動できる速さとはいかなるものなのか瞳には想像のしようもないけれど、並の速さでないことだけは理解できる。その間、髪飾りという形でメッセージを預かるということは、それが相当の衝撃に耐えうる場所だと思って良いだろう。再び瞳の手が動き出したが、心ここにあらずといった感じでぽちの頭上を素通りしていた。
「落としたのは今回が初めて?」
『うん。』
「地球に落ちる時の衝撃ってそんなに凄いものなんだ。」
『何たって問答無用で吸い込まれて、落ちるとこまで落ちないと全然動きがとれないから、自分ではどうしようもないくらい、すっごいよ。』
「で、落ちるとこまで落ちた結果が、わたしの望遠鏡の上だったわけよね。」
『まあ、一応、そういうことになるのかなあ。あ、でも、望遠鏡を壊したのはあたしじゃないからねっ!あれは正真正銘、縁もゆかりもない隕石が一緒に落ちてきただけなんだから。』
 ぽちは瞳の膝の上で4本の足にこれでもかというくらい力を入れて踏ん張っている。それだけ星の子が必死で訴えているということだろう。
「だったら、なおのことおかしいと思う。」
 瞳はぽちの顔を両手で挟んでコツンと額を付き合わせた。
「望遠鏡を壊したのが、あなたと何の関係もない隕石の仕業だというのなら、なぜ、返事を探して届けてあげると言っただけで、望遠鏡が元どおりになおったりしたの?」
 言われてみれば瞳が疑問を抱くのももっともな話である。
『ホントだ。なんでだろ。』
「それに、あなたが自分の星のかけらをなくしたことに気が付いたのは翌朝になってからだったよね。でも、わたしがあの女の子と約束したのは、それより前なのよ。そうなると、あの子が待ってる返事って、あなたが落としたメッセージじゃなくてそれ以前のものだってことでしょう?ねえ、あなたよりも前にこの星に落っこちた星の子がいて、届けられないままになってるメッセージってあるの?」
『それは、たぶん、なんとなく、かなり、あり得ると思う。』
 硬直したままのぽちから星の子の困惑した思いが伝わってくる。予め、この星の3番目の青い星に近づいてはいけませんと注意を受けるくらいだから、過去にも同じような経験をした星の子が少なからずいたことはまちがいない。しかし、仮にそうだとすると、今、星の子が探している星のかけらと、瞳が探して届けると約束した星のかけらとは別物ということになるのだ。
「だからといって、あなたが落とした星のかけらを探さなくてもいいってことにはならないわよね。いずれにしてもあの子に届けてあげなきゃいけないものなんでしょう?」
『おっしゃるとおりです。』
 いつになく神妙な返事が返ってきた。それまでなるようにしかならないと開き直っていた星の子ですらこの有様なのだから、手がかりゼロの瞳の方はもっと深刻である。
「そうなると、どこをどう探したらいいのか根本的に見直す必要があると思うわ。それに、あなた以外の星の子が預かったメッセージってことは、あなたにも見えない可能性が高いってことよね。」
 鋭い指摘に、星の子は答えるすべがなく、沈黙を守っている。瞳の言ったことは全て現実の厳しさを如実に物語っていた。だからといってこのまま放っておくわけにもいかないのだ。
「取りあえずは、見つけやすい方から探しましょ。」
 瞳はぽちを膝から降ろすと、ベンチから立ち上がった。ぽちが所在なげに瞳を見上げている。
「ひとつ希望があるとすれば、最初に会った時、わたしにはあなたが預かってた星のかけらが見えてたことかな。もしかしたら、他の星の子が運んでた星のかけらも見えるかもしれない。」
 にこりと笑った瞳に、ぽちはぶんぶんと尻尾を振って同意した。そうなのだ。当事者以外には見えないはずの星のかけらが瞳には見えていたのだから、その可能性は十分にある。
 いくらかやる気を取り戻すと、それなりに頭も働き始めるもので、星の子はひとつの可能性を思い出した。
『あのね、一カ所だけ、まだ探してないところがあるんだけど。』
「え、どこ?」
『車の中。』
「車の中!?」
 いったいどこからそんな場所が出てくるんだと訝った瞳に、星の子はぽちを見つけた場所を正確に伝えた。
「つまり、車の中に入りかけてたところを飛び出したから、その時に落としたかも知れないと?」
『たぶんね。ココに吸い込まれて落ちた時より、この子に同調する時の方が衝撃は大きかったもの。』
「…そういうものなの?」
『そーゆーもんなの。』
 無邪気にすり寄ってくるぽちの鼻先を瞳はメッとつついた。見落としていた部分を思い出してくれたのはいいが、そこを探すには第三者の協力を得なくてはならないのだ。
「取りあえず、美香ちゃんを誘って夜の散歩に出る許可をもらわなくちゃ。」
 翔が夜の散歩に出るのは週に2、3回と言っていたから、それに合わせられるよう今のうちから準備して、と早くも瞳はそのための方策を練り始めたのだった。


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