■輝く瞳を信じるならば
ソミアがヒューイ率いる第7聖部隊と共に去っていくのをウェアはただ見送るだけであった。
「我々に、あと少しの勇気があれば・・・。」
他人の前ではそう言ったが、本当は自分自身への自責であった。
ソミアの瞳は遠くを見ていたかもしれないが、ウェアはそうではなかった。
「一番近くに居ながら、何もしようとしなかった結果がこれだ。」
第7聖部隊の蹄の音が遠ざかり、風に消えた後も、ウェアはしばらくその場に佇んでいた。
これからどうするのか。
それは他の仲間達も同じであったが・・・。
ソミアは「自分の望むように自由に生きろ」と言ったが、ウェアが望んでいたのはソミアと共にあることだったのだ。
「これから、どうしますか?」
改めて問われた時、ウェアの心は固まっていた。
例えどんな結果になろうと、最後まで見届けよう。
だが、今すぐ後を追ったのでは、ヒューイのせっかくの好意が無駄になる。
インジェラ軍を信用したわけではないが、あのヒューイという男は、何故か憎めなかった。
しかし、それは自分だけの、そうであって欲しいという希望を多大に含んでいる可能性が大きい。
そんな当てにならない可能性に、大切な仲間をこれ以上巻き込みたくはなかった。
ソミアが彼らに望んだように、ウェアもまた無言で解散を告げたのだった。

ソミアの公開処刑の噂がウェアの耳に入ってきたのは、その決定が下されてからそんなに時間が経っていなかった。
「やはり、同じか。」
心のどこかでヒューイを信じた自分に腹が立つ。
それ以上に、何もできない自分が悔しかった。
今のウェイには、ソミアの最期を見守ることしか残されていない。
遠目にインジェラ軍の砦を、ウェアはただ見つめていた。

そして、運命の日。
処刑を見ようと大勢の人でごったかえす中、馬の大群が押し寄せ会場は大混乱となる。
混乱が収まった時、ソミアの姿は消えていた。
ヒューイも、また彼の率いる第7聖部隊の主力メンバーも、いるべき位置からいなくなっていた。
「とうとう、やりおったか・・・・。」
驚き惑うインジェラ軍の中で、教皇だけが真実を見極めていた。
だが、そんな事情はウェアの知ったことではない。
彼にとって大切なのは、ソミアが生きているということだ。
彼女が信じて身を託した人はその信頼に値する人だったということだ。
「最後の最後で、ソミア様は選択を誤らなかった・・・。」
それがウェアには嬉しかった。
しかし、喜んでばかりはいられない。
ソミアを助けたということは、インジェラ軍の決定に背いたということであり、つまりはヒューイ達は裏切り者の刻印を押されたことになるのだ。
彼らの行く末が危ぶまれる。
そう思った時、既に身体が自然に進むべき道を辿っていた。
「何処にいようと必ず探し出して見せます。」
走り出したのはウェアだけではなかった。
「我々は、その道で生きてきたのですから。」
心強い声にウェアは大きく頷いた。

ウェアがソミアと念願の再会を果たしたとき、彼女は戦いの中にいた。
だが、彼女の瞳は輝いていた。
生きるために否応無しに戦いに明け暮れていた頃に見せていた冷たい光は形を潜め、代わって闊達で生気あふれる輝きが放たれている。
信頼されているという絶対の自信が、ソミアを明るい世界へ導いていたのだ。
それ故、彼女は逆にウェア達の参門に反対した。
「ソミア様は、これからどう生きるかは我々の自由とおっしゃった。だから、我々は、自由にさせていただきます。」
きっぱり言い切ったウェアに味方してくれたのは、他ならぬヒューイであった。
ヒューイは、ごく自然にウェア達を受け入れ、決して押し付けるでなく戦力として編入していった。
「勝手にしろ。」
ソミアは、はぶてた様に言い捨てて出ていったが、ヒューイは平然としている。
「あとは、アリア、よろしく頼むよ。」
ヒューイは事後処理を副官のアリアに早々押し付けた。
楽観できない状況に置かれていたこともあり、ウェア達はそのまま戦力に組み入れられていったのだった。

「行くよっ!」
ソミアのキビキビした出撃命令が、かつての部下達に下される。
「はっ。」
変わらない顔ぶれ、変わらない復唱・・・。
だが、それを命じたソミアも受けたウェイも、かつてとは明らかに様相を異にしていた。
「無茶はするなよ。」
ヒューイの消極的な声が彼らを見送っている。
「変わった人だ」というウェアのヒューイに対する印象は今も変わっていない。
だが、彼の決断があったからこそ、今のソミアがあり、ウェアはここにいる。
「あいつらに楽させてやるんだからね。」
ソミアとしては発破をかけたつもりなのだろうが、かつてからは考えられない言葉であった。
その中に、ほんの少しだが、照れたような恥じらいを見せたソミアに思わずウェアの表情もほころんだ。
「なにがおかしい。」
ウェアの変化に気がついたソミアは、むっとして尋ねた。
「いえ。」
ウェアは表情を改め、ソミアもそれ以上は追求してこなかった。
自分の微かな表情の変化がソミアに伝わったことがウェアには何より嬉しかったのだ。

「予定どおり、敵、側面に出ます。」
鋼の刃が一斉に鈍い光を放った。
息を潜め、目と耳で、馴染んでいる感覚で、間合いを取る。
音にならない声が、攻撃の合図を送る。
ソミアが先陣を切って攻勢に出た。
自分を信じてくれた人の為に戦うソミアをウェアは不幸だとは思わなかった。
「遅れるな、続けっ!」
ウェアはソミアの背後を守るように敵部隊の中に切り込んでいく。
その瞳の輝きを再び失うことのないように、ウェアもまた自分の信じる者のために戦い続けるのである。
1999.12.16
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