■ホワイト・ラプソディ
ルーシエラ軍討伐の大がかりな作戦に参加することを命じられた聖騎士達がそれぞれの部隊と共に首都パルミラに集結していた。
同期であるヒューイ、デュシス、グロウも多分にもれずパルミラに来ている。
聖騎士となってから、3人が揃うのは久しぶりのことだった。
旧交をあたためるべく、ヒューイとデュシスはどちらともなく声を掛け合い、当然のようにグロウにも誘いをかけた。
が、グロウは申し訳なさそうに断ったのである。
「その、明日の用意をしなきゃいけないもの。」
「あしたぁ?何か命令でも下ったのか?」
「そうじゃないけど。明日はセリアと約束が・・・。」
ごにょごにょと、デートに備えてプレゼントを買いに行くと告げたのである。
「お前な、まさかデートの度にプレゼントしてるわけ?」
「まさか!いくらなんでも毎回はしてないよ。」
多少突っ込みたい衝動に駆られながらもデュシスは、明日のセリアとの約束にのみ絞ってもう一度尋ねてみた。
「じゃ、なんで明日プレゼントがいるんだ?」
「だって、明日はホワイトデーだもの。」
グロウの答えに、思わず唸ったふたりである。
「で、プレゼントする相手はセリアひとりか?」
「当たり前じゃないか!セリア以外から受け取るわけないだろ。」
はっきりと言い切ったグロウに、さもありなんとデュシスとヒューイは頷きあった。
「そういうデュシスとヒューイはどうなの?」
逆に尋ね返してきたグロウにデュシスはふっと笑ってみせた。
「ヒューイより多かったのは確かだな。」
「ふーん。」
そして小さく「大変だね」と付け足した。
「・・・何が大変なんだ?」
「だから、お返しが。」
「・・・。」
「だって、今時貰いっぱなしなんてこと考えられないでしょ。ボクにはセリアがいるから他の誰もくれなかったけど、デュシスにはまだ特定の女性がいないみたいだから、大変だなって思ったんだ。あ、早くしないとお店が閉まっちゃうや。じゃ、次の機会にでも、また。」
グロウは言いたいことだけ述べると、そそくさとその場から立ち去っていった。
あとに残されたデュシスは、呆然としていた。
「・・・お前、用意してるのか?」
「・・・まさか。ずっと戦場にいたんだぜ。」
戦場では鬼神のごときデュシスだが、現世、特にこの手の問題には疎い彼にとって、ホワイトデーのお返しは思わぬ伏兵であった。

一気に落ち込んでいったデュシスを前に、これからの事をどうしようかとヒューイは考えあぐねていた。
第7聖部隊のハンナが通りがかったのは、まさにそんな矢先のことである。
「あれ、隊長。どしたの、そんなところで。」
「ハンナか。」
「あたしで悪かったね。いいもん。隊長、今夜のご飯抜き!」
「相変わらず、お前の所の部下は手厳しいな。」
「あ〜!?デュシス様。」
とたんにハンナの態度が変わった。
乙女らしく瞳にハートが飛んでいる。
が、いつもならフェミニストに接するデュシスの様子がどうも変である。
「デュシス様、何か悩み事でも抱えてるの?」
何気なく口にした一言だが、図星なだけにデュシスの反応は敏感である。
ハンナは「デュシス様ファンクラブ」の会長として、純粋な好奇心から聞いたのだが、一方のデュシスは藁にでもすがる思いで打開策を求めていたところである。
かくしてデュシスは心ならずもハンナにホワイトデーの相談をする形となった。
「ふーん。ホワイトデーのお返しね〜。そりゃ、まあ・・・。」
話を聞いたハンナはちょっと小首を傾げつつも、まんざら考えがなきにしもあらずといった様子である。
「何とかなるのか。」
「できなくもないと思うけどぉ。」
ハンナは微妙に言葉を濁していた。
「頼む、何かいい方法があったら教えてくれ。」
「いいけど。そのかわりキャラウエイさん、今夜、ウチにこれます?」
「それは・・・。」
「でなきゃ、どうにもならないよ。」
自分の一存で決めてもいいかどうか即答しかねたが、この際だと覚悟を決めた。
「わかった。キャラウェイを今夜そちらへ行かせるよ。・・・それだけでいいのか?」
「うん!」
元気良くハンナは答えると「準備があるから」と、そのままパタパタと立ち去って行った。
「・・・何をするつもりなんだ?」
「さあ。心配なら付いていって見れば?」
「いや、止めておこう。」
自分に何も考えが思いつかない以上、ヘタに口出しするより任せた方がたぶんスムーズに行くだろう。
デュシスとヒューイは、この件はこれまでとばかり、最初の予定どおり街へと繰り出していった。

その夜、デュシスの約束どおり、キャラウェイが第7聖部隊を訪れた。
「あ、キャラウェイさん、こっちだよ。」
待ち構えていたハンナに案内された先は、兵舎の厨房であった。
そしてそこに用意されてたのは・・・。
「・・・クッキーでも作るのですか?」
「うん!デュシス様のバレンタインのお返しには、キャラウェイさんの手作りが一番でしょ。」
「・・・デュシス様のお返しとしてですか?」
「そだよ。」
「・・・それにしては、量が多いような気がしますが・・・。」
キャラウェイは一応デュシスが誰からバレンタインに貰ったか把握しているつもりだった。
しかし、そこに用意されている材料は、それを遙かに上回る。
「ついでだから、ウチの隊長の分も作ろうかと思って。」
「・・・ハンナさんが?」
「まっさか〜。」
ころころとハンナは陽気に笑った。
「アリアに決まってるじゃん。」
「・・・アリアさんが?」
キャラウェイも、アリアの料理の腕前はそれとなく耳にしている。
一瞬怪訝な表情を浮かべたが、ここにはハンナがいるのだ。
彼女が一緒なら、だぶん大丈夫だろう。
人の心配より、自分の方を心配しなくては。
デュシスから頼まれた以上、いい加減なことができようはずがない。
キャラウェイは、ハンナですら思わず唸るほど見事なホワイトデーのお返しのクッキーをきっちり人数分作り上げていったのであった。

一方、アリアの方はというと、散々手間取った挙げ句、ハンナの予想を上回る凄まじいものができあがっていた。
「・・・と、とりあえず、形は、なんとかそれらしく見えてるんだから、大丈夫っしょ。」
言いながら思わず頬を引きつらせたハンナである。
しかし、いったいどうやったらここまで、崩れたものが作れるんだろうか・・・。
焦げが入っている程度ですんだものはまだマシで、分量を間違えて砂糖の固まりと大差ないものや、イカスミを混ぜたのかと見まがうような黒こげなものもある。
「やっぱり止めようよ。」
流石のアリアもそれらをヒューイからのお返しとして渡すのは気が引けるらしい。
「なに言ってんの。恋人の手作りだから効果あるんだよ。」
「でも・・・。」
「いーのっ。隊長のはこれで、充分なのっ!」
強気に出たハンナに、何も言い返せないアリアであった。

そして、ホワイトデーの当日。
デュシスにバレンタインのチョコレートを贈った女性達は、漏れなくキャラウェイ手作りのクッキーを、また、ヒューイに贈った女性達はアリアの手によるクッキーをお返しとして貰ったのである。
できあがりのクッキーはそれこそ天国と地獄ほどの違いがあったが、その効果のほどは両者とも全く同じであった。
どちらも見事にライバルが消えたのである。
「あんな完璧なものをけろっと作って渡されたんじゃ、とてもじゃないけど敵わないわよ。」
「・・・贈った報復にあんなものを食べさせられたんじゃ、たまったもんじゃないわ!」
兵舎に渦巻いた声を当人達がどこまで聞いたかは定かでない。


おわり
2000.03.05
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