翡翠伝承

エンドレス・シャイニング(1)
ダリスの王都は不気味な雲の渦巻く中心に位置している。
外部の人間は気味悪がってめっきり人足の遠のいたその町へ人目を忍ぶようにふたりの旅人が訪れた。
一人は黒髪に黒い瞳の少女。
もう一人は亜麻色の髪に碧色の瞳をした・・・少年だろうか?
「砦からでも充分不気味だったけど・・・。」
「本当に、すごいですね。こんな所にいたら誰でもおかしくなってしまいますよ。」
ふたりは往来の裏へと周り、道に迷った振りをして人々に話しかけていった。

「あんた、アンヘル族かい?」
休憩を取ろうと入ったさびれた店先で女将が疑り深そうな瞳でシルフィスに話しかけてきた。
「い、いいえ。」
「そうかい・・・。」
がっくりした様子を見せたが、ふと自分を睨んでいるメイの視線に女将はあいまいな表情を浮かべていった。
「いえね、この町にいたアンヘル族は一人残らず王宮に連れてかれて・・・戻ってこないんだ。」
「戻ってこない?」
「ああ。彼らがいないと魔法治療をしてくれる魔導士がいないから・・・持病のリュウマチが辛くてね。」
そう言われてみれば、女将は歩くのに左足を引きずるようにしている。
「ここ?」
無意識にメイは手をあて、魔法を唱えていた。
小さな光の珠が女将の足に吸収されていく。
「あ、あんた・・・。」
あっけにとられた女将は次に足を踏み出したとき、痛みが無くなっていることに気が付いた。
「大丈夫みたいね。リュウマチは継続して治療しないとすぐ悪くなるから気を付けないと。」
「え?ああ、ありがとう、旅の娘さん。ホントに嘘みたいに楽になったよ。」
「これくらいおやすい御用よ。」
「それより、あんた達、早くこの町から出た方がいいよ。あんたのお連れさん、アンヘル族に間違われて兵士に捕まったらそれこそ大変だ。」
声を更に潜めて女将は話を続けた。
「アンヘル族だけでなく、魔導士も捕まってるって噂だから、あんたも用心した方がいい。」
「ありがと、おばさん。」
メイとシルフィスは礼を言って店を出た。

「思ってたとおり王宮が怪しいわね。」
「そうですね。でも、それがはっきりしただけでもいいじゃありませんか。」
「まあね。さて、砦を抜け出したことがバレて怒られる前に戻ろうか。」
その時、シルフィスに抱きついてきた影があった。
「ママ!」
「え?ええ!?」
あたふたと抱きついている者に目を向けたシルフィスは、それがアンヘル族の子供であることに気が付いた。
同時にその子供も、抱きついた人が自分の母親でないことに気が付き弾かれたように後ずさった。
「ママじゃない・・・。」
俯いた肩から金色の長い髪がぱさりと流れ落ちた。
「あなた、アンヘル族?」
メイが近づいた分、その少女も後ずさる。
「怖がらないでいいわよ。あたし達はこの国の人間じゃないわ。」
この世界の人間でもないけどね、とまでは言わなかったが。
目に涙を一杯に溜めた少女の顔がメイを不思議そうに見上げている。
「お姉ちゃん、だあれ?」
「あたしはメイ。あなたは?」
「・・・。」
少女の目はシルフィスに注がれている。
「えーっと、シルフィスです。」
にこっと笑ったシルフィスをやはり不思議そうに見上げた。
「お姉ちゃん?」
シルフィスは赤面した。
まだ誰にも話していなかったが、北の砦に来てから身体が変化し始めているのだ。
このままいけば、たぶん・・・キールの待ち望んでいる方へと変化を遂げるだろう。
勿論それはシルフィスの望んだ方向でもあるのだが。
「ママかと思ったの。」
ぽつりと少女は言った。
「お城に連れて行かれて・・・帰ってこないの。でも、ママの悲鳴が聞こえるの。」
「お城・・・王宮か。」
「お願い。アリサのママを助けて。」
「アリサっていうんだ。」
メイの声にアリサはこくんと頷き、潤んだ瞳でメイの方に再び視線を返した。
「難問ですね。」
「うーん、助けてあげたいのは山々だけど・・・。」
アリサの頭上をメイとシルフィスの声が行き交っている。
それが簡単にできるものでないことは承知しているが、このままアリサを放っておくというのも気が引ける。
ふたりの心の迷いがアリサにもわかったのであろうか?
「ママを、ママを助けて・・・。」
目に涙をいっぱいためてアリサはメイに縋り付いた。
アリサの長い金色の髪を優しくなでてやりながら、メイはシルフィスの方を見やった。
「行ってみようよ、シルフィス。」
「ええ!?私たちだけで、ですか?」
ためらいの色を浮かべたシルフィスにメイは努めて明るい口調で言った。
「だって、もともとそのために来たんじゃない。」
「それはそうですけど。」
「ちょーっと王宮を見てくるだけよ。どうせ行かなきゃいけないとこなんだし。」
王都の人々から聞き込んだ話を総合すると、例の新兵器が王宮内で作られているのはほぼ間違いない。
遅かれ早かれ、その調査のために潜入しなくてはならないのだ。
見つけたその兵器をどうするかは、また別として、いずれにしても調べなければならないことには変わりない。
「わかりました。行きましょう。その代わり・・・。」
「無茶はしないわよ。だって、この子も一緒なんだから。いくらなんでも戦うのはパス。」
「本当ですか?」
疑わしげなシルフィスの視線をメイはさらりとかわした。
「大丈夫だって。」
完全に信用するには、かなり不安な要素を残しているが、他に方法がないとなれば止むを得ない。
「アリサ、すぐにはあなたのママを助けてあげることはできないかもしれないけど、それでもいい?」
アリサはじっとメイを見つめた。
メイは腰を屈めると、アリサと目線を合わせ、はっきりと言った。
「今はダメでも、必ず助けに行くから。」
こくりとアリサが頷き、ぎゅっとメイにしがみついた。
「よーし、じゃ、善は急げ。アリサの来た道を教えてちょうだい。」
こくりと頷いてアリサは二人の先に立って走り始めた。

アリサは子供とは思えないスピードで走っていく。
「は、はやい・・・。」
特にメイは全力疾走で、ようやく追い付いていける有様だった。
「アンヘル族って、みんな・・・そうなの?」
シルフィスも普通の人に比べると運動神経がかなりよい。
メイより余裕で走っているシルフィスの背にメイの喘ぐ声が聞こえてくる。
「どうでしょうか?自分ではよくわからないんです。村の人はみんなこんな感じでしたし。」
それなら速いって事じゃない、と声に出す元気が既にメイには残っていなかった。
メイがほっとしたことに、それから間もなく、アリサの足取りがゆっくりなものに変わった。
「ここは・・・墓地?」
黄昏時の墓地とは・・・・。
唯でさえ不気味な空なのに、その上薄気味悪い場所とは、よくできたもんだわとメイは溜め息を吐いた

奥まった一角でアリサはふいに立ち止まった。
着いたのかなと思った矢先、墓とは反対側の茂みがざわめいた。
「だ、だれ!?」
反射的にシルフィスが飛び出し、アリサをメイの方に投げてよこした。
すかさず細身の剣を抜き、守備体制を取る。
同時に茂みから人影が現れた。
「キール!?」
あわてて切っ先を降ろし、剣を仕舞った。
「ど、どうして、ここに?」
「帰りがおそいので、迎えに来たに決まっている。」
むすりとした表情のままキールが言った。
「え?」
メイがあっけにとられていると、もひとつの心配している声が聞こえてきた。
「あー、メイ、シルフィス。こんなところにいたんですか〜。」
「アイシュ。どーして!?」
「なんとなく、です。」
にこにこと返事が返ってきたが、どうも二人が内緒で取ったつもりの行動は、アイシュにはお見通しだったようである。
たぶん、自分達が気が付かなかっただけで、砦からずっと付けられていたに違いない。
でなければ、こんな所で見つかるはずがないのだ。

「ところで、その子はどうしたんですか?」
一目でアンヘル族とわかる少女を見てアイシュは一層あたりに気を配りながら尋ねた。
「ちょっと訳アリで、この子のお母さんが捕らえられているというから・・・。」
「二人だけで王宮に侵入しようってか?」
ズバリと言われてメイとシルフィスは首をすくめた。
「別に・・・この子が通ってきた道に沿ってちょっと様子を見に行こうかなーって。ね?」
「敵地に何の準備もなしに侵入して無事で済むと思ってるのか?」
押し殺したキールの声はいつにも増して低く響く。
「だから、ちょっとだけ。だって、この子、放っておけないでしょ。」
メイは傍らのアリサを見やり・・・。
「え?あれ、アリサ?」
そこにアリサの姿はなかった。
「シルフィス、アリサは?」
「え?いないん・・・ですか。」
彼らの目前は大きな墓標があって行き止まり。
メイの来た方向にはアイシュがいて、左の茂みからキールが出てきた。
シルフィスは右隅の塀に沿っていたから・・・。
「アリサが、消えた?」
4人は顔を見合わせた。


アリサの姿が消えてしまいました。
これからどうしますか?

⇒アリサを探す
⇒そのまま砦へ戻る
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