翡翠伝承

水華乱舞(1)
その日もディアーナはお忍びで外出するべく、こっそりと中庭を通り抜けようとしていた。
「あたりに人影はなし。ふふっ。上手くいきそうですわね。・・・!」
ところがあと少しと言うところで、アイシュの声がして、ピタリと歩みが止まった。
「何度言われましても、ご協力できません。」
慌てて物陰に身を隠し、そっと様子を伺っていると、次第にとんでも無い方向に話が進んでいく。
(あうう・・・。難しい話ですけど、まずいって事はわかりますわ。・・・どうしましょう。)
ディアーナは息を殺して耳を傾けているうちに、次第に腹が立ってきた。
(出ていって、あんな奴、とっちめてやりたいですけど・・・。)
反面、もしかしたらアイシュに何か考えがあって、対応しているのかもしれないとも思う。
しかし、状況に流されているだけなのかもしれないという考えも捨てきれない。
結局、ディアーナが迷っているうちに、よからぬ話は終わっていまい、ディアーナはアイシュに見つかった。
「あんなところ見つかったら、ただじゃすまないですよ〜。」
相変わらずのんびりした口調に、ディアーナはぴしゃりと止めるよう言い放った。
けれども、アイシュは一瞬だけ哀しそうな目をしたものの、「止める」とは言わなかった。
「1週間、時間をください。」
深々と頭を下げるアイシュに、ディアーナは気が乗らないままに頷いた。
「わかりましたわ。ここだけの話として、内緒にしておきます。」
「ありがとうございます。それでは〜。」
アイシュは振り返ることなくその場を去っていった。

女の子の「ここだけの内緒な話」ほど、あてにならないものはない。
「・・・というわけなのですわ。」
いくらも経たないうちに、メイの部屋でディアーナ、シルフィス、メイの三者会談が始まった。
「いかにもアイシュらしいといえば、らしいけどさ。」
「このままお任せしておいて大丈夫なのでしょうか?」
「そこなんですの。」
そのおっとりした口調から、ぼんやりしたように見られがちだが、アイシュの頭脳の明晰さは3人のよく知るところである。
かといって、下手に騒いで事が大きくなるとそれこそアイシュの立場が悪くなる。
「1週間だっけ。待ってみる?」
「そうですわね。」
「何か考えがあるのかもしれませんし。」
「・・・状況に流されてるだけかもしんないし。」
「アイシュだものねー。」
最後の一言だけは見事な三重唱だった。

アイシュが約束した一週間はあっという間に過ぎていった。
「・・・やっぱり、気になる。」
メイは何故か胸騒ぎがして王宮へ急いだ。
「あ、メイ!」
王宮の入り口で、シルフィスとばったり出会う。
「シルフィス!」
二人は同じことを考えているのがわかった。
「メイ、シルフィス!」
いくらも進まないうちに、今度はディアーナとぶつかった。

「なんか、妙に静かじゃない。アイシュはどこだろ?」
文書庫が見えてきたとき、それは起こった。
「きゃーーー、セリアン文官!」
「ダメだ、火が!」
激しい爆音とともに、火の手が上がり、あたりは騒然と混乱に満ちていく。
「な、なんなの!?」
「けほっ、すごい煙ですわ!」
「誰か、魔導士を呼べ!火を消し止めるんだ!」
錯乱する叫び声から、アイシュと総務長のふたりが、火の中に取り残されていることがわかった。
「ええっ!?」
3人は顔を見合わせた。
火は、人の予測を遥かに越えて早くまわる。
「凄い火の勢い・・・待ってたら間に合わないよ。」
あたりを見回したメイは、バケツを持って駆けつけてくる女官から、そのバケツを取り上げた。
「貸して!」
有無を言わさず、そのままバケツの水を頭からかぶる。
「身体を濡らせば少しくらいは持つはずだわ。」
メイはアイシュを連れ出すことしか考えていなかった。
「よしなさい、無謀だ!」
誰かが炎の中へ飛び込もうとしたメイを引き留めようと腕をのばしたようだが、その隙を縫って、メイは燃えさかる書庫へと駆けていく。
「あたし、水系の魔法は苦手なのよ。応援、期待してるわ!」
メイは振り返らず、そのまま炎の中へ飛び込んでいった。
「連れ戻してきます。」
シルフィスも水をかぶるとメイを追っていった。
「早く助けに来るんですのよ!」
「ひ、姫様!?」
あわてふためく官吏たちを尻目に、ディアーナもまた炎の中に飛び込んでいった。
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