翡翠伝承

天の砦の下なるすべて(1)
北の砦からもたらされた「ダリス王国動く!」の知らせを受けたクライン王国皇太子セイリオスの行動は早かった。
直ちに砦へ救援の部隊を派遣する一方で、ダリス王国内を極秘に調査するよう命じたのである。
その特殊な任務を拝命したのは、元文官であり現在はディアーナの家庭教師を務めているアイシュ・セリアンであった。
「なんで、アイシュなの?」
あっけにとられたメイの疑問はその場 にいた本人以外の全てが抱いたものでもあった。
「あの〜、そんなに変でしょうか?」
「当たり前だろ!」
キールですらめったに見せない感情を顕わにしている。
「騎士でも魔導士でもいくらだっているではありませんか。」
同じく控えめであるはずのシルフィスでさえ、抗議めいたことを口にした。
更に言い足そうとして、部屋の外に人の気配を感じ、シルフィスは素早く扉を開けた。
「た、隊長!」
思いもよらぬ人物にシルフィスは驚いて声を上げた。
「打ち合わせのためにお招きしたんです。ここなら安心して話せますからね〜。」
アイシュはごく普通にレオニスを部屋に案内し、椅子を勧めた。
「どうぞ。」
「・・・すまんな。」
それまで喧々囂々だったキールとメイが当惑したように顔を見合わせた。
「あの、あたし達、席をはずそうか?」
「いや、一緒に聞いてもらった方がいいだろう?」
遠慮がちに尋ねたメイには答えず、レオニスは逆にアイシュに確認するよう問いかけた。
「はい、勝手を言うようで申し訳ありません。」
アイシュの言葉に、再び全員がテーブルに着いた。

レオニスの話はアイシュの話を更に詳しくした内容であった。
砦の警護強化とダリスへの敵情視察。
細かな日程はさておき、互いの具体的な役割を確認するような話だったのである。
キールとメイにとっては初めて耳にする内容であり、文字どおり驚くだけであったが、シルフィスは驚くだけに留まらず、話が進むに連れ顔色まで悪くなってきた。
アイシュがしようとしているのと同じ事を、以前シルフィスはセイリオスから聞いたことを思い出したからである。
具体的な作戦に入るまでに辺境の魔王への遠征、ドラゴンの王都出現と相次いで異常事態が勃発したため、それきりすっかり忘れていたのである。
「どしたの、シルフィス!」
最初にその異常に気が付いたのはメイであった。
「え?」
「真っ青だよ。」
「すみません、大丈夫です。」
すぐさま体調の不調を否定し、心配顔のメイに微笑みかけた。
「でも・・・。」
「本当に大丈夫ですから。」
そして、シルフィスはレオニスの方へ改めて向き直り、はっきりと申し出たのである。
「隊長、私も行きます。いえ、是非、行かせて下さい。」
「シルフィス!」
「もともとこの任務は、殿下から私に仰せつかるはずだったものです。」
「え?」
驚きを新たにしたアイシュ達にペコリと頭を下げ、シルフィスはレオニスに詰め寄った。
「隊長はそのことをご存じのはずです。違いますか?」
「確かに、あの時は・・・そうだったかもしれん。だが、今はあの時と状況が・・・。」
シルフィスと違ってレオニスの言葉は歯切れが悪い。
気まずい沈黙が部屋に訪れた。

「シルフィスが行くなら、あたしも行くわよ。」
その沈黙を破って更なる爆弾発言をしたのはメイだった。
メイはきっぱりレオニスに宣言した。
「ダリスに顔が知られてないっていうならあたしだって条件は一緒でしょ。
調べものするなら、人数は多いに越したことないだろうし。」
「だからといって、お前まで行く必要ない。」
キールがじろりとメイを睨んで言った。
「後方支援で魔導士が必要というなら、俺の方が適任だ。」
「キールってば全然わかってない。」
メイはふふんと鼻を鳴らした。
「緋色の魔導士キール・セリアンといえばダリスにだって知らない子はいないと思うけど?」
これは褒められていると思って良いのであろうか?
言葉に詰まったキールを畳み込むようにメイは更に追い打ちをかけた。
「それに、魔法を使った武器というなら、武力魔法の領域でしょ。もちは餅屋。あたしの方が適任よ。」
キールとメイの間に見えない火花が飛び散っている。
「あの〜、ですから僕が行くんですけど。」
ごく一部の人間にしか知られていないことではあるが、アイシュの専門は水を司った武術魔法なのである。
敵国に知られていない魔導士としては、確かに適任なのだ。
「でも、アイシュは元文官だって、バレバレでしょ?」
先の王宮不審火事件で、敵の間諜には逃亡されている。
当然、なんらかの報告がダリスの幹部へは届けられているはずだ。

レオニスはふーっと大きく溜め息をひとつ吐いた。
正直なところ、レオニスはアイシュの魔法力はともかく間諜めいた調査能力には一抹の不安を持っていた。
当たり前に調査するのであれば、分析、処理能力に申し分ない人物だと認めているのだが・・・。
「いずれにしても、この件は私の一存では決めかねる。」
皇太子セイリオスの判断を仰ごうというのである。
「はあ、レオニスがそういうのであれば・・・。」
アイシュは気乗りしない様子ながらも同意した。

セイリオスが再考するまでに、必ずディアーナにも内容がどこからか伝わり・・・。
今更ながらに、シルフィスとメイがディアーナと親しいことが重くのしかかってくる。
(行くなという方が無理なんでしょうかね〜。)
そして、アイシュの杞憂は現実のものとなる。

数日後、セリアン家から明かりが消えた。
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