翡翠伝承

ドラゴンウォーズ(1)
凄まじい烈風がクライン王宮の中庭に吹き荒れ、魔王が出現した。
その圧倒的な魔力は、宮廷魔導士筆頭たるシオンを持ってしても完全に対抗できるものではなかった。
辺境の地に棲む魔王の望みは王女ディアーナである。
「あのような者の元へ、お前をやるわけにはいかない。」
セイリオスは迷うディアーナにきっぱり言い渡した。
早々にセイリオス率いるシオンを中心とした魔導士部隊とレオニス旗下の騎士団が編成され、魔王討伐のため、辺境の地への遠征の途についた。
主だった守護部隊をもたぬままの不安な日々が王都にはじまったのである。

遠征の原因が自分に発することを知るディアーナは、さすがにこのところ王宮深くに閉じこもっている。
外出するのは、神殿へ遠征軍の無事を祈願に訪れるときだけという徹底ぶりだ。
王宮ではディアーナ専属の家庭教師となったアイシュが、少しでも気を紛らわせられるようにと、絶え間なく課題を与えていた。

「ディアーナ、いる?」
「あら、メイ。どうしましたの?」
「メイ、ダメですよ。今、姫様はお勉強中です〜。」
やんわり睨んだアイシュにメイはひらひらと一枚の書類を差し出した。
「キールからの申請書。殿下の代わりにディアーナのサインがいるんだって。」
大がかりな魔法実験を行う際には、その危険性を考慮して、国王の許可が必要条件に定められている。
普通なら、セイリオスがその代行者としてサインするのだが、王都にいない今、その役はディアーナが務めることになるのだ。
「何もこんな時に・・・キールは延ばせなかったのでしょうかね〜。」
「こんな時だからこそ、明るいニュースが必要なんじゃない。」
ディアーナは書類に素早くサインしてメイに返した。
「わたくしも見学に行きたいですわ。」
「別にいいんじゃない?」
「そうですね〜。実験の視察も時には必要ですからね〜。」
部屋に籠もってばかりはよくないと思っていた矢先だけに、アイシュも反対はしなかった。
「じゃ、決まり!」
ディアーナはメイとアイシュを案内に魔法実験の視察のため、魔法研究院へ赴くことになった。

魔法研究院には丁度シルフィスも訪れていたところであった。
今回の遠征に、シルフィスは参加させてもらえなっかった。
と、いうか、魔法に対する防御力が低い騎士は今回の遠征に加えられていない。
アンヘル族でありながら、魔力をほとんど持たないシルフィスは、その参加条件を満たさないということで、王都の警護に廻されたのだった。
たまたま巡回中に、魔法研究院に立ち寄ったところへディアーナ達と出会ったのである。
「これからキールが魔法実験するんだけど、シルフィスもどう?」
「わたくしの護衛をしてくださればよろしいのよ。」
ディアーナはにっこりシルフィスに笑いかけた。
「キールのことだから心配ないだろうけど、万が一ってこともあるからね。」
「そんなに信用無いのか、俺は。」
「わぁ〜、キール!」
背後から現れたキールにメイはあたふたと許可証を差し出した。
「ったく。遅いと思ったら。」
同行してきたアイシュとディアーナの姿をみやって、キールはメイを睨んだ。
「まあまあ、ふたりとも。」
アイシュが間に入るまでもなく、キールはさっさとホールに向かって歩き出す。
「・・・・かっわいくなー。」
メイのふくれっ面がその後に続いた。

キールに少し遅れてホールに入ったディアーナとシルフィスは、その入り口でヒソヒソ話をしている魔導士見習いにぶつかった。
「ごめんなさい。」
けれども彼らは自分たちの話に夢中でぶつかったことすら気が付いていない様子だった。
「・・・まちがいないな。」
「ああ。あいつの顔が見物だぜ。」
シルフィスの脳裏に危険信号が点滅した。
彼らの声には聞き覚えがあったからだ。
前に彼らがキールの悪口を言っているところに出くわしたことがある。
「キールに注意するよう言った方がいいのかな?」
けれども、実験はその時まさに始まったところであった。

「我が問いに応え、我が意志に応え、我が求めし幻影をいまこそ形にせよ。」
キールの声がホールに響き、魔法陣が光に覆われていく。
「我の捧げし供物によりていまこそ果たさん!」
目も眩むような光があたりを包み、その光が収まったとき・・・。
「なに!?」
そこには巨大なドラゴンが出現していた。

「・・・呪文ミスったか?」
呆然としたキールに、にやにやした魔導士見習い達が声をかけてきた。
「へへ、キール、助けてやろうか?」
「ドラゴンなんてお前に倒せるわけないだろ?」
キールの専門は治癒魔法であり、攻撃主体の武力魔法は最も苦手とする分野である。
「俺達が片づけてやるよ。」
見下した複数の目が、キールをあざけ笑っている。
彼らは冷ややかな眼差しを返したキールをよそに、それぞれが勝手に呪文を唱えはじめた。
揺らめく魔法の光が消えた時、だが、そこにはやはりドラゴンの姿があった。
「何で消えないんだよ!」
「幻術じゃないのか!?」
そして、口走った言葉の中に真相が含まれていた。
「俺が知るかよ!本に書いてあったとおりにやったんだぞ。」
「魔法陣をいじったな。」
キールの怒気を含んだ声が発せられる。
決して大きくはなかったが、魔導士達を震え上がらせるには十分な迫力があった。
「道理で手応えが思うように返ってこないわけだ。」
冷酷な視線がそれに続く。

「キール!」
メイの悲鳴に近い声に顔を向けたキールは、ホールの屋根を突き破って王都の空へ飛び出そうとしているドラゴンの姿を目にした。
「冗談じゃない。街へ飛び出したりしたらそれこそとんでも無いことになる。
なんとしてもここでくい止めないと・・・。」
ドラゴンはその羽を羽ばたかせている。
飛び出していくのは時間の問題だった。
焦りを覚えるキールに、アイシュの落ち着いた声が聞こえてきた。
「メイ、ドラゴンを追って下さい。僕らには追えなくても、あなたになら・・・。」
メイは不安定ながらも空を飛ぶことができる。
「兄貴!無茶を言うな。」
「わかった、やってみる。」
メイは既にフレアブルーム(火系魔力を封じ込めた箒)を手に飛ぶ体勢に入っている。
「街へ向かわないよう、引きつけとけばいいんでしょ?」
「僕らもすぐ行きますから。」
「まっかせて!」
メイはパチリとアイシュにウインクすると、フレアブルームに飛び乗り、ドラゴンに続いてホールから飛び出していった。

「シルフィス、姫様を避難させてください。」
「あなた方だけでやるつもりですか!?」
「やってみせるだけだ。」
キールは手にしていた小枝をシルフィスに手渡した。
「長老達に説明して、もしもの時に備えてくれ。」
「王都は必ず守りますからね、姫様。」
アイシュとキールはシルフィスにディアーナを任せると、ホールから駆けだしていく。
「ふたりとも、ちゃんと戻ってきてください!」
シルフィスの声を背後に聞きながら、アイシュとキールはホールを後にした。

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