翡翠伝承

ドラゴンウォーズ(2)
フレアブルームで魔法研究院の上空に飛び出したメイは、そのまま真っ直ぐドラゴンに並ぶ形となった。
「ひえ〜、睨まないでよ!」
慌てて高度を下げたが、メイを見つけたドラゴンもまた同じように追いかけてくる。
「うっそ〜!」
今度はスピードを上げて郊外の森へと方向を変えた。
「ははは・・・付いてくる〜。」
しかも、時折鋭い痛みがメイの背後から襲いかかってくる。
街へと向かっていかないのが、せめてもの慰めであった。
「そのまま付いてくるのよっ!」
フレアブルームから振り落とされないようしっかりしがみついて、メイは郊外目指してひたすら逃げていった。

「水よ!刃となって我が意に答えよ!汝が敵を打ち倒したまえ!」
突然、地上から氷の刃がドラゴン目掛けて放出された。
「アイシュ!」
荒れ地にアイシュとキールの姿を見いだしたメイはそのまま吸い寄せられるように二人の元へと落下していった。
「慈愛深き緑の君よ。優しき御手を我が手に重ね、癒しのちからを与えたまえ。」
キールの魔法がメイの傷を癒していく。
元気を取り戻したメイは素早く呼吸を整えると、得意の呪文を唱えた。
「炎よ、今こそ我が手に集まりて刃と為せ!ファイヤーボール!」
氷の刃と炎の玉の相異なる2面攻撃を受け、ドラゴンもまた地上に降下してきた。

「やっかいだな。」
キールに言われるまでもなく、アイシュとメイも力の差を認識していた。
まともに戦って勝てる相手ではない。
「でも、僕たちでなんとかするしかありません。」
「倒すことは、まず不可能だ。それに、こいつだって好きで呼び出されたわけじゃない。
勝手にこっちの都合だけ押し付けて、殺すなんて出来ない!」
「キール・・・。」
「殺さない。・・・殺すんじゃなくて、帰すんだ。」
「わかりました。キールは帰してあげることだけを考えて下さい。」
「兄貴?」
驚きの眼差しを向けるキールにアイシュはいつもと変わらない口調で話し続けた。
「僕とメイとで時間を稼ぎます。いいですね〜?」
最後の言葉はメイに向けられたものであった。
「まっかせてちょ。」
ドラゴンの吐息が迫ってくる。
アイシュとメイはその注意を自分たちに向けるよう陣形を変えた。

一方、ホールに残されたディアーナがまず行ったことは、キールの邪魔をした魔導士見習い達を問いつめることであった。
「仲間の足を引っ張るような真似をして、恥ずかしくないんですのっ!」
普段のおっとりした王女様しか知らぬ彼らは、それこそ晴天の霹靂であったらしい。
青くなってその場に立ちすくむ彼らをディアーナは軽蔑の眼差しで返し、キールから依頼された長老達への説明を果たすべく、奥へと入っていった。

しかし、いくらも進まないうちに、ディアーナの歩みは再び止まった。
「・・・彼らは何をしていますの?」
ディアーナの視線は研究院に籠もったままの魔導士達に向けられている。
その肩掛けの色から、武術魔法を専門とする者達であることがわかる。
「なぜ、こんなところに籠もっているんですの?」
つかつかと歩み寄ると、ディアーナは遠慮なく問いだたした。
「そ、それは・・・そのう・・・。」
しどろもどろで、しかも要領の得ない返答に再びディアーナの怒りが爆発する。
「直ちに、アイシュ達の応援に向かいなさい!でないと、独り残らず、王都から追放しますわよっ!」
「ひえぇ〜・・・。」
ディアーナの剣幕に居合わせた魔導士達はみな震え上がり、あたふたと魔法研究院から飛び出していった。

「さ、わたくしたちも参りましょ。」
すたすたと歩き始めたディアーナに、シルフィスは慌てて後を追いかけた。
「参りましょって・・・姫、どちらへ?」
ディアーナは魔法研究院の出口へと向かっている。
「もちろん、皆の後を追うに決まってますわ。」
「ええっ!?」
「当然でしょう、あの魔導士達がちゃーんと命令されたとおり働くか、見届ける義務がありますもの。」
こともなげに話すディアーナをシルフィスは呆気にとられて見返した。
「お兄さま達がお留守の間、王都を守るのはわたくしたち残された者の義務ですわ。」
「義務・・・」
「そうですわ。これはわたくしたちに課せられた崇高な使命ですのよ。」
「ううぅ・・・。」
ディアーナの主張は一応筋が通っているだけに、シルフィスには反論の余地がない。
同じ主張を遠征軍に従事してる面々の前でしたとき、受け入れられるかどうかは、また別の話であるが。
しかし、ディアーナの迫力に完全に圧倒されているシルフィスに、そこまで考えが及ぶはずもなかった。
「わかりました、姫。私も騎士に名を連ねる者。この身を崇高な使命に喜んで捧げます!」
先ほどとは打って変わって気力あふれるシルフィスの姿がそこにある。
「それでは、行きますよ、姫。」
「はい、ですわ。」
もぬけの殻となった魔法研究院を風が吹き抜けていく。

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