My Darling



ディアーナの部屋でシルフィスとメイがお茶をごちそうになるのは特に珍しいことではない。
その日も季節の果物たっぷりのパイをつつきながら、3人はたわいのないおしゃべりに興じていた。
「失礼いたします。」
話が盛り上がっているところへ女官が大きな荷物を抱えて入ってきた。
「姫様、ご注文の品が届いておりますが・・。」
「わあ、やっと届きましたのね。」
ディアーナは満面に笑みを浮かべると、うれしそうにはしゃいで席を立ち、荷物を受け取った。
「あとは自分でしますから、下がっていいですわ。」
女官を下がらせると、ディアーナは鼻歌混じりで早々に荷物をほどき始めた。

ほぼ梱包から取り出したと思われる頃、メイがさり気なく声をかけた。
「ディアーナ、いったい何を買ったの?」
驚いて弾かれたように振り向いたところを見ると、どうやらうれしさのあまり、二人の存在をすっかり忘れていたようである。
「ご、ごめんなさいですわ。」
赤くなって謝ったディアーナにメイは笑って尋ねた。
「で、これ、何?えらくでかいものみたいだけど。」
「何だと思います?」
うふふと楽しそうにディアーナは聞き返した。
「うーん、絵みたいな気もしますけど・・・。」
遠慮がちに口にしたシルフィスにディアーナはにっこりと頷いた。
「当たりですわ、シルフィス。さすがに騎士はカンが冴えてますのね。」
別に騎士でなくとも、この梱包をみれば誰でも中身は絵ではないかと想像が付くのではないかと思ったが、敢えて口には出さなかった。
「でも、ディアーナに絵画鑑賞なんて趣味あったっけ?」
「ありませんわ。でも、これは特別ですの〜。」
ディアーナのまわりにはハートマークが飛び交っている。
「いったい何の絵なのですか?」
「うふふ・・・。」
しあわせいっぱいの表情でディアーナは最後の被いを外すと、くるりとひっくり返して二人の前に見せびらかした。
「ステキでしょう?わたくしの理想の殿方ですわ。」
「・・・。」
見せられた肖像画にシルフィスとメイは何と応えたものか、当惑して顔を見合わせた。

「あのー、ディアーナの理想の男性って、どんなタイプ?」
気を取り直して、メイが質問する。
「何と言っても誠実な方ですわ。」
拳を握りしめ、力説する。
「他には?」
「知的な方。」
「それから?」
「何事にも真摯な態度で取り組んでくださる方。」
両手を前で組み合わせ、薄紫色の瞳がキラキラと輝いている。
「優しいとか、話がうまいとかは、条件じゃないの?」
「わたくしにだけ優しければ他の方には素っ気ない方がいいですわ。口のうまい方はかえって信用できませんし。」
それがディアーナの理想の男性だというのであれば、その肖像画に描かれている人物は、確かに条件ぴったりである。
「まあ、それなら確かに・・・。」
控えめに賛同の意を表したシルフィスにディアーナは上機嫌で微笑んでいる。
「でしょう?」
ディアーナはシルフィスとメイに手伝ってもらい、壁にその肖像画を飾った。
「・・・でも、ホントにいいの?」
「何がですの?」
「だって、その、・・・。」
聞こうかどうしようかとメイは複雑な心境である。

と、その時、部屋の外から扉をノックする音が響いた。
「よう、姫さん。ヒマならどこか、出かけないか?」
「あら、シオンですわ。」
ディアーナは絵の前から離れると、いそいそと扉を開けてシオンを出迎えた。
「今日はお兄さまのお供はよろしいんですの?」
「警護はレオニスひとりで充分。同じお供をするなら、かわいい姫さんの方がいいに決まってるだろ?」
シオンはすっと背を屈めると、ディアーナの耳元で囁いた。
「ま、シオンったら。」
ぽっと頬を紅く染め、ディアーナはうれしそうにシオンを見上げている。
「で、どうする?」
「わたくし、行ってみたいところがあるんですの。」
「どこへなりと、仰せのままに。」
シオンの差し出した腕にディアーナが小さな手を絡ませた。

「誠実で真摯な人が理想の男性ねぇ・・・。」
主不在の部屋に取り残されたシルフィスとメイは、互いに顔を見合わせ肩をすくめた。
「まあ、その・・・何事においても例外はあるものですし。」
シルフィスがぽつりと呟き、メイはカップに残っていたお茶を飲み干した。
理想と現実の違いをまざまざと実感したふたりである。

理想の男性像
CG by NARUMI様


Copyright (c) 1999. NARU. All right reserved