LOVESTORYは夢の中〜ファンタ・バージョン〜

「原因不明だと!?」
「はい。このまま眠り続けるようでしたら、次第にからだが衰弱して・・・。」
「それでも医者かっ!」
今にも胸ぐらを掴みかからんばかりのセイリオスを、寸前で止めたのは蒼い髪の魔導士だった。
「俺にやらせてみてくれ。」
彼の手にはセイリオスが見たことのない花が握られている。
その真剣な眼差しに、セイリオスは怒りを抑え、ディアーナの部屋へと続く扉への道を空けた。
シオンは呼吸を整えると部屋の中へ消えていった。

ディアーナは眠っていた。
眠りだけがディアーナの救いだった。
その彼女を眠りから呼び覚まそうとする声がある。
「・・・・?」
瞳を開けた瞬間飛び込んできたのは、極上の笑顔と暖かみのある紫色の瞳だった。
けれどもその髪の色は、いつも見慣れた水色ではなく、輝かんばかりの金色だった。
驚くよりもディアーナは、彼にぼうっと見とれてしまっている。
「おはよう、お嬢さん。」
親しみのこもった声が、どこか笑いを秘めながらかけられた。
低すぎもせず、けれども囁くような声はディアーナをより一層現実から遠ざけていくようであった。
「どうした。気分でも悪いのか?」
ほんの少し瞳を曇らせて彼はディアーナの顔を覗き込んだ。
「げ、元気ですわ!」
とっさに応えたものの、あとが続かない。
彼の視線は、あまりにも真っ直ぐで、ディアーナは息が詰まりそうだった。
ふいっと逸らせた先に、揺らめいている花びらが目に止まった。
「花は好きかい?」
「ええ、大好きですわ。」
ディアーナの脳裏に花の手入れをしている蒼い髪の魔導士の姿がよぎる。
誰にでも気安く声を掛けて回る彼の様子を思い出し、わけもなく気が滅入ってきた。
「そうか、そいつは嬉しいな。」
あたたかい声がディアーナの気を逸らすようにかけられた。
「ほら、ごらん」
彼は俯いたディアーナを元気付けるように優しく抱き上げ、トンとベッドから連れ出した。

「え?」
床の上に降ろされたと思ったのに、足元からさわやかな緑の香りがただよってくる。
やわらかな風がディアーナの髪をそよいでいった。
色とりどりの花の咲き乱れる中にディアーナは立っているのだ。
側には、やっぱり微笑んだ彼がいる。
じっと見つめる紫色の眼差しが、胸にズキっと突き刺さってくる。
こんな風に、いつも見つめられたいと思っていた。
なのに、ちっとも心が弾まない。
「ここはお気に召さなかったかな?」
「い、いいえ!」
ディアーナはすぐさま大きく首を振って否定した。
「でも・・・。」
「でも?」
ディアーナは、じっと彼を見上げた。
自分の望むとおりの応えを返してくれて、何より、自分の都合にだけ合わせてくれる人。
すぐ手の届くところに、そんなとびきりの存在があるなんて、こんな夢のようなことが現実であるはずがない。
「これは、きっと夢ですわ・・・。」
その瞬間、世界が暗転した。

「ここはどこですの?どうして、何も見えないんですの?」
(だが、声は聞こえるだろう?)
すぐ耳元で声がするのに、ディアーナには彼の存在を感じることができなかった。
(過去はどうあれ、お嬢さんのすぐ前にある現実をみてごらん。)
静かな声が次第に遠のいていく。
「待って!待って下さいまし!」
(俺にできるのは、ここまでだよ。あとは・・・。)
ふっつりと声も途絶えてしまった。

「姫さーん!」
それに入れ代わるように聞き覚えのある声が響いてきた。
「姫さん!」
どうやら自分のことを呼んでいるらしい。
そう思った瞬間、あたたかいぬくもりがディアーナに流れ込んできた。
あたりが闇に閉ざされているのは、ディアーナの瞼が閉じられているからだ。
傷つくのが怖くて、自分から闇に捕らわれてしまった・・・。
「ディアーナ!」
名前を呼ばれて、ディアーナは光の中へ引き戻された。
「・・・シ・・・オン?」
唇が、ゆっくりと動き出す。
「ディアーナ?」
瞳に映し出された蒼い髪は、掴んでも消えることのない現実のものだった。
「・・・夢、ですの?」
シオンはディアーナの細い手首を掴むと、そのまま自分の頬に触れさせた。
「あたたかい、ですわ。」
目の前に存在する現実を、ディアーナは今、はっきりと認識した。
「夢じゃないん・・ですの・・ね。」
「夢は、1人で見るものじゃない。ふたりでみるものだぜ。」
「はい、ですわ。」
ディアーナは再び眠りに落ちた。
けれども、それは、先程までの眠りとは違う。
力を使い果たしたシオンもまた、ディアーナを抱いたまま、微睡んでいる。
その指先から、役目を終えたかのように花が滑り落ちていった。

ディアーナが次に目覚めた時、目に映した紫色の瞳の持ち主の髪の色が水色だったことが、蒼い髪の魔導士にとっての戦いの始まりであった。


◇ディアーナの夢の中に出てきた「彼」
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