BE MY GIRL
「こんにちは、シルフィス。」
いつものようにお忍びで訪れたディアーナを「しょうがないですね。」と笑って、シルフィスは珍しく紅茶でもてなした。
シルフィスの元には、故郷の村から送られてくる香りの良いハーブがたくさんストックされており、これまではいつもハーブティが出されていたのだ。
「いい香りですわね。」
と言って一口含んだディアーナは、その味に思わず首を傾げた。
「お判りになりましたか?」
にっこり笑ってシルフィスはディアーナに、紅茶の瓶を見せてくれた。
シオンの部屋でよく見かける紅茶の瓶とそっくりである。
「シオン様に、この間いただいたんです。」
シルフィスは悪戯っぽい光をその碧の瞳にたたえてサラリと答えた。
「そ、そうですの。」
平静さを装ってさりげなく相槌を打つディアーナであったが、その表情には、ありありと動揺の色が伺える。

「やっほー、シルフィス!遊びに来たよー!」
バターンと賑やかに扉を開ける音と供に、メイがとびこんできた。
「あ、いい香り。」
「どうぞ。ちょうど今、入れたところですから。」
「ラッキー。あ、ディアーナ、元気?」
メイは遠慮なくディアーナの隣に座って、シルフィスがお茶を入れてくれるのを待った。

「あら?」
ディアーナは隣に座ったメイから、甘い香りが漂ってくるのに気が付いた。
「あ、わかる?」
ディアーナの表情に気が付いたメイが、ふふっと笑みを漏らした。
「すてきな香りですわね。」
素直な感想を述べるディアーナに、メイは嬉しそうに話した。
「シオンにもらったんだ。」
ディアーナの表情がさっと強張ったが、ちょうどシルフィスから紅茶を受け取っていたメイはその変化に気が付かない。
「へー、紅茶だなんて、珍しいじゃん。」
一口啜って、ディアーナと同じように首を傾げる。
「シオン様からいただいたんです。」
にこやかな笑顔のまま、シルフィスも席に着いた。

「でもねー、あいつったら気付きもしないのよ。」
3人揃ったテーブルで、メイが憤慨して話し始めた。
「そりゃーねー。別に褒めてもらおうとかって期待はしてなかったけど、何も気が付かないってのは許せないわよ!」
ドンッと拳を握りしめた弾みで、カップの中の紅茶がこぼれんばかりに揺らめいている。
「あたしだって、ちょーっとこの香りは、まだ早いかなって思わないわけではないのよ。」
確かに今のメイとは少しばかり違ったイメージを醸し出す香りではある。
「でも、大人っぽい香り、だと思いますわ。」
「そうでしょう?」
メイの表情はわずかな話の間に目まぐるしく変化していく。
「見てらっしゃい。今にこの香りがピッタリ来るようないいオンナになって、あいつを見返してやるんだから!」
ディアーナが呆気に取られて見ている中、メイは一気にまくし立て、残りの紅茶をぐいっと飲み干した。
「それでこそ、メイですわ。」
ディアーナは羨ましそうにメイを見上げた。
「あっりがとー。」
どこまでも元気いっぱいのメイである。
「きっと、シオン様もその辺りを思ってプレゼントされたのかもしれませんね。」
「そう・・・かな?」
にこにこーっと話を振ったシルフィスに、メイもまんざらではなさそうである。
そんなふたりをディアーナは微かなため息でもって見つめていた。

紅茶のカップが空になったところで、ディアーナは「帰ります」と席を立った。
「遅くなると、お兄さまが心配しますから。」
ちらりと淋しそうな微笑みを浮かべ挨拶するディアーナを、「また来て下さいね。」とシルフィスは見送った。
その様子を、不審な目でメイが見つめている。
「いいの?」
「何がですか?」
「ディアーナよ。」
メイは椅子から立ち上がりかけている。
「1人で返して、大丈夫かな?」
「1人で返すと思いますか?」
メイは、はて、と首を傾げた。
シルフィスはくすくす笑みを浮かべて質問を変えた。
「彼が、姫をひとりで外出させると思いますか?」
「それもそうね。」
再びすとんと席に着き、メイはからっぽのカップを手に取った。
「もう1杯、もらえる?」
「ええ。」
そしてシルフィスがメイに出したのは、いつものハーブティだった。
「紅茶は、隊長がお好きなので、よく分けていただいてるんです。」
シルフィスがにっこり笑って種明かしした。

ディアーナは夕暮れの道をとぼとぼ歩いていた。
この季節特有の、美しい夕焼けを省みることなく、時折、ため息を吐きながら、重い足取りで王宮へと向かっていく。
いつもの2倍以上の時間を掛けて、ようやく王宮にたどり着いたとき、日はとっぷり暮れて、あたりは薄暗い帳の中であった。
「シオンは、まだ帰ってないみたいですわ・・・。」
シオンの執務室には、在室を告げるはずの明かりが点いていない。
「喉が、乾きましたわ・・・。」
「じゃ、俺の部屋でお茶でも飲んでくかい?」
ふいに背後から声がして、シオンその人が笑いながら現れた。
「きゃっ・・・シオン!」
彼の笑っている様子から、少なくとも王宮内に入ってからの独り言は聞かれていたらしいと気が付き、みるみる頬が火照ってくる。
ぽーっとしているディアーナをシオンはそのまま手を引いて部屋に戻っていった。

「紅茶でいいか?」
「・・・はい、ですわ。」
いつもなら二つ返事で応えるのだが、昼間のシルフィスのことが気になって、自然と言葉少なく、声も小さくなってしまう。
シルフィスの部屋で見たのと同じ紅茶の瓶が目の前にある。
「この紅茶、いただいてはいけませんかしら?」
「何でだ?」
言葉に詰まっているディアーナにシオンはカップを手に取らせた。
「こうやって、ふたりっきりで飲めなくなるだろ?」
ディアーナが紅茶を飲むときは、いつもシオンの部屋で、シオンに入れて貰っている。
甘いもの好きのディアーナが、他の場所では、まず、紅茶など飲むことはないのだ。
「ま、レオニスのように、誰かさんに入れて貰うってのも、悪くはないがな 」
クツクツ笑っているシオンに、ディアーナの頬が見る見るうちに赤く染まっていった。

シルフィスの紅茶の謎は解けたとして、まだ、メイの香水の件が残っている。
しかし、面と向かっては、とても聞くことなどできないディアーナなのだ。
知らず知らずのうちに、空いた手が、自分の髪の一房ををくるくるとねじっている。
シオンの手が伸びて、その髪の房を何気なく掴み、そっと口付けた。
「姫さんは、いつも甘い香りがする。」
ディアーナはますます赤くなり、同時に身体を鯱張らせた。
大人びたふりをしているかと思うと、ふいに子供に戻ってしまうディアーナにシオンは笑いを禁じ得ない。
「どうせ、わたくしには、香水なんて似合いませんですわ。」
まるで見当違いなディアーナの拗ねた口調に、シオンはきっぱり答えた。
「姫さんにふさわしい香水が、まだ、みつからないだけだ。」
まるでディアーナの心を見透かしたかのようにシオンは口にした。
「今の姫さんには、香水なんて必要ないさ。」
けれども、やはり不服そうなディアーナに、シオンは声を潜めて囁いた。
「姫さんにつけたい香りはあるけどな。」
「どんな香りですの?」
あどけない表情で問いかけるディアーナをシオンの両腕がふわりと捉える。
「俺の香り。」
そしてディアーナの耳元に口を寄せ、そっと囁く。
「ディアーナ、愛している。」
そのまますっぽり懐の中にとじ込め、KISSの雨を降らせるシオンであった。
創作:NARU(99.02.25)
Home > 二次創作 > ファンタスティックフォーチュン