若木たちよ

シオン・カイナスはクライン王国屈指の名門カイナス家の第3子である。
貴族の子弟の多くがそうであるように、シオンも将来王国に仕えるべく教育を受けてきた。
だが、シオンにはひとつだけ他より抜きん出ていたものがあった。
両親どちらの血に依るものかは知る由もないが、シオンの魔力は群を抜いて強力なものだったのだ。
それ故、一般的な教養を身につけたあとは、近従として宮廷に出仕せず、そのまま魔法研究院へ魔導士として入門した。
将来的には魔導士としてその力を活かせればいい。
跡継ぎとしての責任もないことから、シオンは自分の好きな道を歩もうとし、当主たる父親もそれを黙認していた。

魔法研究院の施設にはそれなりの制限があることから、シオンは普段はカイナス家の屋敷から研究院へと通っていた。
その日もいつもように出かける準備をしていたところへ、どういう風の吹き回しか、めったに顔を見ることのない父親たるカイナス公が、シオンを部屋に尋ねてきたのである。
「何か?」
「皇太子殿下が近々国内を視察される。その同行者としてお前を付けることにした。」
前段抜きでいきなり用件を切り出され、シオンは面食らった。
「数日の内に出発することになるだろう。その準備と・・・。その前に、お前、まだ皇太子とは面識がなかったな?」
「ああ。」
「今日中に挨拶に伺え。わたしの用事はそれだけだ。いいな。」
一方的に命じられ、シオンは不足な表情を返した。
皇太子の供というのもおもしろくない。
だが、国内を視察できるというのには興味をそそられた。
「・・・わかった。」
シオンの返事をきくとカイナス公は自分の用件は済んだとばかりに部屋を出ていこうとした。
が、一旦扉のところまで足を運んだものの、何を思ったのか、くるりと振り返った。
「!」
その表情は、シオンがそれまで見たことのないの狡猾なものであった。
全ての行動を計算ずくめで行う冷酷な政治家としての姿がありありと浮かんでいる。
「我がカイナス家は、サークリッド王家に連なる血筋だ。
継承順位こそ、かのローゼンベルク家に劣るが、格式からいえば同列であり、なんら臆することはない。
現王家に万が一のことあらば・・・。」
カイナス公はそこまで一息に話したものの、急に言葉を切ってシオンを見つめた。
「父上?」
「お前もカイナスの血を受けたからには、可能性がゼロではないことだけは覚えておけ。」
それだけ言うと、今度こそカイナス公はシオンの部屋から出ていった。
「父上は、何が言いたかったんだ?」
胸に残るもやもやした思いが消えぬままにシオンは命じられたとおり、皇太子に同行の挨拶をするべく屋敷を後にした。

シオンが王宮に来るのはこれが2度目だった。
初めて王宮を訪れたのは、成人したときカイナス家の一員として国王へ正式なお目通りをした時のことだからかなり昔のことになる。
上に兄がふたりもいることを理由に仕官せず、自分の天賦の才ともいえる魔力に更なる磨きをかけるべく、それ以後も今日まで魔法研究院で研究生として過ごしてきた。
「そういえば、あの席に皇太子はいなかったな。」
その時には何とも思わなかったが、公式の場に、例え成人していなかったとはいえ、皇太子の姿がなかったことに微かな引っかかりを覚えた。
「ま、俺なぞ範疇外だろうからな。」
勝手に導き出した答えにひとり納得すると、シオンは皇太子の部屋の扉をノックした。

出会い−セイルとシオン−
イラスト by れいり様

「君がシオン・カイナスか。セイリオス・アル・サークリッドだ。」
淡い空色の髪をした青年が椅子から立ち上がってシオンを出迎えた。
その物腰の柔らかい挨拶に、シオンは少なからず衝撃を受けた。
常に他を圧倒させるような存在感を持つ現国王とは明らかに趣を異にする皇太子に、意外だという思いを禁じ得ない。
(こいつが、皇太子?)
戸惑いながらも、シオンは平静を装って型どおり挨拶をした。
「シオン・カイナスです。国王陛下のご命令により、皇太子殿下にお供させていただきます。」
「そう畏まらなくていいよ、シオン。」
にこやかな表情のままセイリオスは右手を差し出した。
シオンとしては面くらいながらもその手を握り返した。
(なに?)
それまでに感じたことのない力の波動が伝わってくる。
本人はもとより、おそらく周りの者達も気が付いていないのだろうが、これは相当のものだとシオンは直感した。
同時に戦慄が走る。
王族としての基本的な魔法教育だけで、ここまで見事に力を制御するとは、並ならぬ胆力の持ち主ではないのか。
たおやかな見かけによらず、こいつは相当の食わせものだとシオンは密かに値踏みした。
「数日のうちに出発したいと思っている。よろしく頼む。」
「承知しました。」
何事もなかったようにシオンは返礼し、部屋をあとにした。
堅く閉ざされた扉の内と外で、同時に大きく息が吐かれたことは、互いに知る由がない。

セイリオスの国内視察は、皇太子となってはじめてということもあり、どこでも一行は大歓迎を受けた。
大都市から小さな村まで規模こそ違えど、地元住民こぞっての歓迎というのも珍しくはない。
視察も終焉に近づいた頃、クラインの南にある小さな港町でもそれは例外でなかった。
ひとつだけ違ったのは、その町を訪れたのは、その前の訪問先での予定が思いの外早く終わったためであり、当初の訪問予定には入っていなかったということである。
それ故、公式の訪問というより、お忍びに近いものであった。
それでも「皇太子が立ち寄る」ことともなれば、町の有力者達が放っておくはずもなく、町の門をくぐった途端、お決まりの歓迎を受けた。

「どうぞ我が家でおくつろぎ下さいませ。鄙びた田舎町故、大したもてなしもできませんが、多少なりとも殿下のお役に立てましたならばこれほど我が家に取りまして名誉なことはございません。」
その町一番の商家と言われるアヴェニール家が、一行の休息所に名乗りをあげて待ち構えていた。
「お気持ちはありがたいのですが。」
セイリオスは申し訳なさそうにアヴェニール家の主にやんわりと断った。
「ごく短時間しかありませんので、出来る限り町の様子を見てみたいのです。」
「それでしたら、是非ともご案内させていただけないでしょうか。」
「ほんの僅かな間のことですし、できれば自分で自由に見て回りたいのです。」
なおも食い下がろうとしたアヴェニールに、セイリオスはきっぱり拒絶の意を伝えた。
「お気持ちだけ有り難く頂戴します。」
さすがにこうもはっきり返されてはそれ以上の申し出は反感を買うだけだと判断したのであろう。
「では、なにかございましたら遠慮なく町の者へお申し付け下さい。」
慇懃に礼をとるとアヴェニールはセイリオスの元を辞した。

「町中で見張られてるようなものだな。」
休息所に充てられた部屋に一旦戻ったのセイリオスは、この旅の間中感じていた疑問を何気なく口にした。
皇太子として自由な行動に制限があるのは覚悟していた。
だが、訪問先全てがこの調子とは、いささか度が過ぎているのではないだろうか。
国王から命じられた国内巡視の旅だが、もっと別なところからの意図を感じないではいられない。
それも、好意的なものではなく、悪意から発したような・・・。
「・・・まさかな・・・。」
そのことを思うと胃の底まで冷たくなる。
そんなことはないと思う反面、もしやという予感が胸をよぎる。
だが、それを確かめるすべは、セイリオスにはなかった。
「他にどうしようもないなら、このまま続けるしかない・・・。」
セイリオスは、無理矢理何かを吹っ切るように表情を改めた。
彼には、この街で是非とも行ってみたい場所があったのだ。
それ故、予定になかったこの街へ立ち寄れるよう、少しずつスケジュールを調整してきたくらいなのである。
「考えてもはじまらない、か。」
小さな溜め息をひとつ吐くと、セイリオスはいつもの自分に戻っていった。

セイリオスが訪れたのは、その街に古くからある塔であった。
たまたま古い文献を調べていたときに、ひどく興味を引かれた伝説の発祥の残照にあげられていたのである。
この街の象徴ともいえるその塔は、あのアヴェニールの所有となっており、好むと好まざるとに関わらず、セイリオスは、彼の案内を受けるハメになった。
「・・・この光景は、この街の最上にあるここでしか見れぬもので・・・。」
ウンザリするような自慢話をセイリオスは曖昧な相づちを打って適当に聞き流していた。
さすがに同じ事を繰り返し聞かされていると、嫌だと思いながらもアヴェニールの経歴が記憶されていく。
彼はどうやら婿養子らしい。
それゆえ、それまでの当主達とは一線を期するものがあるらしいのだ。
「私の義父も息子もその血筋ゆえ、早死でした。ただひとり残された孫が果たしてその血から逃れることができるのか、それだけが気がかりなのでございます。」
「・・・血筋?」
それまで聞き流していたセイリオスが、異なる反応を示したことにアヴェニールはしたり顔で頷いた。
「どのように姿を偽ろうと、血は誤魔化せぬもの。その血筋故に、どこまでも追い詰められていくのでございます。」
そう言ったアヴェニールの目は異様な色を発していた。
セイリオスの脳裏にチカチカと危険信号が灯っている。
出逢った時も、また案内を受けている時も、ついぞ感じなかった妖気があたりに漂い始めていた。
「お前はいったい何者なのだ?」
セイリオスが問いただす前に、アヴェニールは行動に出た。
「呪われし数多の祖先の御霊よ。大地に縛られし絆を断たん。」
それは、大地の加護のあるものならば、取るに足らぬ魔法であった。
クラインで最も古い血を持つサークリッド家の者であれば、難なく受け止めることのできる大地との絆に付随する微々たる力・・・。
当然皇太子はそれを魔力を備えた言葉のひとつとして聞き流すはず・・・。
「みちみちし、大地に囚われし古の御霊よ。」
だが、次の瞬間セイリオスからは強力な呪文が唱えられていたのである。
「汝らの盟約に従いて、その血の欲するところに帰せ!」
「何!?」
集約された力は、そのままそっくりセイリオスからはね返され、アヴェニールへと返っていった。
力を発するより、返された力を受け止める方がより強力な力を必要とする。
熟練した魔導士でさえ、呪詛返しは生半可なことで為せるものではないのだ。
ましてやわずかな知識だけで対抗できるものではない。
何が起こったのかすらわからないまま、アヴェニールは取り返しの付かない衝撃を受け、その場に硬直した。
「・・・なぜだ・・・皇太子がこのような・・・。」
言葉にならない混濁がアヴェニールの脳裏に渦巻いていた。
王家の血を引く者なら、何ら害を及ぼさないはずの魔法なのに・・・。
そこから導きだされる真実に、アヴェニールは受けた衝撃以上の打撃を受けた。

「・・・お前はいったい何者なのだ?」
アヴェニールの呆然とした視線がセイリオスを見つめて言った。
「なぜ、だ?・・・なぜ、お前のような者が高貴な方の中に平然としているのだ。わたしが、長年かかって得られないものを、どうしてそうもあっさりと手にできる・・・。」
「・・・好きで、得たものでない。」
セイリオスは吐き出すように言い返した。
これまでセイリオスは、その為に自分を偽って生きてきたのだ。
「そんなはずはない!」
そう叫んだアヴェニールは、もはや尋常な様子とは言えなかった。
それまで溜まっていたものが一気に吹き出し、同時にその心が退廃して、人としてあるべき理性を完全に失っている。
「至高の位に最も近しい位置に、なぜお前のような者がいる!?」
半狂乱になった彼から紡ぎ出された意味のある言葉はそれが最後であった。
あとに続いたのは、それこそ聞くに堪えない暴言、讒言の数々・・・。
セイリオスは、それを黙って聞いていた。否、聞き続けるしかなかった。
アヴェニールの発した魔法ははね返したが、それは多大なる力の消耗をセイリオスの身体に要求したのだ。
呪縛されたかのようにセイリオスは、アヴェニールの虚ろな叫びを耳に入って来るままに聞き流すしかなかったのである。

「殿下!セイリオス殿下!」
聞き覚えのある声が、セイリオスを現実に引き戻していく。
「シオン!ここだ。」
我に返って、セイリオスは声の主に返事を返した。
「そこかっ!」
ダーンっと激しく扉を突き破って、シオンその人が飛び込んできた。
「う・・・・。」
部屋に入るなり、シオンは異様な空気に思わず吐き気を催した。
しかし、すぐに気を取り直して、聖なる呪文を唱えていく。
「風よ。聖なる力となりて、邪悪なるものを吹き飛ばせ!」
部屋中の窓が開け放たれ、目映い光が同時に差し込んできた。
どこかで女のすすり泣く声がする。
それは光が入ってくるほどに遠くなり、細くもの悲しげな悲鳴を最後にぷつりと途絶えた。
「無事だったか。」
部屋の中心に何事もなく立っているセイリオスの姿を確認して、シオンは初めて安堵の溜め息を漏らした。
同時に、部屋の片隅で虚ろな表情をうかべたままへたり込んでいる老人を目にして残念そうに舌打ちした。
この状態では、もはや何も聞き出すことができないのは明白である。
「権力の亡者に取り付かれた奴の末路か・・・。哀れなものだな。」
シオンは其処に残る魔法の痕跡を感じて忌々しげに呟いた。
誰が何の目的でこの哀れなる老人を利用したのか。いや、それは判っている。
だが、この状況では、それを証明するすべはない。
アヴェニールは、この事件の加害者であったが、同時に貧乏くじを引かされた、いわば被害者ともいえる。
裏を返せば、それだけ敵の方が遙かに上手だということだ。
シオンは改めてセイリオスを見直した。
この様子から見るに、この手の襲撃には、どうやら慣れっこになっているらしい。
あの日感じた力は伊達ではなかったのだとの思いをこの時はっきり認識したのであった。

「間に合ったようですね。」
扉の外から、抑揚のない声が掛けられた。
「イーリス、付いてきたのか・・・。」
シオンは、困惑した表情で外の青年に目を向けた。
「ここは、私の家ですよ。自分の家に戻るのに何の不都合があるのでしょうか?」
姿を見せたイーリスを、セイリオスは床に倒れているアヴェニールと見比べている。
「君は?」
「イーリス・アヴェニールと申します。」
黙礼すると、そのままイーリスはアヴェニールに近づいていった。
すると、アヴェニールは怯えたように頭を抱え丸まった。
「来るな・・・。ワシはまだ、死にたくない・・・お前になど付いて行くものか。」
「我が家に代々付きまとっている呪いに囚われたようです・・・もう、長くはない。」
淡々とイーリスは告げると、セイリオスの方に改めて向き直った。
「いつ降り掛かって来るかわからない呪いに怯え、祖父は、彼らの言うがままに刃を向けたのです。」
「彼ら?」
「誰か、までは存じません。彼らは祖父に呪いから開放してやるというような話を持ちかけ、その代償に今回の襲撃を依頼したようですから。」
「殿下、イーリスはそのことを知らせに来てくれたのです。彼はこの件と関わりはありません。」
シオンはイーリスを弁明したが、弁明されたイーリスの方は、少しも感謝した様子はみせていない。
むしろ、蔑むような視線をセイリオスに向けている。
「我が家が司る魔力は微々たるもの。ましてや王家の方には、なんら害を及ぼすものではありません。」
「・・・イーリス?」
「それなのに、あなたは魔法を使わねば、それから逃れることができなかった。それが彼らの知りたかったことなのでしょう?」
セイリオスは彼の言わんとすることを察し、胃の中が冷たくなるのを感じていた。
「幸いにして、彼らはその事実を知ることはない。知らせるはずの祖父はこの有様ですし、私はそんなことに興味はありません。長くもない人生に権力など何の意味もない・・・。」
イーリスの声は無機質なままであった。
「イーリス、私は・・・。」
話しかけたセイリオスにイーリスは打って変わって辛辣な言葉を浴びせた。
「あなた方権力者は、そうやって、自分たちの都合に合わせて人の弱みにつけ込んでくる。」
イーリスの言葉はセイリオスに痛烈な一撃を与えた。
抑揚のない声とそれにおよそ似つかわしくない鋭い視線がセイリオスに投げられている。
「祖父のしたことに関して、言い訳するつもりはありません。祖父の犯した罪は、言い逃れできるものではありませんし。形がどうあれ、王家への不敬罪にはちがいないのですから。」
イーリスは、ただ自分の思っていることを忌憚なく話したに過ぎなかったが、それがどれほどの波紋をセイリオスにもたらしたことか。
王家の血を引いていない自分に、王家への不敬など成り立つはずがないのである。
その事実を知りながら、祖父の罪は王家への不敬罪と言ったイーリスに、セイリオスは返すべき言葉が見つからなかった。
言いたいことを全て吐き出したイーリスは、呆然と立ちつくしたままのセイリオスに関心を示すことなく出ていった。
アヴェニール家最後の一人となったイーリスが、生まれ故郷の町のみならず、クライン王国からも消息を絶ったのは、この直後のことである。

セイリオスは皇太子としての自分の存在価値を常に疑問に思っていた。
図らずもそれは負の方向で認めることとなったのであるが・・・。
自分という虚偽の存在が、不幸な人間を生み出した事実に、更なる呵責が積み重なっていく。
目に見えぬところで、他人の歯車を狂わせてしまったのだという思いがセイリオスという皇太子の存在にまたひとつ影を落とした。
それでも、セイリオスは皇太子という地位を投げ出すわけにはいかなっかった。
これから先、そのことに触れたゆえに、不幸になる人間が幾人生みだされることになろうとも、セイリオスはクライン王国の皇太子で居続けなければならないのだ。

王都を目前にした夜、自嘲的な笑みを浮かべセイリオスはシオンに王家の血を引いていないことを改めて告白した。
「だが、証拠はない。」
シオンは鼻先でセイリオスの告白を一蹴した。
「シオン・・・。」
「ま、この状況下でそれだけ整然とした理論が組み立てられるなら、もう少し前向きに考えろ。何のために俺という魔導士が付けられたかも併せてな。」
軽口を叩きながら一方でシオンは、出発前父がやたらと血筋に拘った訳をおぼろげながら理解していた。
だが、彼の考えは変わらない。
変えるつもりもなかった。
「高貴なる血筋なんぞ、クソ食らえだ。」
シオンはずっと抱いていた権力への嫌悪を堂々と口にした。
「私はただディアーナを守りたい、それだけの理由で皇太子という身分に留まっている人間だよ。」
「ディアーナ?」
どこかで聞いたような名前だが、誰のことなのかシオンにはすぐに思い出せなかった。
記憶をまさぐっているシオンにセイリオスは曖昧な、それでいてどこか羨望的な眼差しを向けている。
「これから、どうするのだ、君は?」
「どうもしない。」
シオンは思考を中断して答えた。
「俺にどうかして欲しいのか?」
投げかけられた視線は、これまでと何ら変わることのないものであった。
「俺の知る限りでは、セイリオス・アル・サークリッドと名乗る男がこの国にとって一番まともな後継者だ。
愛国心だの忠誠心だのは、これからも持つつもりはないが、この国をまともに治められる奴がその男しかいないなら、そいつに付き合うしかないだろ?」
「君の期待は過剰だよ。」
「守りたいものがあるやつは、強いぜ。それ故に諦めないからな。」
「シオンにも守りたいものがあるのか?」
「あいにくと、ない。」
一旦断言してから、シオンはにやりと付け足した。
「当面は、クラインの皇太子とやらがそうなるだろうな。そう命じられている。」
こうなれば、命じた人間の思惑どおりになど絶対動いてやるものかと、返って反抗心が芽生えてくる。
シオンが与えられた命令を文字通りそのまま遂行したことで、その相手に二重の意味で痛手を与えることになるのなら、それもまた一興である。
翌日、皇太子の視察に随行した文官が提出した国内視察の報告書には、全日程をとおして「特記事項なし」と記されていた。

シオン・カイナスが魔導士として正式に宮廷へ出仕するのは、もう少し先のことになる。
そして、その能力を如何なく発揮し、宮廷魔導士筆頭としてセイリオスの腹心と言われるようになるのは、それから更に数年の時を経て後のことであった。


おわり

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