ダブルキャスト

ずっと不思議に思っていた。
同じ騎士でありながら、どうしてこんなに違うのだろう、と。
いつも太陽の中にあって輝いている彼。
人なつこくて、誰にでも好かれている彼。
わたしには無いものを彼は持っている。
それだからこそ共に行動する意味があるのかも知れない。
シルフィスは傍らに立つガゼルへ羨ましそうに視線を走らせた。

初めてあった時から気になる存在だった。
いろんなヤツが騎士を目指していたけど、あんなに意識した相手はいない。
闇を照らす穏やかな月の光が夜に自然と溶け込んでいるように、いつの間にかそこにいるのが当たり前になっている。
だから、一緒に行動するのに何の不安もない。
ガゼルは傍らに立つシルフィスを気にしながらも信頼していた。

年端のいかないふたりは、いつも同じ任務を共同でこなしていた。
初めは互いの足りないところを補いながら、けれども次第にふたりでなければ解決できない内容へと任務は変わっていく。
だが、手柄を立て続けるふたりへのやっかみも手伝って、「ふたりでひとつの役をこなしている」と陰口をたたく声が後を絶たない。
それは心理的な負担となってガゼルとシルフィスの成長を妨げる。

シルフィスとガゼルは与えられた任務へ旅立つ前に、必ずディアーナの部屋へ挨拶に訪れた。
「これからまた任務で王都を留守にしますので、その挨拶に参りました。」
クライン王国の王女であるディアーナは、本来ふたりの主筋にあたるが、彼女は主君としてではなく友人として接することをふたりに約束させていたのだ。
それでも人目のあるところではそれなりのけじめを付ける必要がある。
すっかり騎士用の挨拶が板に付いたシルフィスにディアーナは少しばかり寂しさを感じながらも友人達が重要な任務を与えられていることを喜んだ。
「今回もまたふたり一緒ですの?」
「それぞれの足りないところを補って、ようやく一人前ですからね。」
シルフィスの言葉にディアーナの形の良い眉がピクリとつり上がった。
「いったいどこの誰がそんな馬鹿げたことを言ってますの?」
おっとりした姫君にはおよそ似つかわしくない毒気のある問いが返ってくる。
いつになく言葉の端々に険が感じられ、明らかに彼女は怒っていた。
「別に誰と限ったことではなくて・・・。」
口ごもったシルフィスにディアーナはピシャリと言い放った。
「いいですこと、シルフィス。ふたりで一人前だなんて、そんな馬鹿げたことを真に受けて他人に遠慮することの方こそ馬鹿げてますわ。」
そして同じようにガゼルに視線を移した。
「まさか、と思いますけど、ガゼルまでそんな馬鹿げたことを真に受けているんではないでしょうね。」
「えーっと・・・。」
返答に窮してガゼルはディアーナから視線をはぐらかせた。
「で、でも、姫、実際ふたり一緒でなければ任務に支障があるのも事実ですし。」
「だからといって、ふたりで一人前だなんて卑下する必要はありませんわ。」
大の騎士ふたりがたじろぐほどにディアーナの語気は荒い。

「おや、随分と賑やかだね。」
「お兄さま!」
クライン皇太子セイリオスの突然の訪問に、ガゼルとシルフィスは慌てて姿勢を正した。
セイリオスの表情から、それまでのディアーナとのやり取りを聞かれていたらしいと察し、ふたりは黙って俯いている。
セイリオスにしてもガゼルとシルフィスの実力はよく知るところだが、肝心の当人達が今ひとつ自信を持てないでいるのを内心気にしてはいた。
ふたりを同じ任務に就かせているのは、万が一の時に互いの代役が務まるようにとの思いからなのではなく、ふたりが一緒でなければ務まらない任務なのだと、この際はっきりさせて置いた方がいいのかもしれないと考え始めている。
口で説明するのは簡単だが、ふたりが心から納得しないと意味がないだけに、これまでずっと後回しにしてきたのであった。
そこまでセイリオスが決意したとき、ディアーナの怒りはあらぬ方向へと向かっていた。
「今度わたくしの前でそんな馬鹿げたことを言ったら・・・。」
ごくり、と唾を飲み込んだふたりにディアーナは極上の微笑みを浮かべてのたまわった。
「お兄さまにお願いして、わたくし付きの騎士にしていただこうかしら?わたくし付きの騎士なら、別に一人前でなくてもいいはずですもの。」
その瞬間、ガゼルとシルフィスの表情に走った動揺をセイリオスは見逃さなかった。
ふたりとも騎士見習いの間中、ディアーナのお忍びに振り回されて散々な目にあっていることは風の噂に聞いている。
困難な任務より、そちらに就く方がふたりにとっては大問題のようであった。
「なかなか有意義な提案だね。」
笑いたいのを必死で堪えてセイリオスは重々しく頷く振りをしてみせた。
「さて、どうするかな?」
どうやらセイリオスが説明するまでもなく、ガゼルとシルフィスはディアーナが引っ張り回すのは見習い騎士の間だけであることに気が付いたようである。
国家のために必要な騎士を自分の自由で連れ回すほどの我が儘さはディアーナも持ち合わせてはいないのだ。
「ガゼル・ターナ、シルフィス・カストリーズ、これより出発します。」
改めて挨拶した二人の声には、これまでにない自信が漲っていた。
ガゼルにはガゼルにしか成せない役を、そしてシルフィスにはシルフィスにしかできない役をそれぞれ担ってクライン王国の若き騎士は旅立っていった。

ガゼルとシルフィス


おわり

創作:NARU、CG:れいり様 [00.11.13]