遠い日の夢を花束にして
新制ダリス王国におけるディアーナ女王の治世は、概ね順調な滑り出しをみせていた。
時折、旧ダリス王族が王位奪還の反乱を起こすことがあるが、大抵は反乱そのものが未遂に終わる。
略奪と戦争の混乱しか与えなかった旧王族に、国民は何の未練もなかったのだ。
ディアーナの戴冠式では、ダリスの民は彼女を「我らが母」と歓呼した。
ディアーナは国民の声によく耳を傾ける君主として、ダリスの民から慕われている。
そして、ディアーナの両翼には宮廷魔導士としてメイが、そして近衛騎士としてシルフィスが就いている。
彼女達もまた異国人でありながらダリスの英雄として絶大な人気を誇っていた。

ディアーナは民の声を聞くために、国内をよく視察に出かける。
小国のクラインと違って、ダリス国内は広く、時には何日も王都を留守にすることもある。
ディアーナは常に忙しく動いていた。

その日もディアーナはメイを護衛に、強行スケジュールで地方都市を訪問し、夜遅く王宮に戻ってきた。
「お疲れさま、メイ。明日はシルフィスにお願いしてありますから、ゆっくり休んでね。」
「・・・ありがとうございます、陛下。」
3人だけの時を除いて、シルフィスとメイもディアーナを「陛下」と呼んだ。
他の臣下達の手前、けじめはつけねばならない。
それはともかく、ディアーナの方こそ疲れているであろうにと、このところの強行軍を少々心配しているメイである。
「とりあえず、引継してっと。」
メイはシルフィスの部屋を訪れた。
そして、そこでクラインからの使者を問いつめているシルフィスを目にしたのである。

クライン王国皇太子セイリオス暗殺未遂。
それが、使者のもたらした第一報であった。
云われなき醜聞に過去幾度となく繰り返されてきた陰謀。
シルフィスやメイもクラインに居た時、その現場に居合わせたことがある。
しかし、宮廷魔導士であるシオンをはじめとする警備陣の中、常に未遂に終わっていた。
シルフィスも、最初は単なる未遂だろうと軽く構えていたのだが、どうも様子がいつもと違う。
そしてセイリオスが傷を負ったことを知らされたのである。
「それで、殿下は、無事なの?」
「は、はい、その・・・たぶん。」
自信なさそうな使者の声に、思わずメイは舌打ちする。
「シオンは何やってたのよ!」
「メイ、声が大きいです。ディアーナに聞こえたら・・・!」
シルフィスの目が入り口を凝視し、つられて振り返ったメイも呆然となった。
「お兄さまが・・・怪我?。」
そこには顔面蒼白の、今にも倒れそうなディアーナの姿があった。

「ディアーナ、あの・・・。」
「お兄さまは?」
ディアーナは今にも泣きそうな目をしていたが、それでも声だけはしっかりしていた。
「お兄さまは、ご無事なの?」
だが、その質問に明確な答えを言える者はそこにいない。
「・・・帰りますわ。」
ディアーナがぽつりと言った。
「お兄さまのところへ帰るの。」
大きな瞳に涙を今にも溢れんばかりに浮かべている。
「ディアーナ、落ち着いて。」
シルフィスが慌てて涙を拭ってやると、そのまま声を殺して泣き始めたのである。
「・・・ディアーナ・・・。」
クラインに帰りたくても、もはやディアーナはダリスの女王なのだ。
その身に受けた王冠の責任と義務を放棄することはできない。
シルフィスの肩に顔を埋め、嗚咽を押し殺してしゃっくりあげるディアーナをメイは痛ましそうに見つめるだけであった。
「詳しいことをできるだけ早く調べさせますから、ね?」
シルフィスに促され、支えられるようにしてディアーナはその部屋をあとにした。

後に残されたメイは、シルフィスに代わって使者から事情を再度聞いてみたが、肝心なことはわからないときている。
「ったく、あんたじゃ、埒あかないわね。他になんか知ってることは?」
申し訳ありませんと使者は頭を下げるだけなので、メイはそれ以上尋ねることを諦めた。
「メイ、どうで・・どこへ行くのですか?」
戻ってきたシルフィスは、メイがコートを羽織っているのを見て問いかけた。
「ちょっと、クラインまで、シオン殴りに。」
短く答えるメイにシルフィスは頭を下げた。
「やだ、シルフィスったら。」
そして、ぽんぽんと、シルフィスの肩を叩く。
「ディアーナ、お願いね。すぐ戻ってくるから。たぶん、夜明けまでには帰れると思う。」
「メイ、私の分も、お願いしていいですか?」
「もちろん。ディアーナを泣かした分も併せてきっちり殴ってくるわよ。」
シルフィスは窓を開けた。
「気をつけて。」
星明かりの夜空に、メイは箒に乗ってダリスの王宮をあとにした。

おあつらえ向きの新月に感謝しつつ、メイは箒に乗ってダリスから一気にクライン王宮を目指した。
闇に覆われたクライン王宮の、宮廷魔導士シオンの執務室へメイは急降下した。
まるで、メイの到着を図ったかのようなタイミングで窓が開く。
「・・・なーんだ。」
「シルフィスでなくて悪かったわね。」
そのままメイはストンと室内に降り立った。

深夜というのに、そこには明々と明かりが灯り、書類の山が至る所に散乱していた。
手近にあった紙には、メイにも記憶にあるクライン王族の名とその行動が細かく記されている。
いくつかの行動記録の裏を取るために更に指示を出した形跡もある。
インクの跡がまだ新しいそれらを手に取り、メイは小さく舌打ちした。
一分の隙もないその対応に感心すると同時に、それでもなお、防ぎきれなかったと言う事実に無性に腹立たしくもあった。

「どうした?」
飛び込んできたときには、いまにも爆発せんばかりに気を張りつめていたのに何も言わず紙切れを持って立っているメイに、シオンは声をかけた。
「なんでなのよ!」
メイはバサリと手の書類を放り出して叫んだ。
「これだけやってて、それでもなお、裏をかかれたって言うの?」
「隙があったからな。」
間髪いれず、シオンが吐き出すように言った。
「隙?」
シオンの言葉にメイは信じられないとばかりに目を見開いている。
「どこよ。どこに隙があるって言うのよ。」
同じ宮廷魔導士として、メイにはシオンがいうところの「隙」がわからなかった。
少なくとも、シオンもその指揮下の魔導士にも、書類を見る限りは完璧に役割をこなしているとメイには思えたのだ。
魔導士だけではなく、近衛騎士との連携も完璧だ。
メイの瞳が当惑から怒りへと色を変えようとしている中、シオンの口が再び開かれた。
「隙があったのは、殿下さ。」
「それこそ、嘘でしょう?」
一番要となるべき本人に隙があったのでは、まわりがどれほど努力しようと無に帰してしまう。
「本当さ。それより、こっちが聞きたい。」
シオンの口調からいつもの軽さが消え、追求する厳しいものに変化した。

「ダリスの女王は結婚するつもりなのか?」
「はぁ?」
シオンの気に思わず身構えたメイだったが、質問を聞くなり、およそその雰囲気に似つかわしくない素っ頓狂な声をあげてしまった。
「別にあり得ん話じゃない。結婚も君主の義務のひとつだからな。」
淡々と続けるシオンに、メイは開いた口が塞がらない。
「いったいどこから、そーゆー話を思いつくわけ?」
メイは呆れると同時に、収まりつつあった怒りが再び湧いてくるのを感じた。
もともと、ここに来た目的は・・・。
「もーう、あったまにきた!」
ダンッと足を踏みならすと、次の瞬間、メイは音もなく、いきなりシオンの正面に出た。
「しーおーん、覚悟!」
メイの手が思いっきり振り上げられたのと、ほぼ同じくして、シオンの部屋に新たな来訪者が訪れた。

「・・なんで、お前がいるんだ?」
「メイじゃないですか〜。どうしたんですか〜?」
「キール?」
キールとアイシュの出現に、メイの注意がそれた一瞬の隙に、シオンはすばやくその場を移動する。
タイミングを逃したメイの攻撃の手が、むなしく空を切った。
「ちょーっと、避けるな!」
バランスを崩したメイはそのまま倒れかけ、床とキスする寸前、キールに抱き留めらたのであった。
「お疲れさん。」
くつくつと笑みを浮かべ、シオンは訪問者達に手近なソファーを示した。
キールに睨まれ、さすがにこの体勢では不利と悟り、メイも取りあえずはおとなしくソファーに収まった。

「で、なんでダリスにいるはずのお前が、こんな所にいるんだ?」
「それは、こっちの台詞よ。」
「今、何時だと思ってるんだ?」
「そっちこそ、夜中の王宮に何の用があるわけ?」
「お前、俺の専門が何か覚えてないのか?」
「まぁ、まぁ、ふたりとも落ち着いて。」
放っておくと取っ組み合いでもしかねないキールとメイの様子に、アイシュが割って入る。
「キールもメイも、そんなに興奮してたら身体が回復しませんよ〜。」
「そうそう。」
そして、シオンはキールに報告を求める素振りを示した。
「殿下の容態は取りあえず落ち着きました。」
メイはキールが治癒魔法を専門としていることを不意に思い出し赤面する。
セイリオスが負傷したとなれば、当然彼の魔法が必要とされるのだから。
「安静にしていただければ、数日のうちに回復できると思います。」
キールの報告は、メイが最も知りたいことを教えてくれたのだ。

「と、いうことだ。ダリスの魔導士さん。」
「ありがと、シオン。」
メイは取りあえず最悪の知らせを持ち帰らなくてすんだことに胸をなで下ろした。
けれども、根本的な疑問がまだ残っている。
なぜ、セイリオスが負傷するほどの隙をつくったのか?
改めてシオンに顔を向けたメイは、それまで見たことのない厳しい表情をしているクラインの魔導士と対峙することとなった。

「ダリスの女王が結婚するというのは、本当なのか?」
メイが怒りを彷彿させる要因となった話題を再びシオンは口にした。
けれども、そこにいるのはメイの知っているお気楽なシオンではなく、クラインの宮廷魔導士、筆頭としての冷酷な執政官だった。
「なぜ、と伺ってもよろしいかしら?」
シオンがそのつもりなら、メイもまた、ダリスの宮廷魔導士として応ずるまでだ。
「それが、殿下の隙の原因だからだ。」
「そんな・・・。」
莫迦な、と続けようとして、メイは次の瞬間、その言葉を飲み込んだ。
シオンの言葉には文字どおりの意味と、もうひとつとんでもない事実を含んでいることに気が付いたからである。
「・・・まさか・・・。」
メイは脳裏をよぎったその考えを慌ててうち消した。
「そう、その、まさかが殿下の隙を、また、産み出したのさ。」
シオンは、メイの微かなつぶやきを肯定し、何かを思い起こすかのように瞼を閉じた。

あのときは、ディアーナがいたから、セイリオスは皇太子という責務に留まった。
けれども、今度はディアーナ故に、その責務を放棄しようとしたのだ。

クラインに居たときから、ディアーナに好きな人がいることは知っていた。
そして、それが兄であるセイリオスらしいことにも薄々気が付いていた。

「それじゃ、中大兄皇子と間人皇女じゃない。」
「なんだ、そりゃ?」
キールの視線にメイは慌てて口を押さえた。
「なんでもない、あっちの歴史。」
「おまえ、そんなくだらないこと考えてたのか?」
「だって、同じなんだもん。」
キールの冷たい視線にメイはぶーっと膨れて答えた。
「・・・ふたりとも立派な功績を残したのに、禁断の恋で・・・正史からはひどい扱い受けたわよ。特に間人皇女の方が。」
ふたりの気持ちが公になれば、故国を去り他国の女王となったディアーナの方が圧倒的に不利だという点も同じではないか。
「だから、年表のはっきりしない時代ってこともあって、実はふたりは兄妹ではありませんでしたっていう設定のロマン小説が跡を絶たないんだわ!」
ひとり悦に入ってしまったメイに、キールはお手上げだと首を振った。
「・・・血が繋がってなけりゃ、いいわけかい?」
「だって、ふたりの功績、歴史上無視できないもんだったし。民衆は暮らしやすければ、君主が誰だろうと文句言わないし。正当な血筋うんぬんより、実績がものをいうって言うか・・・。」
次第に声が小さくなるメイとは反対に、シオンの瞳は強い光を宿しはじめていた。

「シオン?」
黙りこくったまま、真剣な表情でじっと考え込んでいるシオンの目前で、メイは手を左右に振った。
「起きてる?」
「ああ、おかげでしっかり目が覚めた。これ以上ないってほどにな。」
そう言った魔導士は、いつもの不敵な笑みを浮かべたシオンだった。
「火の起たないところに煙は発たない。先手必勝あるのみさ。」
「はぁ?」
「クラインは小国、故に血に拘る。それなら、そいつを逆手に取るまでだ。」
「あのー、わかりやすく、話してくれない?」
「姫さんにクラインを継いでもらうのさ。それが最善だってことだ。」

「ディアーナは、イサベル女王じゃないのよっ!」
「・・・おまえな、いい加減にしろよ。」
またしても、意味不明な人物の登場に、キールの冷たい視線が飛ぶ。
しかし、シオンの反応は違った。
「ふーん、嬢ちゃんの世界にも類似例はあったってことか。」
「類似例ってほどじゃないけど・・・。」
「あのー、それって、どういう方なんですかー?」
アイシュの興味深そうな声に、メイはちらりとキールを見やり、黙ったままなので結果だけを端的に話した。
「イサベル王女は、駆け落ちして他国の王妃になったけど、国王だったお兄さんが亡くなって、結局、自分の国の女王にもなったの。」
「殿下を勝手に殺すんじゃない。」
「人の話は最後まで聞きなさいよ。」
こうなったらもう自棄だとばかりに、メイはスペイン王国史をまくしたてた。
「どっちの国もイサベルを必要としたから、ふたつの国が合併して、新しい国になったの!新国家として機能したのは孫の時代からだけど。」
「よく、覚えてますねー。」
「悲劇の兄妹の大恋愛に、世紀の駆け落ち恋愛結婚よ。そーゆーロマンスでもなけりゃ、学校の歴史なんてかったるくて覚えてらんないわよ。」
そこまで一気に話して、メイは肝心なことが抜けていることに気が付いた。
シオンに視線を返すと、彼はこともなげに言い放った。
「セイルとディアーナは兄妹じゃない。クライン国王夫妻の子供はふたりの王女だけさ。」
「・・・・!」
メイは反射的にソファから立ち上がり、目をまん丸くしたまま動けないでいた。

「アイシュ、今の成文化できるか?」
「できなくは、ないですけど〜。」
「どのくらいかかる?」
「・・・具体的な日数まではちょっと・・・数週間か、数ヶ月か・・・。」
ぽかんと口を開けたままのメイをシオンがからかうように、その背をぽんと叩いた。
「ま、嬢ちゃんのロマンスもまんざら捨てたモンじゃないってことだ。」
いつもどおりカラカラと笑いながら、だが、その瞳は真剣で固い決意を秘めている。
「これから、忙しくなるぞ。」
呆然としたメイの瞳に、アイシュを促し部屋を出ていくシオンが映り、消えていった。

「なにやってんだ、おまえ?」
「腰抜けた・・・。」
メイは床にぺたんと座り込んだまま、ぼそっと言った。
「だって、あんなシオン、はじめて見た。なんて言うか、その、驚いちゃって。」
「おまえなぁ。」
キールはあきれると同時に何やらおかしさが込み上げてきた。
確かに、シオンのまじめに仕事をしている姿など、普段の姿しか知らない者には想像することさえ困難であろう。
そうそう拝めるものではないのだから、ああいうシオンを見れば腰のひとつでも抜かそうというものだ。
かく言うキールとて、真面目に仕事をするシオンの姿を見たのは、今回がはじめてなのである。

「いつまで、そうやってるつもりだ?」
メイは座り込んだままで、大きくため息を吐いた。
これからまた、ダリスへとトンボ帰りしなくてはならないのだ。
「少し、休んでいくか?」
キールの手が、ぽんぽんと軽くメイの頭に触れる。
「いいの?」
嬉しそうに顔を上げるメイにキールは「少しだけだぞ。」と念を押す。
「うん。」

「なにしてんだ?」
部屋を出ようとして、キールはへたり込んだままのメイを省みた。
「・・・疲れた。もう、動くの、イヤ。」
「・・・。」
キールはつかつかとメイの側に戻ってくると、
「今回だけだからな。」
と断って、ひょいとメイを抱き上げた。
「このまま、シオン様の部屋に置いとくわけにいかないだろ。」
メイの両腕が、キールの首に回される。
「キール、大好き。」
軽く唇を触れ合わせ、今度こそ、キールはシオンの部屋をあとにした。

「シオン、まだですか?」
淡いグリーン色のドレスに身を包んだシルフィスが、何度目かの声をかけた。
「もうちょっとだ。」
丹精込めて育て上げた花園の中で、シオンは、白い花を摘んでいる。
「ったく、これは、シルフィスのために取っておいたのに・・・。」
見事な白い大輪の蘭の花を、シオンは次々切りとり、腕に抱え込んだ。
「シオン!」
顔を見なくとも、シオンにはシルフィスのふくれっ面が目に浮かぶ。
「へーへー、聞こえてますよ。」
シオンは腕の中の花を確認すると、
「こんなもんか・・・。」
とひとり呟き、花の中から姿を現した。

「おそいっ!」
花園を出たシオンを待っていたのはシルフィスだけではなかった。
レモン色のドレスを翻しながら、メイが駆けってくるのが見える。
「すみません、メイ。」
「シルフィスのせいじゃないでしょ。どーせ、シオンが駄々こねてんだろーから。」
メイはシオンが手にしている花が、誰のために育てられてきたのか知っている。
・・・ちょっーと、気の毒かもね。
内心、同情しながらも、遠慮なくもぎ取っていこうとしているメイなのだ。

「これくらいで足りるだろ?」
「おっけー。十分よ。んじゃ、もらってくから。」
メイは満足そうにその花束を受けとった。
「さぁ、急がないと、間に合わなくなっちゃう。」
「・・・なら、別のにすればよかろうに・・・。」
「しーおーん!」
シルフィスが睨み、軽く耳を引っ張った。
「いてて・・・。わかってますよ。大事な、大事な、姫さんのため、だろ?」
「わかってれば、よろしい。」

それは、遠い日、ディアーナが語った夢だった。
「この花園で、朝一番に咲いた花で作ったブーケを持って結婚したいですわ。」
性別が分化前のシルフィスと、魔導士見習いのメイの3人で、
シオンの花壇を訪れた少女のディアーナが、くったくない微笑みを浮かべて話した夢。
その時、少女の隣に立っていた彼女の兄は、「誰と結婚するのかな?」と冗談めかせて尋ねていた。
「もちろん、お兄さまとですわ。」
クスクス笑いながら無邪気に答える少女に、彼は複雑な笑みを返すだけだった。

あれから、どのくらい時を過ごしたのだろう。
少女達は旅立ち、今、再び帰ってきた。

王族に生まれた者の責任と義務。
それ故に阻まれた恋が、それを期待する人々の力で、成就しようとしている。
クライン王国の正当な王位継承者でありながらダリス王国の女王となったディアーナと、クラインの王族の血を引かないセイリオス。
王冠の意味と国民への愛を知るふたりを、民衆は祝福した。
メイが深夜のクライン王宮を尋ねたあの日から、ふたりの糸車は再び回り始めたのだ。
シオンの周到なる準備の後に真実が公表され、文官から新しい国を成立させるための方針が提案されて、結局はそれが両国にとって最善の方法と判断されたのだ。
セイリオスとディアーナが常に意識し続け、その責任と義務を果たしていた実績が、なによりの説得力を持っていた。

「ディアーナ、はい、お待たせ!」
メイは、できあがった見事なブライダル・ブーケを、純白のドレスに身を包んだディアーナに差し出した。
「シオンの花園に今朝、咲いた花だからね。」
ディアーナの受け取る手が、微かに振るえている。
「で、ものは相談なんだけど、それ、あたしに投げてね。」

「お時間でございます。」
出立の合図の声がかかり、未来への扉が開かれた。

愛しているよ、ディアーナ。
クライン王国のセイリオスが神殿の壇上に控えている。

愛していますわ、セイル。
ダリス王国のディアーナが神殿へと歩みを進めていく。

その日、クライン・ダリス連合王国が誕生した。


おわり
創作:NARU(99.03.07)
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