納得できない理由
ミリエール・フォン・ローゼンベルク。
その少女が、シオンに連れられて王宮にやって来たとき、アイシュは来るべきものが来たとは思ったが、こればかりは絶対引き受けてはならないと堅く心に決めていた。
「そー言わずに、助けてくれって。」
「ダメですってば〜。」
シオンの押しから、必死で逃げるアイシュに、女神様も心を動かされたのであろうか。
折しもディアーナを王宮に訪ねて来たシルフィスとメイがその現場に出くわしたのである。
「おや、シルフィスにメイじゃないか。」
「助かりました〜。ではでは、僕はこれにて〜。」
アイシュは、そそくさと二人の間をぬって執務室に消えてゆく。

「どうして、あんなに慌てていたのでしょうか?」
「さあ?」
めったにないアイシュの慌てる姿に首をかしげつつ、中庭を通り過ぎようとしたとたん、
「いやー、ちょうどよかった。」
とイヤに腰の低いシオンとはち合わせすることとなった。
「どしたの?」
何の気なしに尋ねたメイに、シオンは渡りに舟と、件の少女を呼びだした。
「おーい、ミリエール!」
「はーい、しおんさまぁ。」
年の割には、なんとも派手派手な女の子が甘ったるい声と共に現れた。
「うっ。」
「げげっ!」
絶句する二人に、シオンはすましてミリエールを紹介する。
ミリエールもにーっこりと名乗り身体をくねらせた。
そして、事情を切々と訴えるシオンに二人の冷たい視線が向けられることとなる。
「・・・どうしてアイシュがあんなに慌てていたのがわかったような気がするわ。」
ぼそりとメイが呟いた。

「それじゃ、さよなら。」
くるりと踵を返すふたりに、シオンが食い下がる。
「だから、知人からある事情で、止むを得ず預かっただけなんだよ!」
だんだん声が高くなる。
「どうしましたの?」
なかなかシルフィスとメイが来ないのを心配して、ディアーナが様子を見に部屋を抜け出してきた。
「お、姫さん。」
「まあ、シオンまで。どうしましたの?」
けれども、事情を知ればいつもどおりに、にこにこというわけにはいかなくなったのである。

中庭で3人と2人が平行線な話し合いを続けている。
「だから、頼むよ。」
シオンも必死である。
「いいよ。」
仕方がないか、とついにメイがOKを出した。
「え!?」
「メイ、本気ですの?」
「まあ、あたしも居候の身だから、偉そうなこと言えた義理じゃないけどね。」
そして、メイはミリエールに向き直った。
「ふたりで、人間らしい生活環境、勝ち取ろうね。」
「は?」
「着るものは、今着てる物だけ。おやつ、なし。夏は暖房、冬は冷房。毎日山のように宿題があって、暇なときは使い走り、と。それから・・・」
指折りながら話し続けるメイに、ミリエールの表情が凍り付いていく。
「え、遠慮いたしますわ。そんなところへ行くくらいなら。」
ミリエールの視線が真面目そうなシルフィスを捉えた。
「騎士見習いの方が、マシですわ!」

「じゃ、さっそく隊長に話しに行きましょう。」
先ほどとは打って変わり、シルフィスが前向きに申し出た。
「ガゼルも喜びますよ。朝練メンバーが増えたって。」
「は?」
「私達は隊長に直属ですから、一日もはやく立派な騎士になれるよう、他の人より努力しなければならないんです。」
真剣な表情で、シルフィスは、夜明けと共に始まる朝練のメニューを並べはじめた。
「冗談じゃ、ありませんわ!」
ミリエールが後ずさり、おっとり構えていたディアーナとぶつかった。

「王女殿下でいらっしゃいましたわよね。」
「は、はい、ですわ。」
反射的に返事をしてから、ディアーナは慌てて首を振った。
「わたくしもダメですわよ。」
しかし、ディアーナには先の二人のように具体的な何かがあるわけではない。
生活環境は申し分ないし、日常生活も自由そのものである。
ここで断られると、後がない。
「いやあ、持つべき者は慈悲深い君主ですなー。」
シオンもここぞとばかりに褒めちぎる。
「あうぅ・・・。」
決まったな、とメイがにんまりシルフィスに目配せした。

こうして、ミリエールはディアーナが引き受けることとなった。
「ぜーったい、納得できませんわ!」
ミリエールと対峙した時、ディアーナがいつになく、きっぱり反論した裏には、そういう事情もあったのである。


おわり
創作:NARU(99.03.22)
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