貴族の嗜み、騎士の条件
「ふう、なんとか、成功ですわね。」
当たりの様子を慎重に伺いながら、ディアーナは王宮の門から外に出た。
街の中の人混みに紛れてしまえば、そう簡単には見つかるまいと一目散に駆けていく。
広場にたどり着き、一息ついたところにメイがやって来た。
「やっほー、ディアーナ。」
メイの気さくな態度には一部の者から批判の声も挙がっているようだが、ディアーナにとっては安心できる相手である。
「今日もお忍び?」
「たまには息抜きも必要ですわ。」
すまして答えるディアーナにメイは笑いを禁じ得ない。
なにしろ、ここ数日毎日のように出会っているのだ。
彼女の家庭教師達の顔ぶれがまた変わる日もそう遠いことではなさそうである。
「あと、どのくらいで代わりそう?」
遠慮なく聞いてくるメイに、ディアーナは大きなため息をひとつ吐いた。
「今回ばかりは、無理ですわ。」
「それはまた、熱心な人がいたもんだ。」
「ちっとも熱心ではありませんのよ。」
「へ?」
クライン王国の王女の家庭教師ともなれば、それこそ希望者は山のようにいるだろうと思うのだが・・・?
「仕方ありませんわ。お兄さまの命令ですもの。」
ディアーナはほとほと困り果てている様子である。
「でもさ、そんなに嫌なら、代えてもらえば?」
「それができれば苦労はしないのですわ。」
そして、ディアーナは熱心でない家庭教師の名を告げた。
「レオニスをクビにはできませんもの。」
「はぁ?」
あまりに意外過ぎて、すぐには名前と顔が一致しなかったメイである。
「今度の狩りまでに、ぜーったい馬に乗れるようにならなくてはいけないんですの。」

事の起こりは、次に開催される狩りにディアーナも王族の一員として出席が求められたことに始まる。
兄、セイリオスから打診されて、何の気無しに出席を承知したディアーナに、狩りに必要不可欠な乗馬の訓練が課せられた。
セイリオスの颯爽とした乗馬姿には、思わずうっとりしたものの、いざ自分が乗るとなると話は全く別である。
「馬がまるきり相手にしてくれませんの。」
最初だからと、セイリオスが手綱を引いていた間はおとなしくディアーナを乗せていたのに、人が変わったとたん、むずがって少しも言うことを聞いてくれないのである。
「馬を代えてもらうとか、しなかったの?」
「それが一番おとなしい馬なのですって。あとは気性が荒すぎて・・・。」
乗る以前に馬から拒否されたとは言えないディアーナである。
かといって、セイリオスがずっと調教するわけにもいかず、白羽の矢が立てられたのがレオニスだった。
折しも見習い騎士のシルフィスとガゼルの訓練のため馬場を訪れていたこともあり、当人の意志の有無に関わらず決定してしまった。

「そりゃー、レオニスも・・・。」
災難だわ、とそこまで出かかった言葉をメイはぐっと飲み込んだ。
その代わりに、「シルフィスも一緒なの?」と尋ねてみた。
コクリと頷くディアーナに、「なら、いいじゃない。心強い仲間がいてさ。」と励ました。
「ちっとも、よくありません。」
ディアーナに劣らず暗い声で、噂の当人が現れた。
「シルフィス!」
「姫、またサボりましたね。」
「あぅぅ・・。」
「まあまあ、いいじゃない。」
「よくありません!」
いつになく強気なシルフィスに、思わずメイはたじろいだ。
「私だって、乗馬は苦手なんですから。」
村育ちのシルフィスなら、さぞ馬の扱いには慣れていることだろうと思っていたので、ここでも驚きを禁じ得ないメイである。
「シルフィス、馬、嫌いなの?」
「いえ、馬は好きです。でも・・乗馬は苦手なんです。あの高さから見下ろすのは・・・。」
考えるだけでも恐ろしいと身震いしている。
「姫がいないと、隊長が私一人に集中するじゃないですか!」
ディアーナは首を縮込め、メイの顎がカクンと落ちた。

「とにかく、午後の訓練は一緒ですからね。」
どうやら、シルフィスはディアーナを同行するべく捜していたらしい。
「で、でも、シルフィス。騎士になるために乗馬は必要条件なのでしょう?
この際、わたくしに構わず、集中して教えていただいた方がよろしいのではなくて?」
「姫こそ、貴族の嗜みとして必要なのではありませんか?それも、早急に。」
どちらもどちらだと、メイはふたりを見やっている。
「ふたりとも必要には違いないんだから、仲良く頑張れば?」
何気ないメイの一言に、ディアーナがむぅっと睨み返す。
「メイは馬の怖さを知らないから、そんなことが言えるんですわ。」
「だって、乗馬なんてやったことないもん。」
「したこと、ないんですか?」
シルフィスの瞳がキラリと光った。
「ないよ。あっちではそれこそ、必要ないもんね。」
「わかりました。メイだけ、知らないのでは不公平です。」
「へ?」
「そうですわね。」
ディアーナがにっこりと笑いかけた。
「一緒に、練習しましょう。仲間は多い方がいいですもの、ね?」
「ええ!?」
ディアーナとシルフィスが両サイドから、がっちりメイを捕らえている。
「さ、行きましょう!」
「ちょーっと、まったー!」
そして、メイのむなしい声が広場に残された。

手の掛かる生徒が3人もいれば、レオニスの注意が自分一人に集中することはあるまいと、密かに目論んだものの、現実はそう甘くない。
「ひとりも3人もたいして変わらん。」
何人もの見習い騎士の面倒を見てきたレオニスには、全く意味がなかったようだ。
いずれにせよ、ディアーナが無事狩りに出席し、シルフィスが騎士になる日まで、レオニスの訓練は続くのである。

おわり
創作:NARU(99.02.27)
Home > 二次創作 > ファンタスティックフォーチュン