騎士団の風景

あちこちで、若い男女がプレゼントを間にはさんで恥ずかしそうに向かい合う光景が見られるその日、騎士団宿舎では軍団長が長身の近衛騎士に向かい合っていた。
 よりによって、なんでこんなところに来合わせてしまったのだ、とそれを目にした誰もが思う。
 レオニス相手に熱弁をふるう軍団長の姿は熱心にかき口説いているようにも見えなくもない。
おまけに、二人の間には一目でプレゼントの包みとわかる、かわいらしい箱が存在しているのだ。
 つい不気味な想像が頭をよぎり、この光景に遭遇したものは、何も見なかったとつぶやきつつ、そそくさとその場を離れてゆく。
「聞いておるのかね?」
「はあ」
「私の娘の手作りだぞっ!?それを受け取らんとはどういうことだっ!」
 親馬鹿まるだしの言葉に、レオニスの忍耐力が一層、摩耗した。
「ですから、何度も申し上げておりますように、私は甘いものが苦手でして」
 最後の一線で踏みとどまり、なんとか当たり障りのない答えを返す。
「無理に食べろとはいわん。受け取るだけでいいのだ。私の娘がお前のために作ったのだぞ!」
 レオニスは深々と息を吸い込んだ。その息を吐き出した時には忍耐力というものはきれいさっぱり消滅していた。
「わかりました。受け取るだけ、でいいのですね?」
「そうだ」
 勝ったとばかりに満足げに頷く軍団長。
「では受け取らせていただきます」
 レオニスは箱を手に取った。軍団長が勝利を確信したのも束の間、レオニスはくるりと後ろを向いて言った。
「ガゼル!」
 こわいもの見たさで、こっそりと見物していた騎士見習いを呼ぶ。
 おずおずと近づいてきたガゼルに、ずいっとレオニスは小箱を差し出した。
「軍団長殿の令嬢の手作りだそうだ。ありがたくいただけ」
 ぴきんと空気が凍りついた。ガゼルも軍団長も微動だにしない。
「どうした?」
 青い目で凄まれ、ガゼルはあわてて小箱を受けとった。
「レオニス!お前はなんという」
 激怒する軍団長をレオニスは氷の視線で黙らせる。
 その時、軍団長が感じたのは生命の危機だったに違いない。
「受け取るだけでよいとおっしゃったのは軍団長殿のはずですが。では、私は約束がありますので」
 席を立ち、先程から待たせている恋人のもとへまっすぐに向かうレオニスの後ろ姿をガゼルは軍団長とともに凍り付いたまま見送った。
 その後、軍団長はきっぱりとレオニスと娘との見合い話をあきらめたという。

おわり

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