願い事

 その日もキールが王宮の書庫を出たのは日が暮れた後のことだった。
「キール!」
 門のところで栗色の髪の少女が手を振った。
傍らに金髪の騎士見習いが立っている。
「…何やってたんだ、こんな時間まで?」
「あは、ディアーナのとこで、おしゃべり。キールは相変わらず書庫通い?
毎日、よく飽きないもんね」
「…おまえ達こそ、よく飽きもせずしゃべれるもんだ」
「おしゃべりは女の子の特技だって。ね、シルフィス?」
 金髪の騎士見習いは曖昧な笑みを浮かべた。
 未分化なのに、勝手に「女の子」に分類されて困惑しているのかもしれない。
 それとも、もう分化が始まっているのだろうか?
 メイを両側から挟むようにして三人は歩き出した。
 ちらりとキールはメイの頭越しにシルフィスを見遣った。
 …気のせいじゃないな。
 あまり面白くない事実を確認してキールは憮然となる。
「あ、流れ星!」
 メイの指さした先で夜空に尾をひいて星が流れた。
「なんか願い事した?」
「ええ」
 何を願ったのだろうか、騎士見習いは笑顔で頷いた。
「キールは?」
「…ただの迷信だろう」
 無愛想にぼそっとつぶやく。
 かわいくないなぁとメイが文句をつけても、キールは黙っていた。
 口が裂けても、キールは自分も願い事をしたとは言えなかった。
言ったが最後、何を願ったのか聞き出そうとメイは躍起になるだろう。
 彼のひそかな思い人は未だ成長期にある。
 シルフィスの身長がこれ以上高くならないことを切実に願ったキールであった。


おわり

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