恋敵

 訓練を終えて、後片付けをしていると、同期の少年が尋ねた。
「おまえさ、男になるのか?」
 シルフィスは手を止め、銀髪の少年を見遣った。
「どうして?」
 ガゼルは居心地悪そうな表情で頭をかいた。
「だってさ、おまえ、ディアーナと仲いいだろ」
「そうだけど?」
 シルフィスは何故、それが自分の分化につながるのかわからず首を傾げた。
「王宮に行った時は必ずディアーナのとこに顔出すっていうしさ」
「それは姫がそうしないと怒るからで…」
 お友達の義務ですわ!と、顔を見せることを約束させられてしまっているのだ。
「ちぇっ、やっぱりそうか」
 悔しそうな顔で爪をかむ。
「何が?」
 戸惑うシルフィスにガゼルはびしっと指を突き付けた。
「けど、負けないからなっ!」
 一方的に宣言するとガゼルは踵を返して訓練場を出て行った。
「…一体、どうしたっていうんだろ?」
 まあ、ガゼルが変なのはいつものことかと、結構、ひどい結論を出し、シルフィスは後片付けを終えると訓練場を後にした。

 シルフィスから、訓練場で起きた出来事を聞いたメイはけらけらと陽気な笑い声をたてた。
「それって、絶対、アレよ、アレ!」
 なんですか?とシルフィスが小首を傾げる。
「やきもち。シルフィスがディアーナと仲がいいんで、やっかんでるのよ」
「メイだって、姫と仲がいいじゃないですか」
「だーかーらー、あたしは、一応、女でしょ?敵にはなりえないってわけ。要するに、ガゼルはディアーナが好きなんだってこと」
「…なるほど、それで」
 シルフィスは苦笑をこぼした。
「早合点するのはガゼルの悪い癖ですね」
 デイアーナの態度を見ればわかるはずだ。デイアーナは自分のことを異性だなどと思ってはいない。
「ほーんと。見る目がないね、ガゼルも」
「姫がガゼルのことを、どれほど気にかけているか教えてあげるべきなんでしょうか」
 なにせ会うたびにディアーナはガゼルの近況について尋ねるのだ。
「そこまでしてあげる必要はないわよ。高みの見物といきましょ」
 完全にメイは面白がっている様子だ。
 シルフィスは込み上げて来た笑いをどうにか堪えた。
 メイのおかげでわかったことが、もうひとつある。
 自分を恋敵と誤解しているのはガゼル一人ではないということだ。
 その人物は自分がメイといつでも気軽に話せることを羨んでいた。
 その時、一瞬、見せた表情が「宣戦布告」した時のガゼルのそれと重なる。
 彼らから見たら、自分は両手に花という状態にあるのかもしれない。
 しかし、もとより彼らと争うつもりはない。
 メイの言葉どおり、高みの見物をさせてもらおうと決めたシルフィスだった。


おわり

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