Oh! Rainy Days!

 クラインでは長雨が続いていた。強く降ることはないが、細い雨がしとしとと降り続けている。灰色の雲が立ちこめる空は気分も沈んだものにする。
 休日ではあったが、雨の中を出掛ける気にもならず、シルフィスはおとなしく自分の部屋で読書をして過ごしていた。
 こんこんと扉をたたく音にシルフィスは本を閉じて戸口に向かった。
「姫!?どうなされたんです?」
 クラインの第二王女が今にも泣きそうな顔で立っている。シルフィスが男に分化し、成人してからというもの、ディアーナが一人で彼の部屋を訪ねて来ることは少なくなっていた。シルフィスを信用していないのでなく、彼の親友に余計な嫉妬を抱かせないためにである。
「シルフィスぅ、ガゼルがひどいんですの〜」
 わっと泣きつく王女をなだめて、部屋に通すと椅子に座らせた。こういう時は下手につつくより、感情がおさまるまで待った方がいいと経験上わかっていたので、シルフィスはまずお茶の準備をした。駆け込んで来るのがディアーナかガゼルかの違いはあったが、すでに何度となく痴話喧嘩の余波を食らっていれば、対処方法も覚えるというものだ。メイに貰ったクッキーとディアーナの好きなオレンジ・ティーをテーブルに出した時には、予想どおりディアーナの嗚咽もだいぶおさまっていた。
「姫、何があったんですか?」
 ディアーナがお茶を一口飲んだのを見届けてから、やわらかな口調で問いかけると、ディアーナはすぐに事情を説明し始めた。ガゼルを訪ねたのに、部屋の前でけんもほろろに追い返されたのだという。
「『こんな所に来るんじゃねーっ』だなんて、せっかく、会いに来ましたのにあんまりですわ!」
 いつのまにか悲しみが怒りに変わっている。これまた、いつものことであった。いつも散らかしていても気にしないくせに、今日だけは部屋に入るな、だなんて、なんですのーっとディアーナが文句をまくしたてる。シルフィスは適当に相槌を加えながら、状況を推理した。
 そう言えば、とひとつのことに思い当たる。そういうことかと納得したシルフィスは苦笑をこぼした。ガゼルの気持ちも分からないでもないが、もっとうまく言い訳すれば良いのにと思わずにはいられない。
「男心というのも案外、デリケートなんですよ」
 と、漠然とした言葉でディアーナを丸め込み、しばらく待つように言ってシルフィスは親友の部屋に向かった。
「ガゼル、入るよ」
 返事を待たずに扉を開け、目にした室内の様子にやっぱりねとシルフィスは苦笑をこぼした。
「なんだよ?」
 ふて腐れ顔のガゼルにシルフィスは姫の事だけど、と切り出した。
「そんなこと言ったってなぁ、お前なら、こんな部屋にメイを入れるかっ!?」
 自分の部屋を指し示して喚く。
「まさか。でも、その前に、私はこんなになる前に始末するよ」
 さらりとシルフィスは言い返した。
「うっ。そりゃ、俺も悪いけど、この状況で、どーしろっていうんだよっ」
「二人一緒に出掛ければいいだろ」
 あっさりと解決法を提示すると、ガゼルがぽかんとした顔になった。咄嗟のことに頭が混乱して、こんな簡単な解決方法が見付け出せなかったことに驚いているのだ。
「姫なら、私の部屋にいるから、仲直りして出掛ければ?」
「やっぱ、お前は頼りになるぜ。ありがとな!」
 勢い良く駆け出したガゼルの背を見送りながら、シルフィスはやれやれと苦笑をこぼした。
「まったく、困ったものだな」
 その言葉が親友に向けたものなのか、いつまでも晴れる気配のない空に向けたものなのか、シルフィスにもわからなかった。
 ガゼルの部屋を占拠し、ディアーナが入ることを阻んだのは、雨続きで戸外に干すことのできない、異性の目に触れさせたくないものを含む大量の洗濯物であった。 。

おわり

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