新芽の頃

 真新しい近衛騎士の制服に身を包んだ少女は上官の執務室で報告書を手にその帰りを待っていた。
正式に騎士に着任してから日の浅い彼女は報告書の再提出を命じられたのである。
同じく再提出を言い渡された銀髪の友人も自室で頭を捻っていることだろう。
 ふと椅子に無造作にかけられたままの上着に目がいった。
暇を持て余していたシルフィスはその上着を手に取った。
「やっぱり、大きいな…」
 広げてみて、感心する。一年前のガゼルなら二人は入れそうだ。
今はガゼルもようやく遅い成長期に入り、ぐんぐん背が伸びつつあるが、まだまだ目標は達成できそうにない。
 シルフィスは笑みを浮かべて丁寧にたたむと上着を椅子の上に置いた。

 扉がたたかれ、ガゼルはへーいと投げやりな返事を返した。
彼の前には何度も書き直したらしい報告書の下書きが散乱している。
よりによって再々提出を命じられたのである。
しかも書き上げるまで訓練には出なくて良いとの有り難いお言葉つきであった。
「ガゼル、ちょっといい?」
 ひょこっと友人が金髪の頭をのぞかせる。
「おっ、シルフィス、ちょうどいい。手伝ってくれよ」
「駄目だよ、自分でしないと、ためにならないだろ」
 ちぇっとむくれるガゼルの前にシルフィスはリボンのかかった包みを差し出した。
「なんだよ、これ?」
「就任祝い」
「えっ、俺、お前に何も用意してないぜ?」
「いいから、いいから」
 笑顔でシルフィスはガゼルの手に包みを押し付けた。
包みを開けると中から仕立てのいいシャツが出て来た。
広げてガゼルは眉をよせた。
「…なんかこれ、すっげぇ、でかいんだけど?」
 ほら、とぶかぶかのシャツを羽織ってみせる。袖の中から指先が覗くかどうか。
シルフィスはくすくす笑った。
「隊長サイズだよ。隊長はガゼルの『目標』だろ?励みになるんじゃないかと思って」
「厭がらせじゃないのかぁ?」
 言って、ガゼルも笑い出す。ひとしきり笑った後、シャツを脱いで、しげしげと眺める。
「…でかいよなぁ、隊長。体もだけど、人間の器も」
「うん。だから、私達の『目標』なんだろう?」
 そんな柄じゃないと彼らの上官は言うかもしれないが、二人は騎士としても人間としても彼を心から尊敬していた。
「よしっ」
 言って、ガゼルは立ち上がるとハンガーを取り、シャツをかけた。そして、それを壁に吊す。
「初心忘るべからず。隊長と『肩を並べられる』ように頑張るぞ!」
「それじゃ、まず、この報告書を書き上げないとね」
「あ−、それを言うなって」
 くすくす笑うシルフィスの横でガゼルは頭を抱え込んだ。道程はまだまだ長い。
 そのシャツが袖を通されるのはいつのことか、まだ誰も知らなかった。

Copyright (c) 2000. TOKO. All right reserved