問い

 シルフィスは買い物袋を抱えて、小さな研究所の扉をくぐった。
 キール・セリアンを主とする、この研究所にシルフィスが助手として住み込み始めて、一か月余り過ぎようとしていた。
 きっと、まだ書物にかじりついているだろうな。
 そう思っていたシルフィスは台所にキールの姿を見いだし、驚いた。
「どうしたんですか、キール?」
「…喉が渇いたんで、お茶をいれようとしてたんだ」
 見れば、お湯がわいているし、ティーセットも用意されている。
 そのカップが二つ用意されていることにシルフィスはほほ笑んだ。
「続きは私がやりますね」
 言って、シルフィスは茶の葉の入ったガラス瓶を手に取り、蓋を開けた。
 ふと見ると、キールがなんとも複雑そうな表情をしている。
 視線はシルフィスの手元に、すなわち、蓋の開いたガラス瓶に注がれている。
「なにか?」
 シルフィスは首を傾げた。
 中身はいつものお茶である。
「…いや、なんでもない。向こうにいってる」
 キールはどこか陰りのある声で言い、台所を出た。
 台所の外でキールがもらしたつぶやきはシルフィスの耳に入ることはなかった。
「…単に俺の力がないだけなのか?」
 お茶の葉の入ったガラス瓶の蓋はひどくかたかった。
 キールが悪戦苦闘しても開けることのできなかった蓋をシルフィスはいとも易々と開けてくれたのだ。
 未分化の元騎士見習いの腕力が強いのか、それとも、緋色の肩掛けの魔導士が非力なだけなのか。
その問いに答えられる者は誰もいなかった。

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