暑気あたり

盛夏。
 暑さにうだる午後、騎士団で行われている激しい訓練ゆえに倒れる者は後をたたない。
 だが、今年は例年に比べて倒れる者が多い。
 とりわけ気温が高いというわけでも、騎士見習い達の体力が落ちているというわけでもない。理由がはっきりしないまま、最近のレオニスのひそかな悩みの種になっている。
 レオニスはふうっと息をはいた。
 今も熱心に訓練に励んでいる騎士見習い達に疲れがたまっている様子は見られない。
「よ、熱心だな!」
「頑張ってますね」
 ひょっこり、金髪と銀髪の騎士二人組が訓練場に姿を現した。騎士になった今は訓練に参加する義務はないのだが、彼らはまめに訓練場に顔を出す。後輩にあたる騎士見習い達の受けもよく、レオニスが忙しい時は彼らに代稽古を頼む時もある。
「隊長、一手、お願いします!」
 早速にガゼルが手合わせを申し込む。
「いいだろう」
 レオニスは微かに笑みを浮かべて剣を手に取った。
 身長も伸び、力もついたガゼルはレオニスにも良い練習相手となる。二人が剣を合わせていると、一人の騎士見習いが倒れた。
「暑気あたりですね」
 倒れた騎士見習いの横に膝をついて気遣わしげにシルフィスがのぞき込む。
 と、その背後でまた一人、倒れた。
 レオニスの鋭い目はその瞬間を逃さなかった。
 騎士見習いが倒れる直前、シルフィスのうなじに視線が吸い寄せられ、動かなくなったかと思うと真っ赤になって倒れた瞬間を彼の目はしっかりとらえていた。
「だ、大丈夫ですかっ?思い切り、頭をぶつけたみたいですけど」
 そう言ってシルフィスが膝の上に倒れた騎士見習いの頭を抱え上げる。
 …逆効果だ。
 液体は高きから低きに流れるという法則に逆らって、頭に血がのぼっていくのがはた目にも良く分かった。
 その羨ましい光景に騎士見習い達の心拍数が上昇するのも手に取るようにわかる。
 これ以上は危険だ。
 レオニスは騎士見習い達に倒れた仲間を外に連れ出すように命じた。
 後輩達を心配そうに見送るシルフィスの立ち姿は凛々しくもあり、同時に女性としての色香も感じさせる。
 騎士団という男所帯において、彼女の存在は心休まるものなのだが、青少年には刺激が強すぎたらしい。
 彼女の訪問を楽しみにしている騎士見習い達の意志を尊重すべきか、彼らの健康に配慮すべきか。
 真剣に悩むレオニスであった。

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