女のコなんだもん
「えーい、またしてもグレンダイザーめにしてやられよって!」
「何奴もこいつも役たたずばかり揃いおる!」
ガンダルとズリルの怒りに燃えた姿に居並ぶベガ星兵士達はただ静かに俯いて彼らの怒りが収まるのを待つばかりである。
「これではベガ大王様に申し開きできんではないか!」
海底基地建設を命じられたものの、度重なる失敗は、ふたりの地位をかなり危うい物としているという情報が入ってきただけに、いつもに増してふたりは苛立っていた。
数の上では圧倒的に優位に在るはずなのに、グレンダイザーただ一機のために基地建設が阻まれているのである。
「こうなったら総攻撃を・・・。」
気の短いガンダルが口にしたと同時に言葉が止まり、打って変わってレディガンダルが出現した。
「いたずらに攻撃して勝てる物ではないことが、まだわからないらしいな。」
辛辣な物言いに、ズリルが睨み付けたが、レディガンダルの言うことはもっともであり、対抗策がない以上は反論のしようがない。
「手強いのはグレンダイザーのみ。ならば、それさえ封じ込めてしまえば後のことはどうにでも料理できるというもの。たとえそれが一時的な物であってもな。」
冷酷な光を宿したレディガンダルの声がひとりのコマンダーの名を呼んだ。
「コマンダーマルレーネ。お前の作戦を実行に移すときがきた。作戦の指揮を執るがよい。」
「ははっ。お言葉、しかと賜りました。」
ゆるゆると面をあげたコマンダーにズリルはあっと声をあげた。
かつてグレンダイザーと戦って敗北したコマンダーマリーネと瓜二つであったからである。
ということは、フリード王妃にも似ていると言うことだ。
だが、同時に呆れもした。
「同じ手が二度も通用すると思っているのか?」
「使う相手は必ずしも同じとは限るまい?それに、この作戦は囮にすぎぬ。」
「よかろう。お手並み拝見といこう。」
「いくぞ、コマンダーマルレーネ。」
「はっ!」
不敵な笑いを浮かべ、レディガンダルはマザーシップで出撃した。


マリア・グレース・フリードは、フリード星滅亡の日、共に脱出した侍従が亡くなった後、偶然な縁で生き別れになっていた兄、デュークフリードと再会し、一緒に暮らすようになった。それはまた、ベガ星連合軍の容赦ない攻撃から地球を守るため、ダイザーチームの一員として戦う日々の始まりでもあった。
マリアはヒマな時間ができるとバイクでよく走りに出かけた。マリアのバイクテクニックは同じダイザーチームの兜甲児と互角である。とはいえ、女の子一人をバイクで走らせるわけにはいかないと、甲児はよくマリアに同行する。
「甲児は心配性すぎるのよ。」
「大介さんの妹に何かあったら、大介さんが心配するだろ?」
「兄さんは関係ないでしょ。」
マリアは甲児から「大介さんの妹」と言われるのが、内心おもしろくない。
それが一緒にいてくれる理由だというなら、一人でいる方がマシな気分になるのだ。
「あのな、マリアちゃん。」
何か言いかけた時、甲児の腕の通信機が鳴った。
「はい、こちら兜甲児。」
「甲児君、日本海にベガ獣が現れた。すぐ出動してくれ。」
宇門所長の緊迫した声が響く。
「了解。」
短く答え、通信を切ると甲児はマリアに言った。
「出動だ。」
ベガ星連合軍の攻撃に、休みはない。
「あたし、先に行く!」
ぷいっと横を向き、マリアは素早くエンジンを噴かせ、乱暴に走り出した。
「こら、危ないだろ!」
慌てて避けた甲児が叫んだが、既にマリアは研究所へ向かっている。
「あの、お転婆め。」
ぶつくさ言いながら、甲児もバイクを噴かして研究所へと向かった。

甲児が控室に入ると、既に戦闘服に身を包んだマリアがスペイザー搭乗カプセルに乗って待機していた。
「甲児、先に行くからね。」
甲児が入ってきたとたん、マリアはカプセルを発進させた。
「先に行ってりゃいいのに。変な奴。」
マリアに遅れること数十秒、甲児もスペイザーに搭乗した。
「グレンダイザーとマリンスペイザーは、先に向かっている。」
「了解。いくぞ、マリアちゃん。」
「OK。」
「ダブルスペイザー、GO!」
間髪入れずにマリアの乗るドリルスペイザーが後を追う。
「ドリルスペイザー、GO!」

甲児は指定された地点に向かいながら、状況を確認した。それによると、グレンダイザーとマリンスペイザーはベガ獣を海上で迎え撃っているという事であった。
「沿街の町に入る前に倒したい。甲児君達もそのつもりで援護してくれ。」
「了解!」
「ねえ、甲児。」
「なんだ?」
「何で今頃あんなへんぴな町に現れたのかな。あそこには、ベガ星人が狙うようなもの、何もないんでしょ?」
「ああ。第一、レーダーに引っかかりやすい所だ。確かに、ヘンだな。」
考えかけて甲児は嫌な予感がした。
マリアに予知能力があることを思い出したのである。
「何か、感じたのかい?」
「ううん。何となく、ヘンだなーって思っただけ。」
マリアの「何となく」こそが最も警戒すべき信号であることを、甲児はこのときまだ気が付いていない。
「ま、何か感じたら遠慮なく言えよ。」
「うん。」

ベガ獣ゴワゴワは、先行したグレンダイザーとマリンスペイザーの攻撃を巧みに交わしながら、海岸沿いを南下していた。
「よーし、もうじき出くわすぞ。マリアちゃん、気を付けろ!」
「はーい。」
マリアの声とほぼ同時にベガ獣が見えてきた。
「速い!」
ベガ獣がこれまでほぼ無傷なのは、どうやらその動きの敏捷さにあるらしい。
「マリア、敵の動きが見えるか?」
「うーん、まだわかんない。」
マリアは首を傾げた。
彼女の予知能力は必ずしも常に働いているわけではないのだ。
何かのはずみで不意に感じるというのがほとんどである。
「ちょっと、攻撃してみる。」
マリアは狙いを定めると、ドリルミサイルを発射した。
「よけた!?」
「だから言ったろう。敵の動きはこれまでになく速い。」
デュークフリードから注意され、マリアは少しむっとした。
「もう一度。みてらっしゃい!」
操縦桿をぐいっと引くと、素早く反転し、べが獣の上に出る。
「捕まえた!ドリルミサ・・・!」
攻撃範囲ぎりぎりに接近した瞬間、マリアの動きが止まった。

「どうした、マリア!」
デュークフリードの声にマリアから返事はない。
返ってきたのは、ベガ獣のベガトロンビーム攻撃だった。
「きゃー!」
「マリアちゃん!」
ベガトロンビームはドリルスペイザーを掠めた。ビームそのものに大した威力はないのだが、それから発せられるベガトロン放射能の衝撃は通常のビームよりかなり強い。
「マリアさん!」
「マリア!」
バランスを失って失速していくドリルスペイザーをグレンダイザーが追っていく。
ほどなく、ドリルスペイザーはグレンダイザーに両翼を捕まれて安定した速度を取り戻した。

「マリア、どうした?」
「兄さん、お母様を見たわ!」
「何!?」
「あのベガ獣の中にお母様を見たの!」
「馬鹿なことを言うもんじゃない。母上は・・・フリード星で亡くなられた。」
デュークフリードの胸に、言いようのない怒りが込み上げてきた。
肉親の幻影を使った戦法をベガ星人が取るのは、これが初めてではないのだ。
しかも、前回の時も利用したのはフリード王妃、ふたりの母である。
「お前が見せられたのは、幻影だ。」
デュークフリードはいつになくきつい口調できっぱり言い渡した。
「母上は、フリード星で亡くなられた。」
「兄さん・・・!」
その時、マリアはベガ獣がすぐそこまで接近していることに気が付いた。
「兄さん、後ろ!」
ベガ獣から発射されたベガトロンビームは、マリアの乗ったドリルスペイザーを庇ったグレンダイザーを直撃した。
「うわー!」
デュークフリードはその身体をベガトロン放射能に犯されているため、通常よりも受ける衝撃が大きい。グレンダイザーは衝撃に耐えきれず、意識を失ったデュークフリードを乗せたまま戦線を離脱していった。それを見越したかのようにミディフォーの大部隊が接近していると知らせが入った。
「ミディフォーは任せて!」
ひかるとマリアが同時に反転して向かっていく。
甲児はひとりダブルスペイザーでグレンダイザーを追った。

「うわっ!」
グレンダイザーに近づいたとたん、甲児の乗ったダブルスペイザーはスペースサンダーに攻撃され、慌ててその距離を離した。フリード星の守り神として創られたグレンダイザーはその強力すぎる力をむやみやたらと使わないよう、乗り手をフリード王家の者に限るよう設定されている。それは強力な防御システムとして効力を発揮する傍らで、乗り手であるデュークフリードに何かあるとコントロールが取れなくなるという欠点をも持っていた。その間にも、ベガ獣とミディフォーの攻撃は続いている。
「くっそー!」
悔しそうに舌打ちした甲児の目に、ミディフォーの間をすり抜けてグレンダイザーに近づく影が映った。
「マリアちゃん?」
ドリルスぺイザーは一直線にグレンダイザー目指して降下していく。
「マリアちゃん!」
「あたし、グレンダイザーで戦う。」
マリアのきっぱりした声が甲児に届いた。
「何だって!?」
「兄さんがこうなったの、半分はあたしのせいだもん。」
「マリアちゃん・・・。」
「じゃ、行くからね。」
マリアはミディフォーの攻撃を軽やかに避けてグレンダイザーに追い着いた。

「兄さん!」
グレンダイザーのデューク・ピットに意識を失ったままのデュークフリードの姿が見える。
マリアはドリルスペイザーからグレンダイザーへ飛び移った。
デューク・ピットはマリアが近づくと自然に開いた。
身体を滑り込ませるようにしてマリアはすばやくグレンダイザーに入り込む。
「兄さん、しっかりして!」
「うう・・・。」
デュークフリードの右腕が赤く腫れ上がっている。
「さっきの、ベガトロン放射能・・・。兄さん、しっかりして!」
だが、予想にたがわず、デュークフリードは意識を取り戻す気配がみられない。
マリアは補助席にデュークフリードを移動させると、自らはパイロット席に着いた。
そこに座るのは初めてなのにも関わらず、どうすればよいのか瞬時にわかる。
「見てらっしゃい。負けないんだから!」
マリアは力一杯レバーを引いた。
「グレンダイザー、GO!」

グレンダイザーが忽然と反転し急上昇しはじめた。
「スピンソーサー!」
マリアは接近中のミディフォーにまず狙いを定めた。
驚いたのはコマンダーマルレーネである。
「もう、攻撃してきた?」
だが、母にそっくりな自分を攻撃するのは多少の迷いがあるはずだとの余裕があった。
ましてや、今グレンダイザーに乗っているのはデュークフリードではない。
「女の子には、特に辛かろう・・・。」
細く笑んで、コマンダーマルレーネは反撃を開始した。

「よくも兄さんを傷付けてくれたわね。許さないんだから!」
マリアの頭は完全に冴え渡っていた。
信じられないほどはっきりと敵の動きが読めるのだ。
「スクリュー・クラッシャー・パンチっ!」
ベガ獣に痛恨の一撃を迷うことなくお見舞いする。
マリアの瞳にはコマンダーマルレーネは敵の中の一人としか映っていない。フリード星が攻撃を受けた時、マリアはまだ幼かったため、フリード星でのことはほとんど覚えていなかった。母の姿もデュークフリードから写真を見せられたから知っていたにすぎず、彼女にとって、母は遠い存在であった。コマンダーマルレーネの母に似た姿に驚きはしたが、攻撃する事への躊躇いはなかったのだ。
「スペースサンダー!」
しかし、決定的なダメージは与えられない。

「マリアちゃん、合体だ!」
「え!?」
甲児の言う意味はわかるが、一瞬の迷いがマリアに生じた。
心音が一際跳ね上がったのが感じられる
「このままでは倒せない。」
「で、でも。」
操縦する機体は異なれど、グレンダイザーと合体したことは何度かある。
合体の相手が常に「兄」だという安心感があった。
だが、今回は甲児が相手なのだ。
「大丈夫だ。信頼しろ。」
はっきりした甲児の声がマリアに響く。
「いくぞ、マリア!」
その一言で、マリアの高ぶっていた気持ちが嘘のように落ち着きを取り戻していった。
ダブルスペイザーが至近距離に見える。
「シュート・イン!」
マリアはレバーを引き、スペイザー操縦席からダイザー操縦席へ移動を開始した。
「ダイザー、GO!」
グレンダイザーがスペイザーから空に舞った。
ダブルスペイザーがグレンダイザーに重なるように飛空している。
マリアは全神経を合体に集中した。
「コンビネーション・クロス!」
それぞれの操縦席で同時に合体が確認された。
「サイクロンビーム!」
甲児の反撃が開始される。
「ダブルハーケン!」
ダブルスペイザーの加速を活かしてベガ獣に接近し、マリアは一呼吸おくと、ダブルハーケンを振り下ろした。
「たあっ!」
ベガ獣ゴワゴワはあけなく切り裂かれ、海のもくずと消え去った。
「やったぜ!」
「ありがと、甲児。」
息を弾ませているマリアに甲児は、にやりとVサインを送るのだった。

「おっと、ミディフォーは?」
「これで、終わりよ。」
ひかるの声が聞こえてきた。
「マリンカッター!」
最後の一機が宙に消えた。
「もう残ってないな?」
「ええ、レーダーには反応がないわ。」
「もっと手強いかと思ったけど・・・。」
意外なほどあっさり決着が付き、いささか拍子抜けしたマリアである。
「よーし、マリアちゃんはデュークを乗せてるんだから、先に帰ってくれ。」
甲児の声に、はっと現実に戻って返事を返した。
「わかったわ。」
ダブルスペイザーとの合体を解き、グレンダイザーはスペイザーと再び一体化した。
「兄さん・・・。」
マリアは補助席で意識を失ったままの兄を痛ましそうにみやった。
「ダイザー、GO!」
素早く、しかしできるだけ身体に負担がかからないよう衝撃を抑えてマリアはグレンダイザーで研究所に急ぎ帰還していく。その後を少し遅れてマリンスペイザーが、そしてドリルスペイザーを回収したダブルスペイザーが続いていった。

「行ったようだな。」
浅瀬からマザーシップが浮上した。
「グレンダイザーを倒すことには失敗したようだが、まあ、いい。」
レディガンダルの瞳が妖しく光った。
「ズリル長官、作業を開始せよ。」
忌々しげにズリルは重い腰を上げた。
レディガンダルは宣言どおり海底基地建設の第一歩を記したのだ。
「だが、ガンダルめには大きい顔はさせぬ。」
ズリルの眼球が何事もなかったかのように計算を開始した。

宇宙科学研究所の治療室で当面の手当を受けたデュークフリードは、深い眠りに落ちていた。
その傍らにマリアが、少し遅れて甲児とひかるが訪れ、心配そうに見守っている。
「大丈夫、呼吸も安定してきたし、取りあえず今夜はゆっくり休ませてやりなさい。」
「本当?」
「ああ。君たちも、もう休んだ方がいい。休養を取ることも大切な任務だぞ。」
「はい。マリアちゃん、出ようぜ。」
「うん・・・。」
「そうよ、マリアさん、今日は疲れたでしょう?」
「そうそう、大活躍だったんだからな。」
甲児に促されるようにしてマリアは部屋の外に出た。

「やっぱり、マリアちゃんはすごいよな。」
甲児は明るい調子でマリアを誉めた。
「すごくなんか、ないもん。」
マリアは少し照れくさそうに甲児を見上げて言った。
「凄いさ。初めてでも、ちゃーんとグレンダイザーで戦えたじゃないか。自慢じゃないがオレなんか、最初は操縦すらまともにできなかったんだぜ。」
「そうかな?」
「そうだよ。さすがは大介さんの妹だけあるよな。」
感心したように話し続ける甲児を、その瞬間、マリアはキッと睨み付けた。
「すごくなんかないんだからー!」
だんっと拳に力をこめて叫ぶと、そのまま廊下を走り去った。
「お、おい、マリアちゃん?」
呆気にとられた甲児の声だけが廊下にこだまする。

マリアはひたすら走っていた。
「甲児のバカっ!」
まわりの流れていく景色がぼんやりと歪んでくる。
時々、頬を冷たい雫がつたって、風に消えていった。
頭の中には甲児の言った言葉が否応なしにリフレインされている。
「大介さんの妹。」
その絆がひとりぼっちになったマリアをここに導いてきた。
けれども・・・。
「マリアはマリアだもん。」
ぐったりと力つきて見上げた空は、初めてここに来た日と同じ、赤い夕焼けに染まっていた。


おわり
<あとがき>
「UFOロボ・グレンダイザー」((C)ダイナミック企画・東映動画)の二次創作です。
これもまた古いですねぇ。
マリアちゃんは本編では一度もグレンダイザーを操縦することがなかったのですが、設定上、乗ることは可能だったことから思いついた作品です。いまでこそ、女性パイロットなぞ珍しくもありませんが・・・。

本放送の時は「かっこいいな〜」くらいの印象しかなかった番組です。
萌えたのは、再放送からです。
年喰った分、内容が理解できるようになったから(笑)
ロボット物にしては、主人公の年齢が高いですから、それなりの年にならなきゃ物語のおもしろさとか、キャラクターの魅力がわからなかったワケです。
お気に入りはもちろん、大介さんことデュークフリード(*^^*)
影のある星の王子様は乙女の永遠の憧れですわ。
甲児くんとマリアちゃんの進展しそうでしないラブストーリーも好き!
え、さやかさん?誰、それ(爆)。

デュークフリードを演じられた富山敬氏のご冥福を心からお祈り申し上げます。
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