夢見るカレン
「ポールファイア!」
戦いはいつものとおり、カレンの全体魔法攻撃で敵を怯ませてから、ヴォルフが先陣を切り、後詰めをケインとサラが受け持った。
「いいぞ、カレン!このまま一気に突き抜ける!」
大群とはいえ、相手がありふれたモンスターでは、剣技において鬼神と畏れられるヴォルフの敵ではない。
「ケイン、遅れを取るな!」
「わかってる!サラ、援護!」
ケインは魔法を発動させるべく呪文を唱え始めた。
「・・・わかった。」
サラがその間ケインの防御にまわる。
四方を囲むようにして押し寄せてくるモンスターをサラは細身の剣先で右に払い、左に払いして倒していった。その度に血飛沫が舞い、返り血が血糊となってサラの顔や手にべっとりとこびりつく。咽せるような血の匂いと骨の砕ける嫌な手応えが、サラの全身を支配し続けた。いつもなら気にならないその感触が、今日に限ってひどく鼻につく 。
「くっ・・。」
サラは剣を構えつつ、体に起こりつつある変調を苦い思いで飲み込んだ。
「サラ?」
サラの変調に気が付いたのは、カレンだった。
「サラ!」
カレンが動くより早く、ケインが唱え掛けた呪文を中断して、彼女の援護に回ったのが見て取れた。
「カレン、やれるか?」
先を進んでいたはずのヴォルフがいつの間にかカレンの背後に戻ってきている。
カレンは頷くより早く呼吸を整え始めていた。
既にかなりの魔力を使っているはずなのに、カレンの魔力には少しも疲れた様子がなかった。
むしろ使うほどに力が強くなっていっている。
魔力のないヴォルフのでさえ、カレンの発する気の高まりがこの数日で格段強くなったのを感じていた。
「一気に仕留めるつもりだが・・・。」
「その必要はありません。」
息の上がり始めたヴォルフと異なり、カレンは平然とした口調で最強魔法を唱えた。
「アスモデウス!」
カレンは闇そのものを召還し、モンスターのみならず、森一帯をその支配下に置いたのだ。
「ともに消え去るがよい。」
その表情は冷たく、瞳は更に凍てつくような光を宿している。
感情の欠片もない声を最後に、森からモンスターの気配が消えた。

「終わったな。今夜はここで休もう。」
ヴォルフが剣にこびり付いた血を振り払いながら提案した。
「そうですね。」
カレンは軽く頷き、サラの様子にすばやく目を走らせる。
サラの顔は青ざめていた。
「このあたりは、野宿するにもおあつらえ向きの場所だわ。」
「でも、あと少しで森を抜けます。私なら、大丈夫です。」
サラは気丈にも反論したが、その声には全くといっていいほど力がなかった。
「森を抜けても人里までは、まだ先が長いわ。何もない街道で野宿するより、ここの方がマシだと思うけど。」
カレンの意見にヴォルフとケインも頷いた。
「多数決で決まり。」
そういわれると、サラとしてもそれ以上異を唱えることができない。
多数決論を最初に提案したのは他ならぬサラであったから・・・。
「じゃ、俺、薪でも集めてくる。食事の方は・・・。」
ケインの視線の先にいるのはヴォルフである。
「この先に水の流れる音がする。予備分と併せて確保してこよう。」
「えー、そうじゃなくってさぁ。」
「わかってるさ。水辺には動物も集まるものだ。夕食は期待していてくれ。」
冗談とも本気とも取れない軽口を交わしながらケインとヴォルフはそれぞれの目指す物を求めて森の中へと引き返していった。

二人きりになるとカレンはサラにキュアーを施した。
先だっての戦いであれほどの魔力を使いながらもカレンは疲れひとつ見せていない。
「根本的な解決にはならないけど、一時凌ぎにはなると思うわ。」
淋しそうに微笑んだカレンにサラは黙って目を伏せた。
「ケインには・・・まだ、よね。」
話題を振られる前に、カレンの方からサラに問いかけた。
「ええ。」
頷いてからサラは困ったように口ごもったが、意を決して話し始めた。
「自分の身体のことなのに、そうだという確信が持てなかったの。ずっと緊張続きで、そのせいだという可能性も否定できなかったし。」
サラには喜びよりも戸惑いの方が大きかったらしい。
「それに。」
そこでサラは思いっきり眉をひそめて言った。
「話すのは簡単だけど、ケインに自覚させるのは至難の業だと思ったの。」
ケインの出自はモレドール王国の跡継ぎであり、サラはそのお目付役であった。
そのせいか、夫婦となった今でもケインはサラにどこか頼っている節がある。
「うーん・・・。」
思わず唸ったカレンにサラは苦笑した。
「帰るまでにまだ時間はあるし、落ち着いてからでもいいかなって。」
「随分楽観的なのね。」
「でなきゃ、やってこれなかったわ。」
言ってからふたりは互いの顔を見合わせぷっと吹き出した。
「話すべきときが来たら、きちんと私から話します。」
サラがそう決めているのであれば、カレンには言うべき事は何もない。
カレンはサラにもう少し休んでいるように言ってから、火がすぐ熾せるようあたりの石を積み重ね始めた。
「カレンは・・・。」
サラは何か言いかけたが、ほどなくケインが小枝を山ほど抱えて戻ってきたのでそれまでになった。
「サラ、もう大丈夫なのか?」
「ええ。カレンにヒールを掛けて貰ったから。」
答えたサラの頬には赤味が戻っており、ケインはひとまずほっとしたようである。
「ヴォルフが戻ってくるまでに、火でも熾しておくか。」
ケインはすっかり慣れた手つきで野営の準備に取り掛かった。
その様子をサラはずっと目で追っている。
「サラ、ここを任せてもいいかしら。私はヴォルフの様子を見てくるから。」
立ち上がりかけたカレンにケインは声を掛けた。
「ヴォルフなら心配いらないと思うぞ。」
「水と獲物、両方ひとりでは大変でしょう?」
心配のレベルが違ったかとケインは肩をすくめ、カレンは明るい笑いを残して立ち去った。

ヴォルフがカレンと共に戻ってきた時、二人の手にはケインの期待どおりの獲物と水が抱えられていた。
「あれだけの時間によくもまあ、これだけ・・・。」
「カレンが来てくれて助かったよ。」
話ながらもヴォルフは要領よく獣の肉を捌き、今夜の食べる分とこれからの旅の間の保存用とに分けている。
「これでしばらくは助かるわね。」
「来るときは船の中で、魚ばかりで辟易したからな。」
彼らはこの後、再び船で故郷のヴォレンバイン大陸へ戻るのだが、これが結構日数がかかる。
洋上ゆえに魚が採れるから、食べ物に困ることはないのだが、後半は毎日魚ばかりというのもかなり辛いものがあった。
生肉は無理としても薫製でもあれば食料事情が随分と違ってくるものだ。
「でも、薫製もどきばっかりというのもなんだよな・・・。」
「贅沢言うんじゃありません。」
ケインのぼやきにサラがぴしゃりとやり返した。
この様子なら、サラの体調も取りあえずは旅を続けるのに問題なさそうだとカレンは人知れず安堵するのであった。

その夜は明日に備えて早めに休んだのだが、カレンはなかなか寝付かれなかった。
ふと寝返りを打ったはずみで目を開けると、ちょうど火の番に当たっていたヴォルフと視線があった。
そのまま瞼を閉じるのに何となく抵抗を感じ、カレンは起き上がってヴォルフの隣に並んだ。
途切れた雲の間から、淡い月の光がカレンの横顔を照らし出した。
本来のカレンの髪は緩やかにウエーブのかかった淡い栗色だが、月の光を浴びてそれは銀色に近い輝きを帯びていた。
漆黒を流したようなヴォルフとはまさに対照的である。
「カレン・・・。」
何か言おうとしたヴォルフの唇をカレンの細っそりとした人差し指の先端が触れた。
カレンの姿は月の光の中に儚く浮かび上がっている。
まるで月の精が人の形を写して降臨したのではないかと思えるほど、人間臭さ感じさせない美しさであった。
「あなたの言いたいことはわかるわ・・・ううん、わかっていると思う。」
カレンの声は幻想的な響きを持ってヴォルフに伝わってくる。
元々独特の澄んだ響きを持つ声色をしていたカレンだが、今夜の声は人の声というよりも空気が震えて人の言葉のような音を奏でているといった方が近い。
魔力にしてもそうだが、ここ数日の間にカレンはどこか人間離れしてきている。
かすかに触れ合った肌の温もりだけが、カレンをこの世の人間であることをヴォルフに伝えていた。
「でも、どうしようもないの。」
カレンはまっすぐにヴォルフを見つめた。
透明な冬の湖を思わすような澄んだ空色の瞳が憂いをたたえたまま、けれども迷いのない強い意志はそのままに未来を見つめている。
「私たちは真実を求めてこの大陸に来た・・・。それを忘れないで。」
彼らの故郷を脅かしていた魔界出現の根元がこのグレイストン大陸にあるのではないかとの疑惑から発した旅だったが、その結末は辛い選択をカレンに強いるものであったのだ。
並外れた魔力の持ち主の心は既に新羅万象の世界へ投じられていた。
真実の行方はわからないとしながらも、ヴォルフがもっとも恐れていたことが現実に迫りつつある。
「・・・ドゥール家は、どうするんだ?」
ヴォルフは卑怯だと思いながらも、恐らく最後の枷となっているだろうカレンの家族について口にした。
若輩ながらもカレンはウォールバート王国の名門ドゥール家の当主である。
それに対するカレンの答えは決まっていた。
「ラスアルがいるわ。」
ふたつ年下の弟の名を少しも躊躇うことなく彼女は告げた。グレイストン大陸に旅立つ前、ラスアルにドゥール家の家督を譲ってきたつもりである。もっとも、タニア共和国のコーツ大統領からの手紙によると、ラスアルは「代理」を名乗っており、正式な当主はあくまでカレンであると主張しているらしが・・・。
「会わなくても・・・いいのか?」
たとえ彼女の未来は決まっていても、それを受け入れる前に、家族に会うくらいの猶予があってもいいのではないかとヴォルフが考えたのは無理からぬことである。けれども、その問いに対してもカレンは少しも迷っていなかった。
「ラスアルにはいつでも逢えるから。」
カレンとラスアルの心の繋がりは、ヴォルフが思っている以上に強いらしい。実際、ふたりの間に距離は関係なかった。そして、カレンの魔力をもってすれば、大陸間の距離など取るに足らぬ問題でしかなかったのである。一方、ラスアルもカレンに及ばないまでも、ドゥール家の名誉ある当主を務めるマジックナイトとしては十分内外に通用する魔力の持ち主であり得た。先の魔界封印の旅ではカレンに同行して見事役目を果たしたことからもその実力のほどは証明されている。
「ラスアルなら、当主として十分やっていけるわ。」
弟の名前を呼ぶときのカレンの声は限りなく穏やかで優しい。この声しか知らない者には、攻撃魔法を唱えるときの怜悧なカレンの姿はとても想像することはできないであろう。
「そうか・・・。」
ラスアルのことを思い出しているのか、カレンの瞳は更にあたたかい光をたたえていた。
「羨ましいよ、ラスアルが。」
「え?」
「離れていても彼は君と繋がってる。俺はすぐ側にいるのに、君を掴まえられない。」
ヴォルフの言葉にカレンはビクリと反応した。見えない力がカレンを縛り付けたかのように、身動きひとつせずヴォルフを見上げている。ほんの少し腕を伸ばせばカレンはヴォルフの手に届く位置にいるというのに、ふたりの距離はそのままだった。闇がわずかな月の光まで奪っていく。
「光だけが真実ではありません。人はその半分を闇に持つ存在でもあるのですから・・・。」
グレイストン大陸最後の夜は、カレンが人として過ごした最後の夜であり、ヴォルフにとっても生涯忘れ得ぬ一夜となった。

夜明けと共にヴォルフ達一行は野営地を後にし、ほどなく森を抜けた。
森を出たところで、道はふたつに分かれている。
ひとつは海辺の町へと続く道。
ヴォルフ達の故郷、ヴォレンバイン大陸へと向かう船が待つ港町がそこにある。
もうひとつは、海辺に沿って更にグレイストン大陸の奥へと向かう道。
カレンはひとり大陸の奥地へ伸びているその道へと歩みを進めた。
「私は、このままこの大陸に残ります。」
振り向いたカレンの声はどこまでも穏やかなままであった。
「私には真実の行方を見届ける義務があるから・・・。ですから、ここで、お別れです。」
カレンの儚い微笑みはそのまま大陸の風に溶け込んでいく。
けれどもその足はしっかりと大地を踏みしめていた。
「・・・そうか。」
微かな溜息と共にケインは空を仰いだ。カレンの申し出は唐突に見えても、同じ目的を持って旅していた3人には、当然予期されていたことだった。できればそうでない選択をカレンが選んでくれることを願いつつも、それがこの世界に必要なことであることも彼らにはわかっていた。
「あんたが、そう決めたのなら、俺達が口を挟める道理じゃないもんな。」
ケインはさばさばした口調で手を差し出した。
「元気でな。」
差し出された手に触れた瞬間、カレンに驚愕が走り、慌てて手を引っ込めようとした。
だが、ケインは目にも止まらぬ早さでカレンの手を捉え反対に強く握りしめた。
「俺からの餞別だ。」
軽い口調とは裏腹に、ケインの瞳は真剣そのものだった。
「でも、ケイン・・・。」
口ごもったカレンの手をケインは次の瞬間にはあっさりと離した。
「これぐらいにしておかないと、あそこのオッサンが睨んでる。」
「ケイン。」
サラがケインをたしなめ、申し訳ないとヴォルフに頭を下げた。
「あなたという人は!年長者に対してその口の効き方は何です。失礼でしょう。何度言ったらわかるの。」
「いてて・・いたいよ、サラ〜。」
サラに耳を引っ張られて、ケインはカレンから引き離された。
「まあまあ、サラ、そのくらいで、いいじゃなか。」
縋るような視線を向けたケインに苦笑しながら、オッサン呼ばわりされた当のヴォルフが取りなしに入った。
「いいえ、よくありません。」
いつになくキッパリとサラはヴォルフの取りなしを却下した。
「サラぁ。」
「駄目です。このままいつまでも甘やかしていたのではこの先が思いやられます。」
「おいおい。」
夫婦喧嘩には口を挟まない主義のヴォルフも今回ばかりは、サラのただならぬ剣幕に少しばかりケインに同情するそぶりを見せた。
「ケインもつい口がすべったんだ。反省してるよな、ケイン。」
こくこく頷いたケインをサラは冷ややかに見つめ、庇ったヴォルフに切り返した。
「ヴォルフ。あなたがそんな風に甘やかすから、ケインがいつまでたっても子供のままなんです。」
ぴしゃりとサラが言い放った。
サラはそこでひと呼吸おくと、そのまま一気に結論まで捲し立てた。
「ケイン、あなたも帰国すれば国王です。良識ある大人としての自覚を持ってください。このままでは生まれてくる子供にも示しが尽きません。」
勢いこそあれ真剣なサラの言葉に、ケインもまた言われた意味の重要さに気が付き、しばし絶句したままだった。
ヴォルフの驚いた表情にカレンは目だけで頷き、優しい微笑みをふたりに向けた。
「幸運があなた方とともにあるように・・・。ブレッシング。」
ふわりと穏やかな気がケインとサラを包み込んだ。
「私からの餞別です。」
にこりと答えたカレンに、ケインは1本取られたなと朗らかな笑いで受け取った。
ヴォルフは別れの口づけをカレンに贈った。
唇ではなく、その額に。
恋人ではなく、真に心を交わしあった信頼できる同士としての別れだった。
「身体はこの地に残るけれど、心はいつもあなたと一緒にいます。」
頬を寄せ合った時、耳元にカレンの声が囁かれた。

カレンがサラと別れの言葉を交わしているのを横目に、ケインはさりげなくヴォルフに話しかけた。
「ヴォルフ、船の中で退屈だろ?だったら俺に剣の稽古、付けてくれないかなぁ。」
「それは構わないが・・・。だが、俺は正真正銘の剣しか教えられないぞ。お前と違って魔力はからきしダメだからな。」
それでも構わないとケインは素直に頭を下げた。
「今までは、ミスリルソード(小剣)を使っていたな。」
「できれば、ヴォルフと同じバスターソード(長剣)が使えるようになりたいんだ。」
長剣を振るうとなると、魔法はほとんど使う間がない。しかし、ケインの技は魔法と組み合わすことでそれまで最強の力を発してきていた。何故今更、と疑問に思ったとき、ヴォルフはケインからいつも感じていた魔法の気が全く感じられなくなっていることに気が付いた。森を抜けた時には確かに感じていたはずの魔力の気が完全に消えている。
「ケイン、お前・・・。」
呆然となったヴォルフに、サラには内緒だぜとケインは小声で頷いた。
「だから、俺、ヴォルフみたいに強くならなくちゃいけないんだ。」
「・・・そうか。」
ヴォルフはそっとケインの肩を叩いた。
「その代わり、手加減はしないからな。」
「望むところだ。」
「しかし、剣に振られないようになるのが先決だな。」
ヴォルフの予備の長剣を持つだけでふらついたケインに、先は長そうだと思いを新たにしたヴォルフであった。

4人で通った道を3人が去っていくのをカレンは感慨深く見送った。
3人の姿が見えなくなると、カレンはそのまま大陸の奥地へと向かう道をひとり歩いていった。
道はいつしか細くなり、やがて人を阻むかのように消えていく。
しかしカレンは迷うことなく森の奥へと入っていった。
人の通る道を、もはやカレンが必要することはなくなっていたのだ。
道が必要になれば、自分で作り出せばよかった。
人の気配の全く感じられなくなったその森の奥で、カレンはヴォルフ達を乗せた船がグレイストン大陸の影響圏から離れていくのを瞑想に耽りながら待っている。
「行ってしまった・・・。」
その時が訪れると、静かにカレンは両の手を掲げ空を仰いだ。
「ケイン、ありがとう。」
カレンは振り下ろした右手にそっと口付けた。ケインは別れの間際に餞別と称して、彼の魔力の全てをカレンに譲っていったのだ。普通なら当人から放出された瞬間に魔力は四散してしまうものなのだが、カレンはケインの力をそっくりそのまま温存していた。すぐその場で同化することも可能であったが、己の力を他人が御するというのは、喩えそれが当人の意志に発するものであったとしても、あまり気分のよいものではない。一刻を争うような状態なら致し方ないまでも、今は取りあえず平穏を保っていたから、特段急ぐ必要もないとカレンは判断した。だから、カレンはケインがグレイストン大陸を去るまで待った。それがカレンのケインへのせめてもの心遣いであったのだ。

カレンは気を集中すべく浅い呼吸を繰り返している。精神の高まりが極限に達したと感じた時、カレンは右手に留め置いていた力を自分に向けて解放した。魔界の入口と繋がっていたベルオラの泉を封印してから、弟達と別れたのがつい昨日のことのように思い出される。元々ひとりでグレイストン大陸を旅する予定で船に乗ったところ、ひょんなことから志を同じくするヤース皇国のヴォルフに出会った。立場と出身国は異なれど、旅に出た目的が同じであったので行動を共にしてきた。続いて出会ったケインとサラもその点では同じである。そしてカレンだけが、探し求めていた真実を得た。知り得た真実の代償として、カレンは幼い頃から描いていた夢を失うことになったが、後悔はしていない。古き夢は失ったが、かけがいのない思い出へと昇華させた想いは、新たな夢となって永遠に生き続ける。
この優しい思い出があれば、この先、何があってもきっと乗り越えていける・・・。
信頼できる同士として別れを告げたヴォルフに、カレンは心から感謝した。
カレンの精神は、今、人の心を離れ、より高い世界へと登っている。
その瞳の向こうには限りなく青い世界が広がっていた。
昔、夢見た空でさえ、ここまで青くはなかった・・・。
「姉さんの瞳は空より青いよ。」
ラスアルがカレンを自慢するとき言っていた言葉がふいに脳裏をよぎる。
これからラスアルが見る空は、カレンの瞳と同じ色に見えることだろう。
その色がいつまでも続くように、カレンは永遠の夢を想い続けるのであった。

おわり
<あとがき>
「グレイストンサーガ」(Pegasus Japan Cor)は、パソコンで初めてクリアしたゲームです。
主人公が4人いて、最初にプレイしたのが宮廷魔術師のカレン。この創作のヒロインですね。
ただ、この時は舞台が彼女達の故郷であるヴォレンバイン大陸であり、目的も魔界の封印でした。
ヴォルフ達と出会って旅したのは、その次の外伝の「おまけモード」(笑)
本編をとおり1編プレイしただけでは気が付かないシナリオです。
外伝は気に入らなかったけど、このおまけモードで評価が変わりました(笑)。
結果としてヴォルフは振られた事になるのですが、思い入れのあるプレーヤーとしては、何かあって欲しいと思ったワケです(自爆)。
ちなみに私のイチオシは、名前しか出てこなかった「コーツ大統領」です。
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