明日への眠り
アルゴン要塞から不用意に放たれた核ミサイルは、地球を放射能で汚染させていった。
「・・・結局、救えなかったのか・・・。」
変わり果てた地球の姿を見たとき、マリン・レーガンは、S−1星が未来の地球の姿であることを確信した。マリンだけではない。科学開発局の最高責任者であるクインシュタインもそれを予測していた。
「もうこの星の未来は決められてしまっているってこと?」
ジェミーの問いに、オリバーは吐き捨てるように言った。
「そうさ、S−1星という死の星の未来がな!結局、親子喧嘩だったって訳だ。」
「親が我が子の未来を潰す。歴史上、よくあることです。」
「クインシュタイン博士!」
クインシュタインの表情は厳しく、その瞳は冷たい輝きを放っていた。かつての青い地球で彼らの良き理解者であった頃の穏やかさはどこにもない。そして、もう一人、ブルーフィクサーチームのトップである月影も同じく冷たい表情を浮かべていた。
「世界連盟の決定を伝える。」
月影の抑揚のない声が淡々と事務的に決定事項を告げていく。
世界連盟の作った、唯一の核シェルターへの生存者の誘導と食料の確保。
人間味のかけらもない、ただ機械的に処理された最低限の生存区への絶望に満ちた強制収容である。
「これじゃ、まるで・・・。」
ジェミーは出かかった「家畜扱い」と言う言葉を辛うじて飲み込んだ。
それがどれほどに冷酷な決定であっても、1人でも多く生き残るための止むを得ない処置なのだ。
まずは、生き残ること。
それが、この世界を救う第一歩なのだから。

残された人々を強制的に収容し、半ば専制的な政治体制を取りながら、どうにか人類は放射能に汚染された地球に生き残った。極限にまで追いつめられた世界連盟の指導者たちに、明日を見つめた計画など建てる余裕などない。今日をいかに乗り切るか、それが彼らの精一杯であったのだ。

マリンは人気のない灯台から放射能に汚染された赤い海を見ていた。
暇ができると海を見に行くのは、S−1にいた頃からマリンの癖だった。
かつてS−1で毎日見ていたのと何ら変わらない景色がそこに広がっている。
だが、あの時は、希望があった。
父を中心とした研究所で放射能をクリーンアップする研究が着実に進められていたからだ。
しかし、皮肉にもその研究が完成した日、ガットラーのクーデターが起きた。

「やはりここだったのね、マリン」
ふいにマリンは思い出から現実へ引き戻された。
「ジェミー?」
「クインシュタイン博士が呼んでいるわ。」
「博士が?なんだろ、今頃・・・。」
ガットラーの脅威が地球から去ったため、ブルーフィクサーチームは科学開発局から切り離されている。
そこの研究員であるジェミーともしばらくは会っていなかった。
「マリンだけじゃないの。オリバーや雷太もよ。」
ジェミー自身、この呼び出しの意図を教えてもらっていないらしく、不思議そうな表情をしている。
「早く、いきましょ。」
久しぶりの仲間達との再会が嬉しいのか、ジェミーは明るい表情を浮かべていた。

マリン達が案内されたのは、科学開発局の地下に建設中の広大な部屋であった。
その中にいくつかのカプセルが試験的に設置されている。
「・・これは!?」
マリンはそのカプセルに見覚えがあった。
クインシュタインが作業を離れてこちらに向かってくる。
「久しぶりですね。」
少し疲労感の残る声がマリン達を出迎えた。
「博士、これは?」
「アルゴン要塞のコールドスリープシステムを真似て作ったものです。」
「なぜ、こんなものを?」
その質問には答えず、クインシュタインはマリンに別の質問をした。
「マリン、あなたはS−1星でクリーンアップの研究を手伝っていたと言いましたね。」
マリンは遠い日の記憶を呼び覚まして答えた。
「ああ。親父の研究は完成して実験もほぼ成功していた。あの日、ガットラーに破壊されたけどな。」
「でも、実験システムは破壊されたとしても、その記録まで棄却されたわけではないでしょう?」
クインシュタインの指摘は、淡々とした中に、期待する含みが込められている。

確かに、父は殺され研究所は爆発したが、研究記録の全てが失われたわけではない。マリンが脱出に使ったパルサバーンはその研究成果の一部を利用して造られたものであった。その研究に携わっていたマリン自身にも、クリーンシステムの内容は、完全とまではいかないまでにも記憶されている。研究成果は皇帝にも報告されていたから、王宮の記録庫にも保存されているはずだ。だが、それはこれより遙かな未来の地球=S−1星でのことである。

「ならば、そこに何らかの道が残されているのではありませんか?」
マリンの目が驚きに見開かれた。
「まさか、S−1星へ行こうというのですか?」
クインシュタインは静かに頷いた。
「S−1星はガットラーが去った後、無人の星と化しているのでしょう。それなら、私達が行ったところで争いは起こらないはず。」
「博士・・・。」
S−1星へ行くために、コールドスリープを利用しようというのである。
「だったら、ガットラーがS−1星をでる前に目覚めるようセットすれば、地球は救えるんじゃありませんか?」
オリバーの疑問にクインシュタインは首を振った。
「過去は変えられません。たとえそれがどんなに過った歴史であっても、変えてはならないのです。」
その答えを聞いて、彼らはこのコールドスリープシステムが世界連盟に未報告の計画であることに気が付いた。そして、人類全てに適用される計画ではないことも・・・。仮に世界連盟にこの内容を申し出ても、おそらく闇に葬られてしまうことにも気付いてしまった。一度手にした権力を手放す者はいない。今の世界連盟の対策が如実にそれを物語っている。

「世界連盟に報告するかね?」
いつの間にか、月影がそこに姿を現していた。
「長官!」
「この計画は長官が?」
「避けられない未来なら、とことん避けて通ればよい。臆病者の言い訳かもしれんがね。」
それから、と月影は笑った。
「もう、長官はよしてくれ。さっき、クビになったのでね。」
月影の服には世界連盟のVIPバッジが着いていない。何事につけ、世界連盟首脳陣の政策に異議を申し立てる月影は、ついに退陣に追い込まれたのである。ガットラーの脅威が去り、戦闘部門としての責任を終えた今、月影にはブルーフィクサーへの未練はなかった。
「科学者として、もう一度、青い海をこの目で見たい、それだけだ。」
そう言って微笑んだ月影の表情は昔のままの穏やかさをたたえていた。

当面の目の上のたんこぶであった月影を排除したことで、世界連盟は安心したのか、科学開発局には何の手も伸びてこなかった。月影の配下と見なされていたマリン達が時期を同じくしてブルーフィクサーから科学開発局へ異動しても、特に注視されることもなかった。クインシュタインは密かに、だが着実にコールドスリープシステムを充実させていった。そして、ついにシステムの全てが完成した。

「これで、地球ともオサラバか。」
「目覚めたって、地球には変わりないだろ?」
オリバーと雷太の会話にジェミーが吹き出した。これから彼らの向かう先はS−1星というマリンの故郷の星であると同時に、地球の未来でもあるのだから。志を同じくする仲間達が続々コールドスリープルームへ集まってきた。皆、クインシュタインに別れを告げ、未来への眠りに就いていく。そう、クインシュタインは眠りに就かない。彼女は科学開発局の最高責任者として「地球」に残ることを最初から決めていた。

「私には、まだこの世界で為すべき事が残っていますから。」
月影の説得に、クインシュタインは笑ってそう答えた。
パルサバーンを調査した時に芽生えた疑問は、S−1星が未来の地球だと判った時に答えを導きだし、同時に彼女は自分の未来を悟ってしまったのだ。なおも説得に訪れた月影に、クインシュタインは変えてはならない歴史として語った。
「親として子供に課題を残してやらねばいけないでしょう?」
月影は絶句し、それ以上の説得を諦めざるを得なかった。

人影が疎らになり、やがてかつてのブルーフィクサーチームだけになった。
「おやすみなさい。」
二度と会うことない科学者に、マリン達はさっと敬礼した。
「おやすみなさい。」
クインシュタインは、あたたかな瞳でカプセルへ向かう彼らを見送った。

マリンは、指定されたカプセルに横たわった。
身体が固定されたのをカプセルが認識すると、蓋が自動でロックされていく。
目覚めたら、また忙しくなる。
だが、今度は戦士としてではなく、科学者としての日々がはじまるのだ。
父や母から受け継がれてきた研究がマリンを待っている。
マリンは深い眠りに落ちていった。

おわり
<あとがき>
これを書きはじめた動機は、「宇宙戦士バルディオス」((C)国際映画社・葦プロダクション・東映)TV番組が途中で打ち切られあんまり腹が立ったから。それほど夢中になった作品じゃないし、暗い話が多くて、どちらかというと嫌いでした。それなのに、打ち切られた途端、すごーく続きが気になって・・・。
元が好きな作品じゃなかったから、書くペースも遅くて、書き終わったのは、映画が公開されたあとでした。映画?もちろん、見に行きましたよ。でも、やっぱり救いのない作品でしたね。
作品は嫌いでしたが、音楽はすっごく好き!
羽田健太郎さんの作品であることを知ったのは随分あとでしたが、今聴いても、いいですよ。
OPとか挿入歌はとっても元気な曲ですもの。

2000年5月10日。塩沢兼人氏の訃報に接し、心からお悔やみ申し上げます。
back
home