ナイショのセレモニー
アンジェリークとロザリアは宇宙の女王とその補佐官として聖地に足を踏み入れた。アンジェリークの即位の儀の式典会場の準備で聖殿はごったがえしている。
ふたりの準備はそれが終わってからだよ、とオリヴィエに言われ、とりあえずその付近を散歩して時間を潰すことになった。

「ここが、王立研究院ね。」
アンジェリークは臆することなく、正面からずんずん入っていく。
「見て、見て、ロザリア。」
物珍しそうにあちこちのぞき込んではしゃいでいる姿は、とてもこれから宇宙を導く偉大なる女王陛下には見えない。
「アンジェ・・・じゃない、陛下。」
まわりをよく見て歩かないと人にぶつかります、とロザリアが注意しようとした先に、アンジェリークは階段を駆け降りてきた研究員とぶつかってころんだ。
「きゃ、危ない!」
ぶつかった弾みで、彼の持っていた書類が辺りに散らばって落ちていく。
「ごめんなさい!」
急いで起きあがり、アンジェリークは散らばった書類を拾おうと、手近にあったそれに手を伸ばした。
「・・・賞の表彰式名簿?」
その賞の名前は、アンジェリークもよく知っているものであった。何気なく目をはしらせたその十数名の受賞者の中の1人に目が釘付けになった。
「ロザリア・デ・カタルヘナ スモルニィ女学院」

「ロザリア?」
アンジェリークの視線は駆け寄ってくるロザリアに向けられた。
「ロザリア、これ。」
アンジェリークはその箇所を示して、ロザリアの目の前に差し出した。一瞬、怪訝な顔をしたものの、ロザリアは内容を理解すると、そのまま書類を拾い集めている彼の元へ持っていった。
「ロザリア!」
アンジェリークの抗議する呼び声に、彼が振り返った。栄えある賞の表彰式典の出席を辞退してきた噂の人物が、目の前の少女であることに気が付くと、思わず興味深そうに見つめ返している。
ロザリアは、アンジェリークの制服の汚れをパンパンと払ってやり、くるりときびすを返した。更に、彼の不躾な視線をもロザリアは無視している。
足早に立ち去ろうとしているロザリアの前にアンジェリークが立ちふさがった。
「どうして?」
「あんたには、関係ないでしょ。」
「それは・・・でも。」
アンジェリークはロザリアの手を引っ張って、いささか強引に、書類を確認している彼の前に連れ出した。
「今からでも、間に合いますか?」
「アンジェリーク!」
「ロザリアは黙ってて。私は、この方に尋ねているのだから。」
アンジェリークの怒った声をこのとき、ロザリアは初めて耳にした。
「今からでも、表彰式に間に合いますか?」
彼から返事がないので、もう一度、アンジェリークは同じ質問を繰り返した。
「え、ああ、申し訳ありません。」
神経質そうにメガネにに手をやり、彼は謝った。
「式は、これから私が名簿を読み上げることにより、始まりますので・・・。」
全部を聞く前にアンジェリークは口を挟んだ。
「間に合うんですね!」
「結論から言えば、可能と申せましょう。」
アンジェリークの顔が明るさを取り戻していく。
「式って、長くかかるのですか?」
今、一番気にしている問題を尋ねてみる。
「いえ、会場に入って受賞者の名前を呼んで、それで終わりですですので、15分位のものでしょう。」
それさえがわかれば、何を迷うことがあるだろう?
「行って来て、ロザリア。そして、私にも見せて。」
アンジェリークはその場に立ちすくんでいるロザリアの肩をポンっとたたいて言った。
「今更、なにを・・・。」
口ごもるロザリアの藍色の瞳をアンジェリークの緑色の瞳が覗き込んでいる。
「そうしたら、私の親友はこんなにすごい人なんだよって、自慢できるじゃない。」
悪戯な瞳がくるくる動いている。
「アンジェリーク・・・。」
それでも、ロザリアはまだうんと言わない。
時間のことは、既にアンジェリークが確認して解決済みである。
詰め寄るアンジェリークに、ロザリアはぼそりと呟いた。
「だって、服が・・・。」
式典に出席となるとなれば、それなりの礼服を着用しなければならない。
「私たち、まだ、スモルニィの生徒よね。」
実質的には、既に女王とその補佐官ではあるけれど、公文書上の手続きが終わっていないため、書類上ではまだスモルニィ女学院の生徒である。
「学生の間は、学生服が礼服だわ。」
ロザリアが着ているのは、ブルーを基調としたワンピース。
アンジェリークが着ているのは、スモルニィ女学院の制服。
厳密に言えば、ロザリアの方がアンジェリークに比べると少しばかり身長が高いが、それでも標準サイズであることに変わりはない。
「行こうよ、ロザリア。せっかく頑張ってきたんじゃない。ね?」
「・・・アンジェリーク。」
ロザリアはコクンと頷いた。

「ロザリア、きつくない?」
「あんたこそ、大きくない?」
彼に案内してもらって着いた表彰式の会場内の、手近にあったロッカールームで二人は着ている服を大急ぎで取り替えた。
ロザリアの髪はアンジェリークが結び、アンジェリークの髪はロザリアが整えた。
「お待たせしました。」
ドアの外で、彼は式の開始時刻を気にして時計とにらめっこしていた。
「ああ、よろしいようですね。」
表彰を受ける人々が会場の入口に並んで待機している。
ロザリアはその列の一番最後に着いた。
彼は、読み上げる名簿の一番最後に「ロザリア・デ・カタルヘナ」と追記すると、アンジェリークに一礼して、会場の方へ向かって行く。
「あとで、記念写真、撮って下さいねー!」
アンジェリークの明るい声に見送られて、彼は会場に入っていった。

おっしまい
<あとがき>
ゆうえいさんのHPで公開していた「ロザ・アンシリーズ」の中の1作です。
HP改装に伴い初期シリーズを撤去されたので、こちらに再録させていただきました。
Special2から登場する教官・協力者との出会いを絡めて、アンジェリークとロザリアの「普通」に過ごした時間を書いてます。
今読み返すと、ふたりが女子学生していてほほえましく新鮮です(爆)。
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