熱き想いに燃える火は
「封印!」
あかねの声が響き渡り、最後の四神が封印された。
「やった!」
だが、それで全てが終わったわけではない。
四神を封印しただけではアクラムを倒すことはできなかった。
「明日こそ、決着を付けよう。」
アクラムの不敵な声はいささかの自信の揺るぎも見られない。
「万全を期して挑んでくるがいい。」
人を見下した冷ややかな目を残してアクラムは消えた。

「けっ。格好つけやがって。結局は、自分で戦わず負けたくせにさ。」
イノリは戦いに勝った優勢さを感じて余裕だった。
「こっちは四神とも揃ったんだ。負けるわけねぇじゃないか。なあ、頼久さん。」
威勢良く振り返った時、イノリはそこで信じられない光景を目にすることになった。

「大丈夫、頼久さん?」
心配そうに頼久に寄り添ったあかねの瞳は、イノリが最も見たくない色を宿していた。
「・・・。」
頼久は無言だった。
もとから口数の多い人ではなかったが、あかねの問いすら黙りを決め込むとは、ただならぬ事態ではないのだろうか。
あかねもそのことに気が付いたらしく、そのまま視線を頼久に合わせて追っている。
そしてそれを見ていたイノリもあかねと時期を同じくして、頼久が無言の原因に行き当たった。
あかねはその瞬間、息を飲んで凍り付いた。
「刀が・・・。」
絞り出すような声が空を虚しく響いていく。
無敵を誇っていた頼久の刀の刃が先の戦いで刃こぼれを起こしていたのだ。
「・・・こんなことって・・・。」
あかねの頬を透明な滴がこぼれ落ちていった。

「ホント、女ってわかんねぇよな・・・。姉ちゃんにしろ、あいつにしろ、どこがよくてあんな奴を好きになったんだか。」
あかねの涙で姉の事を思い出したイノリの心は少しだけ痛んだ。
あかねには悲しい想いをさせたくなかった。
そのために自分にできることといったら・・・。

アクラムとの明日の戦いに龍神の神子と直接参加できる人数は限られる。
神子を思う気持ちは誰にも負けないつもりだが、それだけで神子を守り戦えるわけではないのだ。
戦いに勝敗は付きものとはいえ、この戦いには絶対負けられない。
イノリは刃のこぼれた頼久の剣を見た時、心を決めた。
八葉ではなく鍛冶職人としての戦いをイノリは選んだのだ。

「オレにその刀、預けてくれないか?」
呆然と立ち尽くしていた頼久の前に、一歩踏み出してイノリは言った。
「イノリ殿?」
どこか力のない声が訝しげな視線を返している。
「預かるのは、朱雀じゃない。鍛冶屋のイノリだ。」
まだ修行中だけどな、とは心の中だけで付け足した。
頼久の顔にあっと驚きの色が走り、次の瞬間、希望の色が重なった。
「いいから、オレに任せろよ。」
イノリの口調はいつものようにぶっきらぼうだったが、その目は真剣そのものだった。
「今夜中に、もとどおり・・・、いや、それ以上にして渡してやる。」
自信に満ちたきっぱりした物言いは、初めて出会った頃に感じられた生意気さが抜けていた。
付き合った時間分だけイノリに対して持った好意分を差し引いたとしても、彼への確かな信頼がそう感じさせているのだろう。
「お預けいたす。」
頼久は刀を鞘に収めると、両手で押し抱くようにしてイノリに差し出した。
「任してくれ。明日の朝、必ず渡すから。」
イノリは受け取ると、そのままきびすを返して走り出した。

あたりは既に夕闇に包まれている。
明日の朝までという限られた時間に為さねばならないということもあったが、言い出したことにいささか気恥ずかしさもあったのだ。
「これがオレの戦いなんだ。」
固い決意と熱い思いを秘めて、イノリは溶炉に火を熾したのだった。

おわり
<あとがき>
今更言うまでもないコーエーのネオロマンス。
アドベンチャーはイマイチよね、と思いながら結構はまった作品です。独自の世界観で書くのは容易いんだけど、どうしても「平安時代」に拘りがあって、コーナーは作らず思い付いた時だけ単発的に書いてました。
「熱き想いに燃ゆる火は」は、シイマ様からいただいたイノリのイメージ創作として書いた物です。イノリのイラストでなぜに頼久ラブなのか?それは某Y嬢の強いリクエストがあったからでした(笑)。
シイマ様のイラストはこちら⇒GO!

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