ヒ・ミ・ツのリ・ボ・ン
次期女王候補として飛空都市に来る前は、アンジェリークとロザリアはクラスこそ違え、共にスモルニィ女学院の生徒であった。
互いに面識はなかったが、同じ学校に通っていれば、同じ話題を持っていても何ら不思議はない。

2月14日を目前に控えたある日のことだった。
ぶっちゃけた話、ヴァレンタインのチョコレートをもしあのままスモルニィに通っていてあげるとしたら誰に渡したいかという、女の子にとって極めて重要なナイショ話をしていて、偶然ふたりの相手が一致したのである。
「えー!?ロザリアも!」
アンジェリークの思わずあげた声に、ロザリアがあわててその手でアンジェリークの口をふさぎにかかった。
「ちょっ・・・声が大きすぎてよ。」
ふがふがと頷き、アンジェリークは出しかけていた声ををあわてて飲み込んだ。
けれども、今の話で大きな瞳をますます大きく見開いて、興味津々で話の続きを待っている。
「だって、あれだけ目立つ方ですもの。それに、あの方の担当区画はちょうど私達の通り道に当たってましたから。」
「そうなの?いいなあ・・・。わたしなんかわざわざまわり道してたのよ。お店は通り道にあったけど、担当区画は反対方向にあたるんだもの。」
「・・・もしかして、そういう子、多くありません?」
「あ、やっぱりわかる?」
てへっと肩をすくめてアンジェリークは笑った。
「だって、お店の方へはなかなか行けないから、あの時は絶好のチャンスじゃない。こそこそ覗き見しなくてもいいわけだし、堂々とご挨拶できちゃう。」
「確かに、あの時以外では挨拶する機会もないわね・・・。」
「あれ、ロザリアは自宅から送り迎え付きだって言ってたと思ったけど・・・?」
ふと疑問に思い浮かんだ事を口にすると、ロザリアはにっこり微笑んでのたまわった。
「もちろん、その時だけは歩いて通いましたわ。」
「・・・・。」
そして、ふたりは同時に何度目かのため息をついた。
「あの方に、お渡ししたい・・・。」

アンジェリークはカレンダーに目を向けた。
2月14日は定期審査の日に当たっていて大きな赤丸が付けられている。
定期審査の日は、次元回廊をとおって飛空都市から聖地に向かう。
聖地は特殊な場とはいえ、主星に位置している。
アンジェリークとロザリアの通っていたスモルニィ女学院はその主星にあるのだ。
先に思いついたのはアンジェリークだった。
「・・・ダメかな?」
「難しいけど、やってみる価値はあるわね。幸い、定期審査で聖地に行く日だし。うまくやれば、スモルニィは聖地と直結してるから。」
おずおずお伺いを立てるアンジェリークに珍しくロザリアが同調した。
それでも慎重に言葉を選んでおおざっぱなアンジェリークの案に修正を加えることは忘れない。
「問題はどこで買うか、ね。」
「え、買うの?」
「本当は手作りでいきたいところだけど、今からではどうやっても間に合わないでしょ。いい加減な材料で作るくらいなら、心を込めて買うわ!」
さすが完璧主義なロザリア、1本筋が通った説得力がある。
確かに、問題は「どこで」買うかだ。
時間的な余裕はあまりない。
その場で悠長に探すというわけにはいかないのだ。
残念なことに深窓の令嬢として育ったロザリアに「買い物」の知識はあっても経験が大いに不足している。
「それなら、任せて!いいお店があるわ。スモルニィのすぐ近くで、小さいけど専門店でとってもおいしいの。」
アンジェリークはかつて食べたそこのレシピをいくつかロザリアに話した。
ロザリアもそこの商品を食べたことがあり、十分合格点のお店だった。
「あんたにしては、いいセンスだわ。」
ロザリアはそのお店で買うことに同意し、更に買う物も決めた。
アンジェリークおすすめのそれは、丁度2種類あってどちらも甲乙付けがたいおいしさなのである。
「これで決まりね。」
ふたりはがっちりと手を取り合い、次の定期審査の日を一日千秋の思いで待つことになった。

そして待ちに待った定期審査の日。
「いいこと、アンジェリーク。」
「わかってるわ、ロザリア。」
それこそ1秒の狂いもなく正確な行動スケジュールを入念に打ち合わせ、ロザリアの特待生の特権で得ていた情報で、ふたりは聖地からスモルニィへの寄り道を成功させた。
歩き慣れたかつての道を、まずは目指すお店へと駆けって行く。
目的のチョコレートを心を込めて買い、かわいらしくラッピングしてもらって、再び、良く知っていた道を走り出す。
「あーん、リボンがほどけちゃった。」
「もう、ちゃんと結んでなかったの?」
アンジェリークのふわふわの髪をなんとかまとめるべく結ばれていたリボンが、走ることによって緩んだらしく、みっともなくずり落ちていた。
「櫛・・・なんて持ってるわけ・・・。」
「ないです。」
アンジェリークはしゅんとなった。
「変に結ぶより、そのままの方が元気そうであんたらしいわよ。」
ロザリアは慰めて言ったものの、ふと街のショウウインドーに映る自分のリボンも緩んでいることに気が付いた。
アンジェリークほど崩れてはいないが、形がどこか変なのだ。
まさか、こんな距離を猛然とダッシュするとは思っていなかったので、いつもどおりに整えて結んだものの、結び目をきつめにすることまでは気がまわらなっかたのである。
ロザリアの見事な縦ロールこそ、手ぐしで整えるというわけにはいかない。
「・・・あんたに付き合うわ。」
シュルルとロザリアは自分のリボンを引き抜き、さらりと髪をなびかせた。

紺色の髪をなびかせた少女と金色の髪をふわふわ揺らした少女が、意中の「あの方」のお店の前に来た。
大きく深呼吸し、覚悟を決めてそのグリーンショップの扉をくぐる。
「やあ、良く来てくれた。」
あの頃と変わらないままの彼が居た。
いつもどおりの挨拶をして振り向いた彼は、少女達に気が付くとひどく驚いたようにふたりを改めて見つめ直した。
「あの・・・。」
「これ、私達の気持ちです!」
ロザリアがすかさず、しかしやや遠慮がちにまず手にしたヴァレンタインのチョコレートを差し出し、つられるようにアンジェリークも少しだけ遅れて自分のを差し出した。

何かを期待して渡したわけではない。
ただ、自分たちの素直な気持ちを、そのまま行動に移しただけ。
ありのままの自分たちを忘れずにいてほしかったから。
いずれ忘れられてしまっても、その瞬間は記憶に残るから・・・。

「俺のために選んでくれたのかい?ありがとう、お嬢さん。」
目の前のふたりの少女はよほど急いで来たのだろう。
冷たい風に耳を赤くして、豊かな髪がそれぞれの肩で踊っている。
ふたりからの包みを受け取ると、本当に嬉しそうにほっと笑みを交わしている。
「それでは、どうもおじゃましました。」
「ありがとうございました。」
ペコリとお辞儀をしてお店を出ようとしたふたりに、
「あ、待ってくれ。」
と、彼は引き出しから真新しいリボンを2本取り出して、ふたりの手にのせた。
「草木染めで試しに作ったものだが、君たちに似合いそうだからプレゼントするよ。」
春のように優しいピンクと、夏のようにさわやかなブルーのリボンだった。
「え?でも、これ・・。」
「ヴァレンタインのお返しってことで。」
彼のウインクにふたりは胸がドキンっと高鳴った。
「急ぐんだろう?」
まだ冷たい風が少女達の髪をなびかせていく。
「ありがとうございました!」
もう一度お礼を言って少女達は駆けだした。
振り返ることなく、自分たちの道を手を取り合って仲良く走っていく。
「新しい世界はおもしろくなりそうだな・・・。」

アンジェリークとロザリアは無事に飛空都市に帰ってきた。アンジェリークの髪は優しいピンクのリボンでまとめられ、ロザリアの頭にはブルーのリボンが揺れている。いつもより少しだけ色が違うリボンをしたふたりは固い友情で結ばれている。
「あー!私としたことが。」
思い出したかのようにロザリアが、本当に残念そうな声をあげた。
「メッセージカードを付けるのをすっかり忘れてたわ。」
「カード?名前も知らないのに?」
アンジェリークはきょとんとしている。
「名前って・・・ちょっと、アンジェリーク、あの方のこと、まさか・・・。」
「知らないわよ〜。ホントに通りすがりで素敵だなーって憧れてだけだもん。」
堂々と言うアンジェリークにロザリアは開いた口が塞がらない。
「アンジェリーク、あんたにはやっぱり勉強が必要ね。」
「ろざりあ〜」
アンジェリークはロザリアの厳しい指導で、聖地と守護聖についての勉強を一からやり直すこととなった・・・らしい。


おしまいだよ
<あとがき>
ゆうえいさんのHPで公開していた「ロザ・アンシリーズ」の中の1作です。プレゼントされたリボンを付けたアンジェリークとロザリアのイラストのイメージ創作として書いたものです。
HP閉鎖に伴い、こちらに再録させていただきました。
作中の「彼」が何者であるかは、ふしアンをご存じの方にはバレバレでしょう(笑)

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