薔薇の予言
 カタルヘナ家のロザリアお嬢様は賢くていらっしゃる。
 その名が示すとおり、ロザリアお嬢様は美しくていらっしゃる。
 だから、もしも次期女王の選定が行われれば、必ず女王に選ばれるに違いない。
 
 主星の大貴族の一人娘、ロザリア・デ・カタルヘナは幼い時から当然そうあるべきと、周りは勿論本人もそう思って生きてきた。それが、いざ現実となった時、ものの見事に覆されたのである。しかも、ロザリアを飛び越して新しい女王に選ばれたのは、何の取り柄もない平凡な少女にすぎないと思われていたアンジェリーク・リモージュであった。
 けれども、ロザリアは知っていた。自分は、決してアンジェリークに勝てないであろう事を。なぜならば…。
「ねえ、アンジェリーク、知っていて?わたくしの名前は花の中の華、薔薇(ローズ)にちなんで付けられた物なのよ。」
 忙しい女王試験の間をぬって、ライバル同士であるはずのふたりは、互いの部屋を訪問しあってよくお茶を飲んでいた。お茶の葉はロザリアが、付け合わせのお菓子はアンジェリークがそれぞれ受け持って、年頃の女の子同士、飽きることも知らずにいろいろなことをおしゃべりしたものだ。
「だから、きっと新しい女王にはアンジェリークが選ばれるわ。」
 普段のロザリアからは想像できない言葉に、アンジェリークは目を丸くして固まっている。
「だって、女王陛下はとても慈悲深い方なんでしょう。わたくしには無理だわ。」
 優雅に紅茶を一口飲んでカップを置くと、ロザリアはにっこり微笑んだ。
「なにしろ、美しい薔薇には棘があるんですもの。うっかり触って怪我をするのは、触れた方なのよ。その点、アンジェリークはその名のとおり慈悲深き天使様ですものね。」
「でも、わたしはロザリアには何ひとつ敵わないのよ。そんなので宇宙の女王が務まると本気で思ってる?」
「そのためにわたくしがいるんじゃありませんの。このロザリア・デ・カタルヘナに不可能なことはなくてよ。個人的な目的を達成した上で、完璧な女王補佐官になってみせますわ。」
 大輪の薔薇が誇り高く咲き誇ったような微笑みに、アンジェリークは圧倒された。
 はじめのうちこそ質の悪い冗談だと思っていたが、日が経つに連れてそれがロザリアの本気であることに気が付き、アンジェリークは慌てふためいた。けれども、ロザリアの予言どおり、アンジェリークが次期女王に選ばれ、新しい宇宙への移転や女王になったことを宇宙に宣言する即位式など非日常的なことが終わる頃には、これでよかったのだと思うようになっていた。

 アンジェリークとロザリアのお茶会は、女王陛下と女王補佐官になった今も続いている。女王候補の時と違うのは、ちょうど居合わせた守護聖を招いたりするので、必ずしもふたりきりのお茶会ではなくなっていることだ。
 その日も炎の守護聖オスカーを客人に迎え、ロザリアがお茶の追加を準備しに席を立った隙をぬって、お茶目な女王陛下は、オスカーにこっそり聞いてみた。
「オスカーは、薔薇の棘に刺されたことがあるの?」
 真剣な表情で尋ねるアンジェリークにオスカーは、うやうやしく剣を携えて答えたものだ。
「この剣は、陛下をお守りするためのものです。ですから、薔薇の棘のように危険なものは、この剣にかけて取り除いてからお持ちしております。」
「つまり、ロザリアがまるくなったのはオスカーのおかげで、そのオスカーは一度も薔薇の棘に刺されたことがないってことよね?」
 念を押すアンジェリークに、お茶を入れて持ってきたロザリアの方が雰囲気を察して赤面している。
「やっぱりロザリアには敵わないわ。」
 あの日の宣言どおり、ロザリアは前代未聞でとてつもなく困難と思われていた守護聖との恋を成就させ、更には完璧な女王補佐官として女王となったアンジェリークの傍にいるのである。


おわり
<あとがき>
 その昔、「ファンタスティックフォーチュン」と「ふしぎの国のアンジェリーク」をミックスした企画物『ふぁんたdeふしアン』を共同製作したことがありました。その時に描いて頂いたゆうえいさんのCG(EDの一枚)から新たにイメージ創作を書き上げたものです。
 ロザリア・デ・カタルヘナは金色の髪に緑の瞳のアンジェリーク・リモージュのライバルとして登場しますが、存在感があって魅力的なキャラクターです。そして「ロザリアにはオスカー様」が私のポリシー(笑)
 ネオロマンスものから離れて久しいですが、たまには初心に返って楽しむのもいいですね。
 なお、『ふぁんたdeふしアン』は限定企画だったため期間終了後は撤去し、メモリアルとして断片的に紹介していましたが、結界を越えて通称「裏」コースにはいると再アップしたものがご覧頂けるようになっています。
back
home