アンジェリークとロザリア


■本日も晴天なり

「これにて本日の議題は終了する。」
光の守護聖ジュリアスによる会議終了の合図に一同やれやれと緊張をほぐしにかかった。
「みなさん、少しだけお時間をいただけますか?」
第256代にして新しい宇宙の初代女王アンジェリークのにこやかな声が発せられた。
早くも立ち上がりかけた鋼の守護聖ゼフェルが面倒くさそうに、だが、どっかりと座り直す。
いつもと変わらぬにこやかな表情でアンジェリークは傍らの親友にして有能なる女王補佐官ロザリアに合図した。
心得ましたとロザリアが片付けられたばかりの円卓に配って回ったのは・・・。
「女王陛下主催の運動会!?」
「はい、日頃の運動不足解消と親睦を兼ねて一人一種目、全員参加で開催します!」
候補生時代と少しも変わらぬ天使の微笑みがそこにあった。

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ことの始まりは、女王陛下の脱衣所にある体重計だった。
「いやーん、太った〜。」
宇宙の移動のごたごたが一段落し、落ち着いて少々退屈を感じていたある日、お風呂上がりの体重計の針にアンジェリークは憤慨した。
スモルニィで一日中くるくる動き回っていた頃に比べると、ほとんど一日中座りっぱなしの今の生活は明らかに運動量が激減している。
「このまま、増え続けるなんてこと、ないわよね。」
アンジェリークの不安は現実となって現れていった。

「・・・増えてる。」
わずかではあるが、針は右へ進んでいる。
このままではマズイと食事制限を試みようとしたのだが、おいしいお茶とお菓子を目の前に挫折した。

「また、増えてる。」
正直、泣きたくなってきた。
同じ頃一緒に聖地へやってきたロザリアは毎日忙しそうに立ち働いており、どうもこの手の話題とは無縁そうである。
しかし、他に相談できる相手もいないとあっては致し方ない。
アンジェリークは意を決して、ロザリアにダイエットの協力をお願いしてみたのである。
「よろしいですわ。」
意外なほどあっさりロザリアは承諾した。
「え、ホント?」
拍子抜けしたアンジェリークにロザリアはにっこりとのたまわったのである。
「チアガールメニューを伝授して差し上げましてよ。」
「え、ロザリア、チアガールやってたの!?」
驚くアンジェリークにロザリアはほほえんでいるだけである。
スモルニィのチアガールといえば、容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群の女子高生の憧れの象徴といわれている。
「ロザリアってやっぱりすごいかも。」
感心したままのアンジェリークにロザリアは、「どうするの?」と確認した。
「やるわ!」
拳を握りしめて気合いを入れたアンジェリークである。
「協力するからには成果をあげていただきましてよ。」
にっこり優雅な微笑みを浮かべたロザリアを心底怖いと思ったアンジェリークであった。
かくして二人三脚のチアガールメニュー特訓がはじまった。
ロザリアが感心したことには、アンジェリークは音をあげず、毎日しっかり規定のメニューをこなしていったのである。
「よく続くわね。」
そこそこにチアガールの振り付けがサマになってきた頃、ロザリアがぽろりとこぼした。
「うふふ。」
大きな緑色の瞳がいたずらっぽい光を宿して輝いている。
「な、なによ。」
思わず一歩引いたロザリアの手をぐいっと引っ張り、アンジェリークはたたたっとクロークの前に連れてきた。
「じゃーん。かわいいでしょ?」
意気揚々と取り出して見せたのは真っ白なひらひらのペチコートである。
一目でわかるチアガールの衣装・・・。
「う・・・。」
「これ着て、バッチリ踊りたいもの。」
「踊りたいって・・・まさか、ここで!?」
「そうよ。」
「冗談じゃありませんわ。女王陛下ともあろう方が・・。」
「えー、だって、そのために頑張ったんだもの。」
ほほを膨らませたアンジェリークにさすがのロザリアも頭を抱えた。
まさか聖地でチアガールをやると言うのか、この女王陛下は!
「ね、やろうよ。」
対してアンジェリークはすっかりその気である。
「できるわけないでしょう。」
「どうして?」
「どうしてって・・・。」
「だって、ロザリアと踊るの楽しいんだもん。」
「あ・・そ。」
屈託のない答えにロザリアは降参した。

今更ながらにアンジェリークのバイタリティーを甘く見すぎていたと反省しながらも、
一旦やると決めたからには、完璧主義なロザリアのプライドにかけて中途半端なことはしたくない。
「あのね。」
しかし、アンジェリークの思いつきは更にロザリアの上をいっていた。
「守護聖方にも参加してもらえるように、できないかしら?」
「ち、チアガールをですの!?」
「まさかー。」
笑い転げて、とっさには否定してみせたが、多少興味は惹かれたようである。
「ちょっと見てみたいかも。」
最後に付け足された言葉をロザリアは、聞かなかったことにしている。
「やるからにはもちろん全員参加よね。最低、一人一種目。うん、女王主催ってことにすればジュリアスだって否やはないだろうし。」
アンジェリークの頭はめまぐるしく回転して、あっという間に「女王陛下主催の運動会」の大まかな概要を捻り出していったのである。
「これで、どう?」
「・・・よろしいですわ。」
がっくり脱力したロザリアに、アンジェリークはとどめの一言を付け加えた。
「明日の会議に掛けてね。」
すっかり板に付いた女王スマイルに、ロザリアは観念して頷いた。
かくして、女王陛下から持ち込まれた突発の議題に、守護聖一同頭を抱えることになったのである。

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