今夜はパンプキン!

「やっぱり無理よね。」
どこから探し出してきたものか、古ぼけたほうきを前にしてアンジェリークはロザリアにお伺いを立てている。
「あんたね・・・。」
いつもならそう言って呆れ顔になるはずのロザリアなのだが、この時ばかりは何故か違っていた。
なにやら思案にふけっている。
アンジェリークが持ちかけたのは、今度のハロウィーンに、それらしい仮装をして守護聖様の所へ行ってみないかというものだった。
飛空都市での時間は主星のそれに合わせてある。
アンジェリークの部屋のカレンダーには主星での季節行事がしっかり記入されていた。
「も、もしかして、言葉もでないほど、呆れちゃった?」
おずおずと上目遣いで問いかけたアンジェリークに、ロザリアはくすりと笑って頷いた。
「いいわよ。年に一度のことですもの。」
アンジェリークからほうっと溜め息が漏れる。
「そうと決まれば早速衣装の手配をしなくては。」
「えーっと、それなら、そのぅ・・・。」
アンジェリークの声が更に小さくなっていった。
「オリヴィエ様に・・・お願いしてあるの!」
ごめんなさいっと頭を下げたアンジェリークである。
「・・・そう。ちょっぴり残念ですわね。」
だが、それ以上追求することなく、ロザリアはあっさり引き下がった。
何はともあれ、ひとまず第一関門突破だと、胸をなで下ろしたアンジェリークであった。

さて、ハロウィーン当日。
オリヴィエが約束どおり、ハロウィーンにピッタリという衣装を持って女王候補生を訪ねてきた。
「ふふ、どう?」
悪戯っぽくウインクしたオリヴィエに、アンジェリークとロザリアは期待と不安の入り交じった表情で運ばれてきた衣装を手に取った。
「きゃ〜ぁ、ステキ!」
「こ、これを着るんですの!?」
大きな鍔の広がった黒い帽子に、一目で魔女とわかる黒いドレスは勿論お揃いである。
予想通りの反応に、オリヴィエはうれしそうであった。
「オ、オリヴィエ様っ!」
「なあにかな〜、ロザリア。」
「わたくしはともかく、アンジェリークにこれは、ちょっと刺激が強すぎますわっ。」
艶のある黒一色でシンプルなドレスは要所々に大胆なスリットが入っている。
身体のラインがくっきり表れるデザインは、見方によってはかなり刺激的といえよう。
幼い顔立ちのアンジェリークとそのドレスは一見アンバランスな組み合わせなようで、その実似合っている。
オスカー辺りに言わせると「思わずそそられる」とでも言うところであろうか?
「一度こういう大人っぽいドレス、着てみたかったの〜。」
ロザリアの気も知らず、アンジェリークは無邪気に喜んでいた。

「冗談ではありませんわっ。」
ダンッとテーブルを叩き壊さんばかりにロザリアは抗議を焚き付けた。
「危険すぎますっ!わたくしは絶対、反対ですっ。」
「何が危険なの?」
アンジェリークはきょとんとしてロザリアを見上げている。
実際、アンジェリークには、なぜロザリアがこのドレスを着ることに反対なのか、全く理解できないでいた。
ドレスとして気に入らないと言うわけではなさそうである。
それだけに、アンジェリークは不思議でならなかった。
「ふーむ、そんなにこのドレス、気に入らない?」
「・・・そう言うわけではありませんわ。」
「えー、だったらどうして反対するの?ロザリア、すごく似合ってるのに。」
「わたくしは、いいの。問題は・・・。」
小首を傾げたアンジェリークにロザリアの瞳がキラリとひかる。
「守護聖様方よ。」
益々わからないとアンジェリークは首を傾げ、オリヴィエはぷっと吹きだした。
「どこが危ないの?」
「・・・あんたって、ホント、何もわかってないのね。」
溜め息混じりのロザリアに、アンジェリークの頬がぷーっと膨れあがる。
「ま、ロザリアの気持ちも分からないではないけど。年に一度の夜じゃない。私も協力するからさ。」
窘めかけたオリヴィエにロザリアはここぞとばかりに食い下がった。
「どう、協力していただけますの?」
「そうだねー。要は、不埒者がアンジェリークに手を出せなきゃいいわけだから・・・。」
オリヴィエは少しばかり考え込んでいたが、やがて「これなら、どう?」とひとつの案を持ちかけた。
「ハロウィーンの夜なら、夢の領域だからネ。」
「・・・わかりましたわ。」
画して、天使達のハロウィーンが幕を開けることとなる。

黄昏時の聖殿に、広い鍔の帽子を目深に被り、大胆なカットの黒いドレスを纏った魔女がふたりやってきた。
一人はサバト用の仮面を小粋に構えている。
もう一人は片腕に毛色の変わった白猫をぶら下げ、もう片方の手には空っぽの籠を持っている。
執務室の前に立ち、ココンと軽く扉をノックすると、待ちかまえていたかのようにその部屋の主が現れた。
「Trik or Treat!(お菓子をくれなきゃ、悪戯するわ。)」
かわいい魔女の無邪気な声が部屋に響く。

「ほう?」
「・・・で?」
「え、ホントにいいのかい?」
「ふふっ。そうなのですか?」
「フッ・・・望むところだな。」
「喜んで受けちゃうよ。」
「あん?おめーが悪戯?」
「あなたの悪戯なら受けてみたいですね〜。」

妖しい色を秘めた瞳がアンジェリークを見つめ、さり気なく細腰に手がかけられた。
と、その瞬間。
「天使にあだなす不届き者は、薔薇の香りに酔うほどに、闇夜の明かりとなりて灯れ!」
凛とした声が響きわたり、魔女の足下にオレンジ色のかぼちゃが転がった。

ハロウィーンの夜、飛空都市の聖殿にひとつ、またひとつと明かりが灯っていく。
アンジェリークとロザリアが聖殿の廊下を振り返った時、ただひとつ、夢の守護聖オリヴィエの執務室を除いて、ハロウィーン名物ジャックランタンが各守護聖の執務室の入口に憮然と輝いていた。
「ま、今夜一晩の夢だからさ。」
魔女の腕の中で、カラフルなメッシュの入った白猫がにゃおんと啼いた。

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