新年宴会
 世は幕末、泣く子も黙る新選組にも平等に新年はやってくる。
 新年といえば、新年会。新年会とくれば隠し芸大会。と、言う訳で、一番隊組長沖田総司と平隊士神谷清三郎のふたりはコンビを組んで何かをすることになっていた。これまでのところ、圧倒的に神谷の女装姿を望む声が高く、平等であるはずのくじ引きもそのための八百長が行われたらしいという噂が立ったくらいである。この八百長の件に関しては、鬼副長の土方が渇を入れたため立ち消えとなったが、かえって信憑性が増したくらいだ。ともあれくじ運悪く当たってしまったふたりは、何かを余興として披露しなければならなくなった。
 こうなると意地になるのが清三郎の悪いところである。ちなみに、彼の本名は「富永セイ」、歴とした女子である。なぜ彼女が新選組にいるかはここでは省くが、その性格のおかげで毎夜、総司とセイは獅子舞の練習に励んでいた。
 縁起物で威勢がよいということで選んだのだが、どうも皆が望んだのとは方向が違っているため、どこでどうはめられたのか、清三郎の負けん気をカタに、いつの間にかセイは芸子姿で舞うことになってしまっていたのである。
「神谷さん、そんなことしてもしもあなたが女子だとバレたりしたら…」
 総司としては気が気がではないのだが、バレる事ばかりを心配するものだから、セイはへそを曲げてしまった。こうなると清三郎は意地でもバレずに芸子姿で舞ってみせると言い張り、総司の心配をよそに遊郭の明里のところへ踊りの練習を口実に泊まりがけで行ってしまったのである。折しも、セイが「お馬」になったからちょうどよいタイミングではあったのだが…。

 やがて、新年会当日。芸子姿では大人っぽすぎるからとの明里のアドバイスで、小町娘の黒留め袖で現れたセイの可憐な艶やかさに一同呆然と杯を落とし、やんやの喝采で総司との獅子舞を楽しんだ。
 余興が終わればあの美しいセイがこの宴の中に加わる、と誰もが値踏みしていた。しかし、そこは明里、打つ手はしっかり打っている。
「清三郎はんは、ここ数日、舞子のカツラで頭痛がひどうおます。皆はんにはお楽しみのところでしょうが、これで今日のところは堪忍してくれはらしませんか。」
 明里にやんわり言われ、彼女からも袖を引かれたセイは、思いっきり顔をしかめて見せた。
「副長、これ、本当にいたいんですよ〜」
「土方さん、私からもお願いしますよ。みんなの要望通り、神谷さんは女子姿で舞ったんですから、今日のところはこれで休ませてあげてください。」
 土方も総司からもそこまで言われては無理に引き留める訳にも行かず、明里の言葉に従って神谷を解放した。ついでに明里の部屋まで送っていくよう総司に命じて。こうして最大な楽しみは奪われたが、一同セイの艶姿を見たことで満足することにし、またすぐに宴たけなわとなった。

 さて、こちらは明里に部屋へ案内された総司とセイ。
「…カツラって、本当に大変なんですね。」
 美しい女子姿のセイを見て、総司はまともな言葉が出てこない。彼がかつてセイの女姿を見たのは「新選組に残る、残らない」を賭けてのわずか小半時の間だった。あのときは少女のあどけなさの方が印象に残っているが、今目の前にいるセイはすっかり大人に成長した美しい女性だった。
「あれ、うそです。」
 セイが笑った。
「だって、半分は地毛ですもん。ちょっと簪が重いけど、このくらいは平気です。」
「そ、そうだったんですか。」
「…おかしいですか?」
「いえ、よく似合ってますよ。その、なんていうか…明里さんに感謝しています。みんなの前から連れ出してくれて、こうしてふたりきりにしてくれたんですから。」
「え?」
 訳がわからず後ろにいるはずの明里を振り向くと、彼女の姿はとっくの昔に消えている。当然、御茶屋の特別な部屋とくれば…隣の閨には一つ布団に枕が二つ。真っ赤になったセイに、総司は真剣な目で「いやですか」と尋ねた。総司とふたりきりで過ごすのは初めてではないけれど、まさかこんな時に、こんな時間がもてるとは思わなかった。それも女子の晴れ姿のこの時に。セイの目からほろりと滴がこぼれ落ちた。
「そ、そんなにいやでしたか?」
 あわてた総司の手を取って、涙に濡れた頬に当てて包み込んだ。
「いいえ、嬉しいんです。こんな風に想って頂けて。」
 総司はそれを了解と受け取ったのか、セイをふわりと抱き上げて、閨に入っていった。
「本当にきれいですよ。私以外には誰にも見せたくない。」
 耳元でささやかれたのを最後に、セイは総司に翻弄され、朝、目覚めたときには彼の腕の中にすっぽりくるまれていた

おわり
<あとがき>
歴史好きでありながら、幕末はその生臭さ故にずっと避けていた時代でした。それが何を思ってか、会津の照姫に興味を持ち、会津繋がりで新選組にはまりました。新選組もののコミックは、少年誌、青年誌、少女誌問わず、驚くほど大量に出ています。最初に読んだのは、「るろうに剣心」(和月伸宏 )で、「無頼」(岩崎陽子)に続き、斉藤一ものへと流れていきました。沖田総司に興味を持ったのは、「無頼」を読んでからで、両者が美味しく活躍しているコミックということで「風光る」に注目。
世は何度目かの新選組ブームですが、現在も少女誌で長期連載されているのはこれしかありません。少女コミックゆえに、純然たる男の世界を描いていないところが私の琴線に触れたのでしょう。例え男の世界であろうとも、主人公が女性でなければこれほどに惹かれることはなかったろうし、妄想ブツが誕生することもなかったに違いありません。
本編でのセイの恋は、まだまだ前途多難です。
仮に成就しても、歴史の壁をどうするのか、興味深く見守っています。
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