青海国の魔術師

海神の贈り物(前編)

 青海国では年の瀬に浜辺で大きな篝火をたく。
 焚き物になるのは、「海神の贈り物」と呼ばれる流木などの漂着物だ。
 人々は、この「海神の贈り物」に願いをこめて篝火のなかに投げ入れる。海神はその炎の明かりを見て、人々の願いを知るのだという。
 また、篝火にあたる人間たちが喜ぶほど、海神の恩寵は深くなると言われていた。

 青海国の姫君は浜辺に向かっていた。
 嵐の去ったばかりの空は青く澄み渡っており、爽快な気分になる。浜辺には多くのものが打ち上げられているだろう。
 一年で最後の夜にたく篝火の薪となる流木を集めるのは主に子供達の仕事だ。寒くなって、海で泳ぐことができなくなると、子供達は流木集めを始める。もっとも流木とは言っても、「木」は少なくて、薪となるのは船の残骸だったり、乾いた海草だったりする。 ちなみに、この姫君の名前「リーシャル」は古い言葉で「海神の贈り物」を意味する。冬に大きな嵐が去った朝に生まれたからというのが、その名の由来だ。半年前に義母となった女性は、すてきな名前ねと言うが、本人は木っ端や海草と同じ扱いかと少々不満だった。おまけに、実の父親は彼女が幼い頃、母親はどこにいるのかと尋ねると、お前は赤ん坊の時に浜辺に流れ着き、散歩中の父親に拾われたから母親はいないんだと真面目な顔で答えたものだ。そして、ご丁寧に名前の意味まで教えてくれたのである。なるほど、それで、漂着物、すなわち「海神の贈り物」かと納得したのだが、後で祖母に父親が怒られるのを見て、それが全くの嘘だったことを知った。それから、真相を祖母に教えてもらったのだが、しばらくの間は、こういう性格だから父は母に捨てられたのだと思い込んでいた。あたらずしも遠からず。円満離婚だったとはいうが、性格が合わなかったことは事実だ。今度こそ、円満な夫婦生活を送って欲しいと青海国の姫君は心から願っていた。
 浜辺に出たリーシャルは、ちょろちょろと動き回る子供達のなかに大柄な男がまじっているのを発見した。青海国唯一の現役軍艦の船長だった。リーシャルの義理の母、ルシアド帝国第五皇女の輿入れの際、共に青海国へやって来た人物の一人だ。もともとは民間の商船の船長だったが、皇女に抜擢されて、彼女の編成した海軍の艦隊司令官を務めたこともあるらしい。今も一応、軍人扱いになっているが、本人にも周囲の人間にもその認識はなかった。よって、呼び名も艦長でなく「船長さん」が定着していた。
 おーいと呼びかけて、手を振ると、すぐに男は気付いて、手を振りかえした。
 将来、優秀な船乗りを確保するためと称して、喜んで子供達に船の仕組みや操り方を教えている男は子供達によく懐かれている。また本人も子供好きなのだろう。髭面で、熊のようだというのに、子供達が怖がることはない。
「…船長さん、何かいいことあったんでしょ」
 子供をそれぞれの腕にぶら下げている男に近付くなり、リーシャルはそう言わざるを得なかった。もともと、いつも機嫌がよさそうにしているが、この日は、とりわけ気分絶好調の様子だった。
 新造艦を造るという話は聞いていない。しかし、そういう話以外に、この人物が大喜びするようなことをリーシャルは思いつかなかった。
「ん、わかるか?」
 満面の笑みを浮かべて応じられ、リーシャルは何度も頷いた。
 冬だというのに頭のなかに春が来たかのようだ。
「何があったの?」
「んー、そりゃちょっと言えないな」
 へらりと笑って船長は子供達を軽く振り回した。子供達が歓声をあげる。 
「口止めされてるんでな」
「えーっ。けち」
「けちなのは俺じゃなくて、ファルだ。あいつに口止めされてんだ」
「隊長さん?」
 リーシャルは思い切り眉を寄せた。
 ファレン・スール隊長は、皇女の直属部隊で陣頭指揮をとっていた女騎士だ。船上にあっては切り込み隊長となる。たまに城の守備隊に稽古をつけてやっているが、格が違うことは見ただけで分かる。数年のうちに、「魂伐鬼」、「鮮血魔」など帝国周辺にとどろいた異名が西大陸にも広がるだろうという噂だ。
 船長さんが有頂天になるくらい嬉しいことで、隊長さんが口止めしないといけないようなことって何だろう。
 何か船長さんが隊長さんの弱みを握ったってことだろうか。
 しかし、その場合は、隊長さんのことだから、口止めなんて生ぬるいと、二度としゃべれなくするような気もするのだが。
「ファルの許可が出るまで、悪いが教えられん」
 殴られたくはないからなと笑う船長をリーシャルは恨めしげに見遣った。
 いつもぼこぼこ殴らせているくせに。人の好奇心を煽っておいて、教えられないなんて、ずるい。
 だが、教えられないというなら、探り出せばいいことだ。
 リーシャルの見ている前で、またもへらーっと船長が笑った。ついつい口元が緩んでしまうらしい。重症である。
 船長は口は堅いが、隠し事は下手だ。
 ある程度、調べを付けて、かまをかけてみよう。
 そう決めると、リーシャルは流木拾いはやめて、港に向かった。


 ひとまずは、隊長にあたりをつけてみようと、リーシャルは港一おいしい料理を出すと評判の店に向かった。何故、そこなのかというと、陸にいる間の隊長の下宿先がその店だからだ。おまけに、部下の一人、シオナも相変わらずそこで料理修行をしていたりする。彼女は未だに夢を諦めていない。他の二人の女騎士とともに「三悪鬼」と呼ばれるほどの凄腕なのだが、好きな人のところにお嫁に行くという実にかわいらしいまともな夢を持っている。
 店の戸をくぐり、予想どおり、隊長の姿を発見したリーシャルは声をかけようとして止まった。お気にいりの窓際の席について、果物を食べている姿はいつも通りだが、見るからに不機嫌な気配をびしばしと放出していた。
 命が惜しければ、声をかけてはいけない。
 つつつっと横歩きして、リーシャルはそのまま奥の厨房に向かった。
 厨房ではエプロンをつけ地味な恰好をした華やかな美貌の娘が、鍋を掻き回していた。
 本来、厨房を仕切っている親子は材料を仕入れに出ているのだろう。鍋をかき回すくらいなら、この不器用な女騎士にもできる。
「こんにちは、シオナさん」
 声をかけると、シオナは振り返っていらっしゃいと笑顔を向けた。料理ができなかろうと、並の男より強かろうと、彼女に憧れている若者達がいることをリーシャルは知っている。
「ねぇ、隊長さん、どうしたの?」
「隊長ね…わからないのよ、朝からあの調子で」
 恐ろしくて理由も聞けないのよとシオナはため息をつく。
「朝から?」
「ええ。朝食をとりに来た時は、もう、あの状態」
「ゆうべは?」
「ゆうべは船で賭事大会があるからって、船に泊まったんだけど。ファーに聞いても、大負けしたわけでもないし、誰かと喧嘩したわけでもないって言うのよ」
 皆、不可解に思っているらしい。
 賭事大会か……隊長がイカサマしているのを船長が見抜いたとか?
「船長さんは、すっごく上機嫌だったけど」
「いつものことじゃない、それは?」
「ううん、いつもにまして」
 シオナは形のよい眉を寄せた。
「おかしいわね、隊長が不機嫌な時に、あの人がそんな上機嫌でいられるはすがないのだけど」
 なぜなら隊長に遠慮無く八つ当たりされるからだ。少なくとも、隊長の前で機嫌よさそうにしていると、むかっ腹が立つとこづき回されるので、上機嫌な顔はしていられない。
「…隊長さんの弱みを握ったとかで、船長さんが喜ぶなんてことは?」
「ないわね」
 これ以上ないくらい、きっぱりとシオナは断言した。
 確かに船長は人の弱みを握って喜ぶような人間ではない。
 イカサマを見抜いたという可能性はないとみていいのだろう。
「うーん。船長さんが隊長さんに口止めされるような嬉しいことって何か思い付く?」
「隊長が口止め?それも珍しいわね。仕事以外では、そんなことするような人じゃないのに」
「そう言えばそうだね」
 普通の人間なら言わぬことまで、ばっさり言ってしまうのが隊長だ。隠し事をするのを今まで見たことがない。
 二人揃って首を傾げたが、答えが出るわけでもない。
「はやいところ、機嫌直してもらわなくちゃ困るのよね」
 シオナがまたも溜息をつく。
 隊長が船長以外の人間に八つ当りすることはないが、単に機嫌が悪いというだけで周囲に及ぼす影響は大きいのだ。何かやって怒らせないだろうかと、皆、びくびくするのである。びくびくしないのは船長くらいのもので、いつも八つ当りを一身に引き受け、緩衝材となっている。
「ファーは店の方かな?」
 隊長の部下の一人は暇な時は元料理長、もとい参謀役の商いの手伝いをしている。料理ができるようになるより、商売を覚える方が楽だと言って、騎士が廃業になった時に備え、自分で店を開く準備をしているのだ。この青海国では今のところ騎士の活躍の場があまりないのだ。
「多分ね」
 ファーのところに行くなら、これを持って行ってとシオナに酒瓶を渡された。
 昨夜遅く、へべれけに酔ったファーがシオナの部屋に押しかけて、そのまま泊まって行ったのだが、その際、この酒瓶を置き忘れたのだという。
「こんなもの部屋に置いてたら、私が大酒飲みに思われちゃうじゃない」
「見られたらまずいような人がいるの?」
 思わず言ったら、ほおをつままれた。これが答えらしい。
 シオナまで不機嫌になったら大変なことだと、リーシャルは笑ってごまかすと、出入り口に向かった。「猛獣」を刺激しないように、静かに歩いたつもりだったが、呼び止められた。
「なに、隊長さん?」
 動揺を悟られまいとリーシャルは足をとめ、笑顔を向けた。
「リウ・ソイレスは目を覚ましたか?」
 リウは魔術師だ。彼は、五日前、近海に現れた怪物魚の退治をして以来、昏々と眠り続けている。魔術師が長時間眠るのは大きな魔術を使った反動だそうだ。
「まだだけど。何か用があるの?」
「ああ。目を覚ましたら、聞きたいことがあると伝えておいてくれ」
 どこか疲れた様子で女騎士は前髪をかきあげた。
 この仕草は何か考え事をしている時の癖だと船長に教えてもらったことがある。
「了解」
 魔術師に相談しないといけないようなことなんて何だろうと、またも好奇心を駆られたが、さすがのリーシャルも自己防衛本能は持っている。そそくさと危険地帯を離れた。
 船長の上機嫌の原因で、隊長の不機嫌の原因。
 そして、魔術師に相談せねばならぬこと。
 …さっぱり、見当がつかない。
 リーシャルはさらなる情報収集に乗り出した。

 中央大通りから横道に少し入ったところに、その店はあった。本来、店の主は交易を手掛け、小売はしないはずなのだが、暇だからという理由で大陸から輸入した雑貨などを店頭に並べて売っている。
 リーシャルが顔を出した時、店主は何やら店の奥で勘定をしていた。
「こんにちは、サリドさん。何してんの?」
 顔を上げて、リーシャルの姿を認めると男はにやりと笑った。
「ゆうべの賭金の分配だ」
 どうやら元締めはこの人だったらしい。
 リーシャルはその表をのぞきこんだ。
 一番儲けたのは、元皇女付き医師のイーフェらしい。隊長も船長も中程の「成績」だったようだ。損もしなければ儲けてもいない。
「ん?その酒はイーフェ秘蔵の果実酒じゃないか」
 サリドがリーシャルのかかえた酒瓶を目にして言う。
「えっ。…ファーの忘れ物だって聞いたんだけど」
「あいつは手癖悪いからな」
 大方、勝手にくすねてきたんだろうと苦笑する。
「それなら、これ、イーフェさんに返した方がいい?」
「ああ。そうしておかないと、そのうちファーに毒を盛るかもしれん」
 元皇女付き医師は、この近くで開業している。
 情報収集がてら、届ければいいだろう。
「ファーは?」
「隣の島まで配達に行った」
 どうやらしばらくは戻って来ないようだ。いずれにせよ、へべれけに酔っていた人物の記憶はかなりあやしいものかもしれない。
「ねぇ、サリドさん。ゆうべ、船長さんと隊長さんに何か変わったことあった?」
「ヴィクとファルか?いつも通りだったぞ」
 どうかしたのかと不思議そうな顔をする。
「船長さんの上機嫌の原因で、隊長さんの不機嫌の原因。それでもって、魔術師に相談しなければならないようなことって、何かわかる?」
「なぞなぞか?」
「そんなとこ。船長さんにいいことあったらしいんだけど、それが何かは隊長さんに口止めされているからって教えてくれないの」
「ほう?…なるほど」
 義母の参謀役はにやりと笑った。
「わかったの?」
「まあな。多分、そうだろうというだけだが」
 さすがは、参謀を務めるだけのことはあるとリーシャルは本気で感心した。
「何?」
「んー、俺の口から言うのはちょっとな」
 ファルに殺されたくないし、と半分は冗談めいているが、残り半分は真剣な口調で言って、サリドは肩を竦めた。
「サリドさんも、強いんでしょ?」
 とても参謀役にも凄腕にも見えない、中年一歩手前の男であるが、頭も腕も侮れない人間だと義母から教えてもらっている。
「リジュには勝てるが、ファルには負ける」
 義母の護衛騎士だったリジュは、今は城の守備隊長に任命されて、せっせと隊員を鍛えている。彼は剣技なら隊長に次ぐ腕を持っていると聞いていた。
「それに、多分、俺が口を滑らせたら、皇、いやいや、王妃様の機嫌も損ねるだろうよ。個人的な事柄を他人が言いふらすものじゃないってな」
 そういう点は厳しいからなと唇の端をつり上げて笑う。
「義母上の?」
 ますますもって分からなくなり、リーシャルは頭を抱えた。
「…仕事絡みじゃないんだよね?」
「仕事とは関係ないな。まあ、ファルの不機嫌の理由は、大方、仕事に支障が出るってところだろうが」
 自分の仕事に心から喜びを覚える奴だからなと言うサリドは楽しげだ。
 ちなみに予定されている女騎士の仕事は航路の安全の確保、すなわち、海賊の掃討であった。
 隊長さんが海賊討伐しにくくなるようなこと?
 ううっと唸るとリーシャルは恨めしげにサリドを見上げた。
「そんなに頭使って探り出すようなことじゃないぞ?」
「だって」
「本当にシャル王女は好奇心が強いな」
「強すぎる好奇心は身を滅ぼすって言いたいんでしょ」
「いや。滅ぼされないように心身を鍛えればいいだけのことだ」
 あっさりとサリドは応じる。
 なんだか、同じようなことを父上にも言われたなとリーシャルは眉根を寄せて、記憶を探った。。
 行動力があるのは、大いに結構だが、その行動によって引き起こされる様々な事柄を対処できるだけの器量を持てとかなんとか。
「まあ、俺ができる助言は、基本に戻って『人間関係を把握すること』だな」
「人間関係?」
「そう。それから、魔術師が目覚めない限り、口止めは解かれないってことだ」
 手っ取り早く、知りたければ、なんとか魔術師を起こすことだなとサリドは言うと、計算の仕事に戻った。
 ヒントをくれるのは、ここまでらしい。
 諦めて、リーシャルは店を出た。
 人間関係?
 船長と隊長と魔術師。
 どうつながっているんだろ。
 船長と隊長はなんのかんの言って、四六時中、一緒にいるけれど、この二人と魔術師はそれほど仲良しではない。仲が悪いわけではないものの、船を出す時にしか、三人が一緒になることはない。
 眉間にしわを寄せたまま、リーシャルは医師のもとに向かった。

 ほっそりした青年医師は笑顔でリーシャルを迎えた。
「ちょうどよいところにいらっしゃってくれましたね、姫君」
 何事かと思えば、薬草の種をさやから取る仕事を手伝えというらしい。
 いいけどねと思いながら、リーシャルは抱えていた酒瓶を渡して椅子に座った。
「おや、これはてっきりファーに飲まれてしまったと思っていたんですが」
 無事に帰って来て何よりですと嬉しそうに言いながら、青年は酒瓶を奥の戸棚にしまった。一瞬、見えただけで、戸棚には趣味で集めている竜魚の頭蓋骨と一緒に、ずらりと酒瓶が並んでいた。結構な酒好きらしい。
 リーシャルは篭から乾燥したさやをつまみとって割りながら、先程、サリドにしたのと同じ質問をイーフェにもぶつけてみた。
「さて…見当もつきませんね。私も、あの二人との付き合いはサリド殿程、長くありませんし」
「そうなの?」
「ええ、サリド殿は皇女に雇われる以前から、あの二人とはつき合いがありましたからね。しかし、隊長とつき合いが一番長いのは王妃様ですし、王妃様に聞かれるのが一番早いと思うのですが。それに、何より私は船長殿に嫌われていますからね」
 イーフェは首を傾げて答えた。
「え?船長さんにも嫌いな人間がいたんだ」
 彼は非常におおらかな性格だ。何を言われても、逆上するようなこともないし、たいていの人間とはうまく付き合っている。
 くすくすと青年医師は笑った。
「まあ、嫌われているというのは大袈裟ですけど、気に食わないのは確かだと思いますよ」
「どうして?」
「私が隊長の手当をするからです」
 隊長は凄腕だが、それでも激戦になれば多少の怪我はする。普通だったら、何度もあの世にいっていてもおかしくないような修羅場をくぐり抜けて来ているらしい。
「それのどこが気に食わないの?」
「手当するには体に触れるでしょう?医師とはいえ、他の男が触るのは気に食わないらしいんです」
 そういうことは気にしないように見えるんですけどねとイーフェが笑う。
 しばらくリーシャルの思考は空転した。
「……えええーっ!?あの二人って、そういう関係なのっ?」
 思いきり驚いたリーシャルに青年医師は不思議そうな顔をした。
「ご存じなかったのですか?」
「だって、そりゃあ、仲はいいなとは思ってたけど…」
 ひょっとしなくても、自分の目は節穴なのかもしれない。
 そういう感情が介在するなど思いもしなかった。
「私も最初は気付きませんでしたからねぇ。どうして、船長殿に嫌われるのか、分かりませんでしたし」
 分かったら分かったで、面白くて、つい意地悪してしまったんですがと楽しそうに話す青年を見て、リーシャルは少しばかり船長に同情した。
 隊長はあの性格だ。誰にべたべた触られようが、邪魔にならない限り、気にも留めないだろう。そして、邪魔だと思ったら、誰であろうと同じように、それこそ船長もごろつきも同様に振り払うはずだ。
「サリド殿から聞いた話では、十年来の付き合いだとか。ある意味、とても納得がいくんですが、またある意味では全く納得できないんですよね」
 確かにそうだと大きくリーシャルは頷いた。
 非常に親しい間柄だというのは大いに納得できるが、男女の仲だというのは納得しかねる。
 恋愛というものは、思っていたよりも奥が深いものらしい。
 自分もいつかは、この恋愛とやらを経て無事に結婚までこぎ着けることができるのだろうか。なんだか、自信がなくなってきた。
 王位を継がないために、嫁に行くのがリーシャルの人生計画だ。
 ぱちんとリーシャルの指先でさやがはじけた。
 サリドさんは人間関係を把握しろって言ったよね?
 隊長と船長は、本当だろうかと思うけど、一応、「恋人同士」。
 隊長さんの仕事を海賊討伐とした場合、それができなくなるってことは、怪我することもなくなるわけで、船長さんが喜ぶのも分かる。
 でも、その理由は何か分からないし、それにどうして魔術師が絡んでくるのかも分からない。
 …魔術師に海賊討伐をさせるってことかな?いや、でも、基本的に人間相手には魔術を使わせないって義母上も言ってたし。
 リウさんの人間関係って、何かあったかな?親兄弟はいないって言ってたし。
 考えながら、リーシャルは、ひたすら、さやを割り続けていた。

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