不覚

presented by 華月様


「今日こそは、決着をつけてやる!!」
 水色の髪を逆立て、鼻息を荒くしながら王宮の渡り廊下を突進していく姿は、まるで猪のような勢いだった。
 そんな彼…皇太子であるセイリオス=アル=サークリッドの向かう先は、親友であり一番の側近でもあるシオン=カイナスの執務室。
 彼がこれ程までに、感情を出して怒りを露にすることは滅多にない。
 あるとしても、それは極々少数の限られた人物だけ。
 まして、王宮の通路などで皇太子殿下が怒りも露に今にも駆け出さんばかりに歩いている等と、彼にしてみれば見せたくはないものなのだ。
 そんな彼…セイリオスがここまで怒っている理由はただ一つ。
 シオンとディアーナとの交際についてである。
 はっきり言って、ディアーナは容姿・性格供に可愛いし、天然ボケな処も少女の魅力として充分輝いていて何ら問題はない。
 問題があるとすれぱ、彼女が恋をした魔導師にある(Byセイル)。
 確かに、クライン随一の魔導師と言われるだけはあって魔導にたけており、政務処理・判断力もずば抜けている。
 しか〜し、問題なのは彼の私生活にあった。
 セイリオスが見ているだけでも、今までシオンの周りに女の存在がなかった事は一度もない。
 しかも、大抵は数日の内に違う女がシオンの傍で微笑んでいた。
『本気の恋なんて、この世にあるのか俺には疑問だね。』
『女っていうのは、男の欲望を満たすだけの存在だと俺は思っているしな。』
などと、言っていた男に、可愛い妹が…
 世間知らずで純真な心を持つ、ディアーナが惚れてしまった事は、セイリオスは悪夢を見ているかの様だった。
 いや…
 きっと、シオンが趣向を変えて、ディアーナをたぶらかしたに違いない!
 そう、考えてセイリオスは何度もディアーナにシオンとの付き合いを止めるように言ったのだが、逆にディアーナの恋心に火を付けた結果となってしまった。
 シオンに至っては、
『以前は、本気の恋なんてないとか言っていたが、姫さんと出会ってやっと分かったよ…』
 等と、ぬかしている始末(byセイル)
 確かに今までの様に、数日で冷めてしまうものでもなく、他の女の姿も見えない。
 だからと言って、この先シオンの病気(?)が再発しない等と言いきれるかセイリオスは不安であり疑問でもある。
『殿下… ディアーナが決めたんだからさ、その…』
 ディアーナの友人であり、セイリオスの婚約者でもあるメイが、躊躇いがちにセイリオスを宥め様としても馬耳東風。
『だから何なんだ?君はシオンの味方なのか?』
『そ〜いう問題じゃなくて、』
『どういう問題なんだ?』
『『・……』』
『もういい!! 殿下の分らず屋〜〜っ!!!!』
『… 全く、妹を心配しての事なのに、何故ここまで言われなければならないんだ。』
 と、まぁ恋人とも喧嘩をしてまで、妹姫を溺愛してしまう彼はもはやシスコンを極めてしまったといってもいい。
 そうこう回想している内にやっとシオンの執務室まで辿り着いてしまった。
「ふふ、覚悟はいいか?シオン…」
「ん〜っ、とっくにokだけど?」
「?!」
 背後からいきなり声を掛けられ、不覚にもセイリオスは飛び上がてしまう程驚いてしまった。
「おいおい、大丈夫か?」
「い、何時から私の後ろにいたんだ?」
 動揺を必死に隠そうとするのだが、声が上ずってしまう。
「ん〜っ、そこの角からだが?」
「・・・・・・」
 セイリオスはばつの悪い顔をさせながら、それでも当初の目的は忘れなかった。
「この際だ、はっきり言わせてもらうが… ディアーナとの交際は認めない。」
「ふぅ〜ん、そう。」
「…それと、ディアーナとは会うことも禁止する、いいな?」
 言うことだけを言って、セイリオスはすっきりしたのかそのままシオンに背を向けて自身の執務室へと戻ろうとする。
 ーが…
「俺は姫さんと、一ヶ月後結婚する許しを国王陛下のお許しを頂いているんだが?」
「?!」
 思いも掛けなかったシオンの言葉に、セイリオスは再びシオンへと視線を移すと、さこにはシオンが婚姻許可書を手にしてニンマリと微笑んでいる姿があった。
「なっ、父上が?!」
「まぁ…あまり頼みたくは、なかったんだが俺の親父と供に陛下に願い出たらあっさりとOKが出たわけ。」
 先手必勝、ディアーを得る為ならば勘当した相手にさえも平気で頭を下げられる…当然だろう?
と、でも言いたげな瞳でセイリオスを不敵な笑いを浮かべながら見ているシオンに、セイリオスは脱力感を覚えた。
 そうだ…この男は目的を達する為だったらどんな事でもやり遂げてしまう…それがどんなに困難な事でも。
 そんな大切なことを忘れていたとは、まさに不覚だったといえよう。
 普段のセイリオスだったら、相手の先の行動まで見通せる程の洞察力を持っていたのだが、今回は愛しい妹絡みの事だった為かその洞察力は錆付いてしまっていたらしい(笑)
「……」
 そのまま凍りついたかの様に動かないセイリオスに追い討ちをすけるかの様に、シオンは囁いた。
「妹を大切にするのも分かるが、恋人も大切にしないと逃げられちまうぜ?」
「…どういう意味だ?」
「メイが荷造りして、魔法研究院へと歩いていくのをさっき、見たぜ?」
「?!!」
 そういえば、最近ディアーナの事ばかり考えていて恋人であり婚約者であるメイの事は頭にはなかった。
 あの喧嘩以来、まともに話したり会ったりしていない事に、今になって気が付くとセイリオスは真っ青な顔で再び凍り付いてしまった。
「おいおい、早く追いかけなくていいのか?もしかしたら、異世界へと帰っちまうかもしれないぜ?」
「!!!!!!」
 シオンの言葉を聞くや否や、セイリオスはそのまま研究院へと駆け出していった。
「頼んだぜ〜、未来のお義姉様♪」
「あれでは少しお兄様が可哀想なのでは?」
 シオンの執務室から緋色の髪を持つ、セイリオスの最愛の妹であり、シオンの恋人であるディアーナがひょっこりと顔を出した。
「ん〜っ?じゃあ何か?姫さんは俺と結婚出来なくても良かった訳だ。」
身を屈めてディアーナの瞳を覗き込みながら意地悪く言うと、ディアーナは可愛らしい唇を尖らせた。
「やっぱりシオンは意地悪ですわ!」
 そう言うとふいっと、顔を横に向けてしまった。
「ごめんごめん♪ジョークだって♪♪」
 そう言うと、横に向いていたディアーナの顔を正面の自分の方に向かせると、愛とおしむかの様に優しいキスをした。
「…シオン…」
 そうしてディアーナを自分の胸へと引き寄せると、又とんでもない事を言い出した。
「これでメイとセイルの仲を取り持てば、俺達の仲をあいつがとやかく言うことはないだろうな♪」
「…シオン…」
 ディアーナは呆れ顔をしながらも、ちょっと名案かな…と思ってしまった。

 こうして、一ヶ月後皆に祝福されながらシオンとディアーナの壮麗な結婚式が催されました。
「ディアーナを泣かせたら、今度こそ許さんからな…」
「ちょっ、殿下〜っ、晴れがましい日にそんな顔をしないでよ…」
 結婚の誓いを立てる二人の後ろには、眉を潜めるセイリオスとそんな婚約者に溜息を吐きつつも結婚式に勘当して涙を浮かべているメイの姿がありましたとさ♪

おしまい

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