女王と騎士

第三部 夢と現-百騎夜行編- (48)

 和平交渉の席へ連れて行かれる第二王子リークェスをファギルはひらひらと手を振って見送った。時々、リークェスの足元がふらついているのは父王が死んだという衝撃によるものではなく二日酔いのせいだ。調子に乗って飲ませ過ぎたようだとファギルは少しばかり反省した。しかし、殺されるかもしれないなどという不安のなかで一晩過ごすよりはましだったはずだ。
 ファギルは晴れ渡った空を見上げた。
 戦闘のどさくさにまぎれて南陽王国の騎士に襲われることもなく、顔見知りに目の前で死なれて厭な思いをすることもなく、無事に戦が終わってなによりだ。
 晴れ晴れとした気分で伸びをしていたファギルは背筋にぞわぞわするものを感じた。
 まさか、この感覚は。
 いやだなと思いつつ頭をめぐらし、見えたものにファギルは肩を落とした。
 見間違いであってほしいが、自分が見間違うはずがない。
 見張っているかのように、エセルともう一人の騎士がその人物の後からついてくるとなれば、否応なしに現実を認めざるを得ない。
 このままとんずらしようかどうかと逡巡しているうちに、間合いに入ってしまった。もはや逃げるわけにはいかない。背中を見せたら斬られてしまう可能性がある。そういうことをやりかねない男なのだ、あれは。そして、だらだら血を流す自分にちょっとふざけただけなんだがと笑いながら言い放つだろう。諦めてファギルは父親が近づくのを待った。
 どこで調達したのか、暁王国の将軍は見慣れぬ立派な軍馬に乗っていた。追いはぎでもしたんじゃなかろうかとファギルは頭の隅でちらりと考える。
 見覚えのない子供を抱きかかえるようにして前に乗せているが、またどこかの女に産ませた子供を引き取ってきたか、拾ってきたかのどちらかだろう。
 ようっと手をあげ声をかけた父親にファギルは不機嫌な声で応じた。
「紅砂王国のラク・アザス攻めはどうしたんだよ」
 暁王国の戦神と呼ばれる男は面白そうに眉を動かした。
「もう情報が届いたのか」
「いや。王妹殿下の推測。この機会を利用して攻め落とすだろうって。その様子じゃ、もう落としたんだな」
 現在の紅砂王家は「最後の砦」といわれるラク・アザスをさほど重視していない。「危機」が迫れば、その有用性を思い出すだろうが、まだその時機ではない。そして今回の戦で注意はさらにそれている。いまのうちに「最後の砦」を落としておけば、後々、攻め入るときに楽だろうし、紅砂国王も度肝を抜かれて面白かろう。
 それはいかにもアルク・デュリルが考えそうなことだった。ただ、そう言われればそう思うが、それを予測するのは難しい。息子のファギルでさえ、アシュリーズに示唆されるまでは思いつかなかった。おそらく、彼女とアルク・デュリルは戦についての考え方が似ているのだ。だからこそ、アルク・デュリルは彼女を暁王国に取り込みたがったのだろう。
「ああ、これが戦利品だ」
 アルク・デュリルはにやりと笑って、目の前の子供の頭をぽんぽんと軽くたたく。
「子供をもの扱いすんな。……魔法士ってわけでもないな?」
 紫の目を丸くして自分を眺めている子供のまとう気配にファギルは眉をよせた。なにかの力を感じるが騎士でもなければ、魔法士でもなさそうだ。顔立ちだけなら大陸西部の人間に見えるが、服装や装飾品は明らかに東部のものだった。
「目利きなのは母親譲りだな。だが、お前にはがっかりしたぞ。早々に戦を終わらせないよう森緑王国側につけばよかったものを」
 冗談めかしてアルク・デュリルは言うが、半分以上は本気だ。参戦する気満々でやって来たのだろう、それも森緑王国側に加わるつもりで。
「おっさんを喜ばせるために戦をしてたわけじゃない」
 ファギルがなにか言う前に、エセルが平坦な口調で言った。もう一人の騎士も同感なのだろう、さも迷惑そうな顔をしている。見覚えがあると思ったら、森緑王国で傭兵を集めていた男だ。確か、あとから聞いたところでは、エルードという名前だったはずだ。
「戦利品っていうからには、それ相応の能力もってるんだろ?」
 好奇心をそそられたのか、子供を眺めながらエセルが尋ねた。
「まあな。紅砂王国のラク・アザス都主直系といえば想像はつくだろう」
「人を狂わせる『呪い』ってやつ? うさんくさいな」
「よく効くらしいぞ。試してみるか?」
 挑発めいた言葉に、ふんっとエセルは鼻で笑った。
「そんなにウェイ殿に相手してもらいたいっていうんなら止めないけど」
「……今、ウェイ殿はきわめて機嫌が悪いですからね。憂さ晴らしに殺されてもらうと後始末が面倒です」
 やれるものならやってみろとばかりに、口々に南陽王国の騎士達は応じる。あの恐ろしい騎士を見慣れていては、暁王国の戦神など恐れるに足りないのだろう。そして、ちゃっかり自分達は相手をしないと宣言している。
「ふむ。俺が殺されるのはかまわんが、こいつを巻き添えにするわけにはいかんか」
 あいつは子供だろうと容赦しないだろうからなと自分のことは棚に上げてアルク・デュリルは言う。
「こいつが他の国を見てみたいというから連れてきたんだが、なにかあったらこいつの母親が大騒ぎするからな」
 その言葉にファギルはぴんときた。
「また、手を出しやがったな」
 アルク・デュリルという男は、なんとも思ってない女が泣こうが喚こうがおかまいなしだ。多少なりと気がある相手にしか配慮というものはしない。
「向こうから言い寄ったんだぞ、お前の子を産むことに決めたって」
 悪びれずに答える父親に向かって、はああとファギルはこれみよがしな溜息をついた。世の中、変わった女が多い。
「というわけで、お前は義理の兄になるから面倒みてやれ」
 そう言うや否や、アルク・デュリルは子供をほいと放り投げた。
「こんの、くそ親父っ」
 叫びながら慌てて子供の体をファギルは抱きとめた。自分が受け止めると分かっているから、やることではあるが、むかつくことこの上ない。
「ちょっと、ジラッドのやつに挨拶に行ってくる。急がないと、帰ってしまうからな」
 じゃあなとアルク・デュリルは手を振った。ジラッドというのが、宵闇公国の第二公子だということをファギルが思い出したときには、すでに馬を走らせ始めている。
「おまえが行け」
 エルードに言われ、それをまた妥当な判断とみなしたエセルが面倒だとこぼしつつも、すぐさま近くにいた主を失ったらしい馬の背に飛び乗って後を追った。
「くそ親父がっ、人の恋路を邪魔すんじゃねぇ!」
 本来の「お目当て」を父親に連れ去られた形になったファギルがそう叫ぶと、エルードがなんとも奇妙な表情になった。
「……なんだよ、その瀕死の病人を見るかのような目は? 見込みがないって言いたいのか?」
「いや……。あれに対してそんな感情を持つなど、つくづく気の毒に思えただけだ」
 エルードはまったく物好きなとでも言いたげだ。多分、本当に重病人だとでも思っているのだろう。
「うるせー」
 放っておけとばかりに言い放つとファギルは腕の中の子供を抱えなおした。
 七、八歳というところだろうか。きょとんとした顔でファギルを見上げている。
「悪いな、チビ、あんなくそ親父で。当分の間は、おとなしくしとけよ。ここにはあの親父よりも怖いやつがいるんだからな」
 東方語で通じるんだろうかと思いつつ話しかけると、子供はこくんと頷いた。
 よしよし、これならまともに育ちそうだ。
 それからファギルはいくつか質問をして名前や年齢などを聞き出した。都市の外を、よその国を見てみたいと言ったのは本当だったらしい。母親と離れていることも平気なようだ。父親がさらってきたわけでもないと確認し、ファギルはひとまずほっとした。
「ひとつ、聞いておきたいのだが」
 感心したようにやり取りを眺めていたエルードが口を開いた。
「なんだ?」
「その子供の能力がどんなものか知らないが、将軍は戦に利用すると思うか」
 少し考えてからファギルは正直に答えた。
「親父なら、やりかねないな。だけど、させない。少なくとも、こいつが自立できる年になるまでは」
「それならいい」
「なんだよ、急に」
「子供を利用するようなら、いっそここで始末してもらおうかと思っただけだ」
 そういう人間を王妹殿下は許さないからなとエルードは真顔で言う。
 この騎士は、子供の頃に南陽王国に送り込まれたと聞いた。だから、この子供のことが気になったのだろう。
「そうか。……なんか安心したな、親父を始末できる人間がいるってわかったら」
「普通は逆じゃないか」
「親父は普通じゃないからな。誰か腕ずくで止められる人間がいると思うと安心するんだ」
 ありがたいことだとファギルは心の底から思っていた。
 一歩間違えれば、自分の父親も方向は違えども森緑国王のように暴走しかねない。そして、自分では残念ながらそれを止められない。
 エセルとはろくに話す暇もなかったが、あんな騎士がいるということを知ることができただけでも収穫だった。
 そんなことを考えるファギルはどこまでも前向きな人間だった。


 南陽王国の騎士らが忙しく動き回っているなか、手持ち無沙汰な様子で剣の手入れをしていた中年の騎士は、ライカの目には傭兵のように見えた。だが、オルトはその騎士に向かって隊長と呼びかけ、きっちりした礼を取った。オルトがふさげているわけでなければ、この騎士が南陽王国の近衛騎士隊長らしい。
「存分に羽根を伸ばしてきたようだな」
 騎士はオルトに向かってそう声をかけた後、ライカを見やり真面目な顔で言った。
「嫁をみつけてきたか」
 ライカはひゅっと息を吸い込み、喉まで出かかった言葉をどうにか押し留めた。
 いくらなんでも、近衛騎士隊長に罵声をぶつけるのはまずい。
 そのライカの反応に気付いてか、中年の騎士は片頬だけで笑った。
「どうやら違ったようだな」
 絶対、分かってて言っている。ライカはそう確信した。
 オルトはといえば、まさかぁとへらへら笑っている。
「俺の命綱ですよ、命綱」
 ふむと騎士は頷いて、しげしげとライカをあらためて見た。
「なるほど。陛下のおめがねには叶うであろう」
「女ってのが、ちょっとどうかと思ったんですけどね。クルス・アディン殿と一緒に仕事をすることになりますし」
「その点は大丈夫だろう。結局のところ、陛下は着飾らせ甲斐のあるのは男よりも女だとおっしゃっているからな」
 ……なんの話?
 二人のやり取りにライカは眉を寄せた。そんなライカを見て、オルトがにんまりと笑う。
「ライカちゃん、神殿から逃げ出す手引きをするのと引き換えに俺のお願いを聞いてくれるって約束したよな?」
「……ええ」
 いやな予感を覚えつつ、しぶしぶながらもライカは認めた。
「んじゃ、俺からのお願い。南陽王国の宮廷付き魔法士になって」
「なっ、そんなこと……」
「ほかの人間に迷惑かけることもないし、いい話だと思うんだけどな。ライカちゃん、王命に反して脱走してるし、いくら国王がかわったっていっても神殿に帰るわけにはいかないだろ?」
 うっとライカは言葉に詰まった。
「あの王子様なら、神殿に帰れるように取り計らってはくれるだろうけど、それって王子様にとっては不利だよな。王妹と取り引きしたってばれる可能性が出てくるわけだし。それにライカちゃんも居心地悪いだろ」
 オルトの言っていることは正しい。そもそも自分は南陽王国の騎士と通じていたとされているのだから、その自分を第一王子がかばえば余計な詮索を招くきっかけにもなりうる。
「……だけど、宮廷付き魔法士を任命するのは女王陛下でしょう?」
「その顔と魔法力があれば大丈夫」
 自信満々にオルトが応じる。
「その点は私も保証しよう。陛下の御趣味はよく存じ上げている」
 やり取りを見守っていた近衛騎士隊長がかすかな笑みを浮かべて言い添えた。南陽王国の女王は趣味で人を登用するのかと言いかけてライカはやめた。女王については、あれこれと噂を聞いている。そのひとつが、女王の近衛騎士は出自の知れぬ者達ばかりだというものだ。オルトを見れば、その噂の真偽ははっきりしている。
「かなり待遇はいいと思うぜ。それに、約束は約束だもんな」
 ライカは黙った。
 確かに、約束はした。
 早まったことをしたのだろうかと自問してみるが、答えは出ない。はっきりしているのは、後悔だけはしていないということだ。
「約束は果たすわ」
 きっぱりとライカは言い切った。
「それでこそ、雷と裁きの女神に仕える女神官様」
 満足した、どこか得意げなオルトの顔を見ていると、思いきり殴りたくなった。そんなライカの心情などおかまいなく、オルトはちょっと知り合いに挨拶してくるとライカを近衛騎士隊長に預けて歩き去った。
「不服そうだな」
 拳を握り締めてオルトの背中を睨みつけているライカに、近衛騎士隊長が声をかけた。
「……南陽王国に行くこと自体には、さして抵抗はありません。ただ、なんだか騙されたような気がして」
「それを言うならば、はめられた、であろう」
 その通りだ。オルトは騙してこそいないが、彼の思い通りになるよう仕向けた。とはいえライカ自身が招いた事態なので、怒るに怒れない。憤りをもてあましているライカに近衛騎士隊長が言う。
「嘆くには及ばぬ。宮廷にいれば、オルトをはめる機会は何度でもある」
 思わず、ライカは中年の騎士をまじまじと見つめた。極めて真面目な顔で冗談を言っているようには見えない。
「……部下がかわいくはないのですか」
「無論、かわいい部下であれば、かわいいものだ」
 当たり前のことを聞くなと言わんばかりだ。
 なるほどとライカは妙に納得した。
 こういう人でなければ、オルトのような人間の上官は務まらないだろう。
 なにやらほっとする半面、南陽王国の宮廷に対し、いいようのない不安をライカが感じたのも事実であった。


 南陽王国と森緑王国間の和平交渉は淡々と速やかに進んだ。もともと前夜のうちに大まかな打ち合わせをしていたということもあるが、森緑王国側の人々に異議を申し立てる気力がなかったことが最大の理由だろう。森緑王国の次期国王ルヴェスは、ほぼ全て彼の一存で決定を下したが、反対の声をあげる者はいなかった。不満の色を見せたのは、彼の弟くらいのもので、その弟も捕虜という立場にあっては発言力がない。
 少なくとも、悪い為政者にはならないだろうというのが、次期森緑国王に対するアシュリーズの見解だった。今後は弟と協力して国を治めていくことだろう。
「アシュリーズ様」
 呼ばれて振り返ると、エルードと、いつの間にやら子供連れになっているファギルが近づいてくるところだった。
「アルク・デュリル殿は、宵闇公国第二公子へ挨拶に行くとおっしゃって去られました。エセルが同行しております」
 その報告にアシュリーズは頷いた。
「こちらには好都合だな。陛下からは何故足止めしなかったと文句を言われそうだが」
 どさくさに紛れて息の根を止めておけばよかったものをとアシャラーナなら言いかねない。敵側についていたならば、それも可能であっただろうが、戦の終わった今となっては手遅れだ。もしどうしてもと言うならば、薬師にでも頼む方が確実だろう。シィンならば証拠を残すことなく毒殺できそうだ。それ相応の利があると認められれば、ヴェルシュも許可するだろう。
 そんな物騒なことを考えつつアシュリーズはファギルに抱かれている子供に目を向けた。ぎゅっとファギルの服をつかみ、不安げな、それでいて敵意のこもった目をアシュリーズのやや後ろ、すなわち、ウェイに向けている。
 どこか見覚えのある顔だとアシュリーズが首をひねっていると、ぼそりと低い声でウェイがなにか呟いた。それは、古代語で「歌い手」を意味する言葉であり、また、ある特殊能力保持者、歌声で人の精神を惑わす者達の呼び名でもあった。それでアシュリーズは見覚えがあるはずだと納得した。
「その子はラク・アザスの都主家の血筋か?」
 なんで分かるんだとファギルが目を丸くした。
「確かに都主の直系とは聞いたけどな」
 やはりそうかとアシュリーズは頷いた。ラク・アザスの呪いの正体は、都主家の特殊能力なのだ。そして、その子供がこの場にいるということは、かの都市は陥落したことを意味する。そうでなければ、都主一族は、約定によりそこから離れることはできない。
「直系ならば、イル・マァリの娘だな」
 かつてラク・アザスを訪れた際に知り合った人物の名をあげると、子供は目を瞬いた。
「母様を知ってるの」
 東方語で子供が尋ねる。わずかに警戒を解いたようだ。
「知ってる。子供のときに二度ほど会った。父親はユク・ナァルか?」
「そう。でも、父様は亡くなったわ」
「……そうか。体が弱かったからな」
 記憶にある、線の細い少年の顔を思い浮かべながらアシュリーズは呟いた。彼は成人できないかもしれぬとまで言われていたが、特殊能力を保持するために彼らの婚姻は生まれる前から定められていた。愚かなことだと養母が忌々しそうに言ったのを覚えている。
「だから、母様は今度は頑丈な男の子供を産むって言ってるの」
 それで親父か、とファギルが天を仰ぐ。
 アシュリーズはいかにもイル・マァリが言いそうなことだと小さく笑った。彼女は、自分たちのもつ特殊能力を打ち消すほどの力がある「血」を望んでいた。
「それで、ファギルは未来の義妹の世話を押し付けられたわけか」
「すでに未来じゃないかもしれないってとこが怖いんだけどな」
 ファギルはげんなり顔だ。過去にも、しばしば父親の女癖の悪さに迷惑を被ってきたのだろう。
「ラク・アザスの『呪い』については一部では知れ渡っている。利用しようと考えるよからぬ連中も多いから、気をつけたほうがいい」
 忠告と脅し半々にアシュリーズが言ってやるとファギルは顔をしかめた。
「それって、すぐに連れて帰ったほうがいいってことだよな?」
「そのほうが安全だ」
「……親父のやつ、俺を確実に帰国させて戦の後始末を押し付けようって魂胆かよっ」
 ようやく国を離れられたばかりだったのにとファギルは言っているが、すでに彼が国を出てから半年近く過ぎているはずだ。通常の王族は外交以外の理由で国外をうろつくことはない。
ふと思いついてアシュリーズはファギルに彼の父親が長期間放浪するようになったのは、ここ二、三年ではないかと聞いてみた。
「ん〜、そう言えばそうだな。昔っからちょくちょく出かけることはあったけど、一ヶ月以内には帰ってきてたな」
 やはりそうかとアシュリーズは頷いた。おそらく、アルク・デュリルは息子が自分の代役を務められるようになったからこそ、平気で国を留守にするようになったのだ。ファギル自身はそう思っていないようだが、アルク・デュリルは彼を高く評価しているらしい。
 年々ふてぶてしくなっているってことかよとファギルはぶつぶつ呟いている。
 彼はアルク・デュリルほど好戦的でもなく、人も悪くない。彼に留守を預かってもらう方が周辺諸国は助かるというものだ。
 王都に戻ったら、アルク・デュリルが宵闇公国まで足を伸ばすように仕向けてみるか。
 ファギルにも、ジラッド公子らにも、さぞかし迷惑がられるだろうことを、淡々とアシュリーズは考えていた。